本・書籍
2022/4/26 6:15

人生100年時代。あたなはどう生きて、どう死にますか?——『100歳まで生きてどうするんですか?』

知り合いにもうすぐ102歳の誕生日を迎えるおばあちゃんがいる。視力が落ちぼんやりとしかまわりが見えず、また、片方の耳も聴こえなくなっているが、足腰はしっかりしているし、毎日食欲もりもりでとても元気だ。自分で出来ることはやる、「人に頼らない」がおばあちゃんの信条で、よく見えないにもかかわらず手探りで縫い物などをして日々を過ごしてる。彼女は私の目標で、私も健康なまま100歳以上までぜひとも生きたいと思っているのだ。

 

だから『100歳まで生きてどうするんですか?』(末井昭・著/中央公論社・刊)を見つけると、すぐに手に取り、読み始めることとなった。本書はフリー編集者の末井氏が、WEBマガジン「婦人公論.jp」で同タイトルで連載していたエッセイを書籍化したものだ。

日本は世界でもトップクラスの長寿国

日本における100歳以上の高齢者は1991年にはわずか3625人だった。それが30年後の2021年に厚生労働省が発表した100歳以上の高齢者数は、8万6510人にまで増えた。今後もこの数字は増えるだろうから、誰もが100歳まで生きられる可能性がある、というわけだ。

 

著者の末井氏は1948年生まれ。「終活」という言葉が嫌いで、年相応の恰好や振る舞いもして来なかったものの、自分の寿命がチラチラ頭をよぎることもあるという。日本人男性の平均寿命まで生きるとしたら、あと10年も残っていないので寂しい気持ちになるとも打ち明けている。が、もし100歳まで生きられるとしたら、あと27年もあり、そうなると今度は健康でいられるかどうかが心配になってくるとも。

 

そんなことを考え出した頃から、新型コロナウイルスの感染拡大が始まり、テレビを見ていても、目の前に死を突きつけられるようなことが度々ありました。そのような状況の中で、老後の人生をどう生きたらいいのか、老後を楽しく生きるにはどうしたらいいのか、そしていつかは来る死はどんなものなのか、あの世はあるのか、死んだら何もなくなるのかなどなど、自分の過去の出来事を織り交ぜながら書いたのが本書です。「100歳まで生きてどうしますか?」は、自分への問いでもあります。

(『100歳まで生きてどうするんですか?』から引用)

 

死を遠ざけたいのに”生前墓”の不思議

末井氏を有名にしたのは、『素敵なダイナマイトスキャンダル』という本で、映画化もされたのでご存じの方も多いのではないだろうか? 母親が隣家の若い男とダイナマイトを爆発させて心中したという衝撃の事実を綴ったものだ。実母の心中は当時小学校1年生だった彼に大きな影を落としていて、自身の中に拭い去ることができない虚無が潜んでいるという。また、死を遠ざけたいのは、その虚しさから抜け出したいからだとも語っている。

 

ところが、コロナ禍となり、世界中で犠牲者が増えるにしたがって、遠ざけていた死のことを考えざるを得なくなった。

 

仕事もほとんどなく、スーパーに行くことも禁止され、外に出ることは散歩ぐらいしかなくなり、家でテレビをボーッと眺めていると、気持ちがどんど沈んできます。そうすると、死が忍び寄ってくるのです。「お前が死んだら、墓はどうするんだ~」という声が、どこからともなく聞こえてくるのです。

(『100歳まで生きてどうするんですか?』から引用)

 

以前の末井氏は死を遠ざけるためにも、生前墓など想像外だったそうだが、パンデミックの中、自分のお墓のことを本気で考えてみたそうだ。生前墓は縁起がよく、また、相続税が軽くなるメリットもあるようで、建てる人は意外と多いらしい。

 

生前墓を建てると時々見に行ったりするものでしょうか。行ったついでに花なんか供えて、自分で自分の墓参りをするなんて、かなりシュールで面白いとは思いますが。

(『100歳まで生きてどうするんですか?』から引用)

 

「パンデミックと生前墓」と題した項では、死を遠ざけたいのに、墓を建てるという人々の心理に迫っている。

 

定年退職を喜びの日に

100歳まで生きられるとしたら、定年退職で悲観している場合ではない。会社人間、仕事人間だった人の中にはウツになってしまうケースもあるようだが、末井氏は、定年退職の日は自由に生きることの始まりなのだから、本当は喜びの日になるはずだという。

 

会社を辞めた人に対して、ぼくがお勧めの「心身の健康法」は家事です。「家事なんて男の沽券にかかわる」とか言う古臭い人はもういないでしょうけど、そういう気持ちが少しでもあると、老後は生き辛くなります。ぼくも昔は、家事は一切しなかったのですが、やってみると楽しいのです。その楽しさは、やってみて初めてわかることです。

(『100歳まで生きてどうするんですか?』から引用)

 

末井氏は起きている時間の三分の一は家事をしているという。炊事、洗濯、掃除で家の中を動き回っていると、気分はすっきり、さらに足腰の鍛錬にもなるし、ついでに奥さんに喜ばれて家庭円満にもなる。家事なんて……などど思わず、まずは試してみてはいかがだろう。

 

死ぬまで毎日楽しく生きたい

人生100年時代と言われるようになったのは、2016年に出版された”人生100年時代の人生戦略”という副題がついた『LIFE SHIFT』という本がきっかけだろうと末井氏は言う。ロンドンのビジネススクールの教授二人が著者で、長寿時代の良い人生とは、優しい家族と素晴らしい友人がいて、高度のスキルと知識を持ち、心身ともに健康に恵まれ、お金にも不自由しない生活を送ることと記されていて、ビジネス書だから仕方ないとはいえ、末井氏はその定義には意義を申し立てたい気持ちがあるそうだ。

 

「できれば100歳まで生きてみたい」とぼくが思うのは、新しい知識の習得でもスキルアップでもなく、自分がやりたいことだけをして生活しながら、世の中がどう変わっていくか見たいと思うからです。

(『100歳まで生きてどうするんですか?』から引用)

 

一日一日を大事にし、その日その日を面白く感じて生きられれば、その連続が楽しい人生になる。死ぬまで楽しく生きられるのなら、人の寿命はそれぞれだから80歳でも、90歳でも、100歳でも本当はかまわない、と結んでいる。

 

充実した人生を送りつつ、長生きしたいと思うすべての人にお勧めの一冊だ。

 

【書籍紹介】

100歳まで生きてどうするんですか?

著者:末井昭
発行:中央公論新社

「この年になるまで、自分が老人であるとか、いつ死ぬだろうかとか、まったく考えたことがありませんでしたーー」。
人生100年時代といわれる今、飄々と丸裸で綴る、人生、老い、そして「死」。笑って脱力し、きっと生きるのが楽しくなります。

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