『耳鳴り難聴 自力でよくなる! 耳鼻科の名医が教える 最新1分体操大全』(中川雅文、坂田英明、秋定健・著/文響社・刊)は、長年、耳鳴りに悩んできた私にとって、希望の書です。耳鼻科の名医たちが、耳鳴りと難聴について、懇切丁寧に説明してくれます。
著者は次のお三方。国際医療福祉大学医学部耳鼻咽喉科教授で、同大の耳鼻咽喉科部長の中川雅文、埼玉医科大学と昭和女子大学の客員教授であり、川越耳科学クリニック院長でもある坂田英明、そして、川崎医科大学耳鼻咽喉科学教授であり、同大の総合医療センター副院長をつとめる秋定健、この3人の先生方が、耳鳴りとは何か? 難聴をどうやって治すべきか? など、耳鳴りで悩む人たちが知りたくてたまらないことを解説してくださいます。耳鳴りと難聴に悩む人にとって、心に灯りがともる本だと思います。
耳鳴りに苦しむ
私の耳鳴りは、忘れもしない、2003年の1月5日に始まりました。なんでもうろ覚えの私が、日付けを正確に言えるのには、理由があります。その日、京都金杯という競馬のレースを観戦するため、京都競馬場に出かけていて、馬券もチョッピリ取ったので、よく覚えているのです。「今年も春から縁起がいいや」と喜んだとき、暖房機の音に混じり、蝉が鳴くようなジージー音が両耳から響いてくるのに気づきました。そのときは、「興奮したからだろう」とか「寒くて疲れたのだろう」と、あまり気にしませんでしたが、夜になっても音は止まらず、ひどくなる一方でした。
数日間は我慢していたのですが、耐えきれず病院に行きました。うるさくてどうかなりそうだったのです。お医者さまは丁寧に診察してくださった後、「競馬場から直行して欲しかったなぁ、早いほど治りがいいんですよ」と残念がりながらも、点滴など、適切な処置をしてくれました。私は私で、このうるささから逃れるためなら、何でもしようと、毎日さぼらずに病院に行きました。薬も真面目に飲みました。
幸い、右の耳のジージー音は消えました。しかし、左は相変わらずで、ジージーはキーンキーンとなり、耳が詰まったような感覚に苦しむようになりました。夜も眠れず、いつも疲れているように感じます。ひどい時は、耳の裏にアブラゼミがとまっているのではないかと思うほどのジージー音です。結局、それから19年が経つ今も、左の耳は四六時中、鳴り続けています。音自体は低くなったり、高音になったり、大きくなったり、小さくなったりを繰り返してはいるものの、常時、鳴りっぱなしなのです。
なんとかこの苦しみからのがれようと、いろいろな病院に行きました。紹介された鍼や灸やマッサージも試みました。どこも私の話を辛抱づよく聞いてくれて、様々な処置をしてくれましたが、「残念ながら治らないですね」というのが、結論でした。「耳鳴りで死ぬわけじゃないし。気にするとかえってよくないんだよ」と、言われたこともあります。
最初はなんとかして治そうと必死だった私も、やがて「私が神経質すぎるのかもしれないな。何か気を紛らわせたほうがいいんだわ」と自分に言い聞かせ、最近は「人生とは耳が鳴ることだ」と達観し始めました。
耳が聞こえにくい
ところが、よる年波も加わったのか、最近どうも耳の聞こえがよくありません。周囲が静かだときちんと聞こえます。ところが、テレビがついていたり、雑踏の中だったりすると、相手が何かを言っているのはわかるのですが、何を言っているのかわかりません。毎日のことだけに、夫も私との会話に疲れるのでしょう。「さっき言ったよね。聞こえてないんじゃない?」と、心配するようになりました。仕方なくまた耳鼻科に通い始めましたが、「確かに聴力は少しは落ちてるけど、難聴というほどではないですね。まあ、加齢かな」という診断でした。
耳が聞こえにくい状態で、インタビューの仕事を引き受けたり、会議に出席するのは無責任かと、私は悩み始めました。それでも、既に約束した仕事は、なんとかこなさなければなりません。私は必死でした。ところが、焦れば焦るほど状況は悪化していきます。最近は日本のドラマでさえ字幕つきで観たくなります。コロナ禍のため、マスクをする生活が始まってから、ことは深刻度を増しました。相手の唇が読めないので困るのです。
救いの書
そんな私にとって、『耳鳴り難聴 自力でよくなる! 耳鼻科の名医が教える 最新1分体操大全』は、救いの書となりました。耳の不調の問題にどうつきあうべきか、はっきりくっきり書いてあるからです。
耳の不調の問題は、音とどうつきあうかにかかっています。(中略)音が大きすぎたり、音を長く聞きつづけたり、耳を休ませていなかったりといった悪い条件がそろうと、皮膚のやけどと同様、取り返しのつかないダメージが耳に及ぶことになります。(中略)耳に静寂の時間を与えたりすることが大切なのです。
(『耳鳴り難聴 自力でよくなる! 耳鼻科の名医が教える 最新1分体操大全』より抜粋)
耳の火傷……、確かに……。振り返ってみると、私は静寂の中に身をおいて生活していません。家事をするときも、掃除機の音に負けない音量で音楽をかけています。夜はつけっぱなしのテレビの前で寝ています。夫はテレビをつけたままでないと眠れないのです。そうした生活が、耳にダメージを与えているとは夢にも思いませんでした。知らないうちに、私の耳は「火傷」になっていたのかもしれません。
既に起こってしまったことは仕方がないとしても、なんとか自分でできることをしようと決心しました。『耳鳴り難聴自力でよくなる!耳鼻科の名医が教える最新1分体操大全』には、10種類の「耳トレ」と2種類の内耳エクササイズが紹介されているので、早速やってみました。簡単にできますし、特別な器具も必要がないので、すぐにとりかかりました。
始めよう、耳トレ
耳をトレーニングするために試みたい体操には次の10種類があります。
1 耳を上方と後方にそれぞれ引っ張る
2 耳の裏をほぐす
3 寝たまま首を倒す
4 寝たまま股関節をほぐす
5 4つ数えながら呼吸する
6 起床時、耳をすます
7 側頭筋をほぐす
8 声を出して笑う
9 胸鎖乳突筋をさする
10 1分間耳ツボマッサージをする
さらに、内耳のエクササイズは以下のようなものです。
1 30分に一度は椅子から立ち上がる
2 1分間しこをふむ
さらに詳しい解説は、『耳鳴り難聴 自力でよくなる!耳鼻科の名医が教える最新1分体操大全』に詳しく書いてありますので、参考にしてトライしてみてください。私は読後すぐに体操を始めました。効果の程は、これから追々わかると思いますが、耳鳴りが少しよくなったような気がします。
もうひとつ気づいたことがあります。一日中、座りっぱなしで原稿を書いているこの生活を変えなければ、耳鳴りは治らないだろうということです。これまでは原稿を書いている最中に、配達などで玄関のチャイムが鳴ると、仕事が中断されるため、嫌で嫌でたまりませんでした。ところが、今は耳のエクササイズになると考えて、いそいそと走って出るようになりました。かたまっていた体がほぐれるのがわかります。
耳鳴りが完全に消えるのか、難聴を治すことができるのか、それはまだわかりません。けれども、明るい兆しが見えてきたのは、本当です。十分に心と体が軽くなったと実感しています。何よりも、今までの私に足りなかったのは、静寂の中に身を置くことだったと気づくことができました。これからも頑張ってエクササイズを続けます。
【書籍紹介】
耳鳴り難聴 自力でよくなる! 耳鼻科の名医が教える 最新1分体操大全
著者:中川雅文、坂田英明、秋定健発行:文響社
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