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2022/5/4 6:00

行動経済学ブームに火をつけたベストセラー『予想どおりに不合理』

株式投資関連の本を読みあさり、さまざまな動画を見まくっている。ちょっと思うところあって、実践的な知識を身につけるためだ。

投資に本当に役立つ知識とは

毎朝欠かさず経済ニュースに目を通し、株価チャートを見て予測を立て、アメリカの雇用統計の数字をチェックする—なんてことは一切やっていない。“どビギナー”である筆者が株価の動向を読み取ったり、利益を生み出しそうな銘柄を見きわめたりするなんてできるわけがないからだ。ビギナーズラックに恵まれるところまでにさえ達していない。

 

好きな会社、応援したい会社の株を買いなさい。そんなアドバイスに従って、愛用しているヘビーデューティーな腕時計を作っている会社、お気に入りのスニーカーのメーカー、そして在り方がすてきだなと思う会社の株を少額ずつ買う。その程度だ。

 

ただ自分なりにもがく中、これなら活かせるんじゃないかというものを見つけることができた。行動経済学だ。これを基にした興味深い理論モデルを知って、かなり入れ込んでいる。

 

実用的かつ魅力的な行動経済学

行動経済学に関するお勧めの一冊を選ぶよう言われたら、間違いなく『予想どおりに不合理』(ダン・アリエリー・著、熊谷淳子・訳/早川書房・刊)を挙げる。行動経済学は、“経済学の数学モデルに心理学的に観察された事実を取り入れていく研究手法”と定義されている。でもこの本は、そういう学問的な定義からはるかに離れたところに位置していて、まるで「すべらない話」を見ているような感覚で純粋に文章を追っていくことを楽しめるのだ。まえがきにこんな文章がある。

 

この本を通じてのわたしの目標は、自分や周りの人たちを動かしているものがなんなのかを根本から見つめなおす手助けをすることだ。さまざまな(そして、たいてはかなり愉快な)科学的実験や研究成果、逸話などを紹介することがよい道しるべになるのではないかと思う。

『予想どおりに不合理』より引用

 

これまでもやもやしていて、はっきり見えなかったものがすっきりしそうな気がする。

 

ものごとを第三者の目で見る

Ted Talk』でも紹介されているが、心理学および行動経済学の専門家であるアリエリー教授は18歳のころに事故で火傷を負い、3年間の入院生活を余儀なくされた。それまでの日常から切り離された生活を送る中で、当たり前以外の何物でなかったそれまでの行動を第三者の目で見る感覚が養われたという。

 

まるでべつの文化から(あるいは、べつの惑星から)来たよそ者のように、自分やほかの人のさまざまな行動について、なぜそうするのかを考えはじめた。たとえば、なぜわたしには好きになる女の子とそうでない女の子がいるのか。なぜわたしの毎日のスケジュールは、わたしではなく医師に都合よく組まれているのか。

『予想どおりに不合理』より引用

 

この本の目的は、さまざまな行動を通して人間の不合理性を追究していくことにほかならない。不合理性を浮き彫りにすることで合理性の本質が見えてくる。そういう言い方もできるだろう。

 

15パターンのケースワーク

相対性、需要と供給、コスト、ものごとを先延ばしにしてしまう心理…。著者の実体験を通して語られる考察が、全15章で展開される。相対性について詳しく触れられた第1章では、容姿や年収額など比較的優劣・大小を区別しやすい要素を例に挙げながら話が進んでいく。

 

相対性は(相対的に)理解しやすい。しかし、相対性には、絶えず私たちの足をすくう要素がひとつある。わたしたちはものごとをなんでも比べたがるが、それだけでなく、比べやすいものだけを一生懸命に比べて、比べにくいものは無視する傾向がある。

『予想どおりに不合理』より引用

 

第5章では、価格が人間の利己心に歯止めをかけるメカニズムが解き明かされていく。その過程は、次のような文章で示される。

 

つまりこういうことだ。需要の理論はたしかなものである—ただし、値段ゼロを扱うときを除いて。やりとりに金銭が絡まないとなると、かならず社会規範がついてくる。社会規範は人々に他者の幸福を思い出させ、その結果、利用できる資源に負担をかけ過ぎない程度まで消費を抑えさせる。

『予想どおりに不合理』より引用

 

演繹➝実験➝解説という流れに乗せて、実践的な知識がテンポよく盛り込まれていく。難解な学術用語は出てこないし、表現も面白い。だからこそ、「すべらない話」感覚で一気に読み切ってしまった。

 

この本は、特に若い世代の人たちに読んでいただきたい。経済学に興味を持つ人が増えて株式市場への資金流入が多くなり、それに引っ張られて景気が良くなれば、賃金が上がって国際競争力が高まるだろう。国の経済は、人々の気持ちや行動によって強くも弱くもなるのだ。

 

 

【書籍紹介】

予想どおりに不合理

著者:ダン・アリエリー
刊行:早川書房

「現金は盗まないが鉛筆なら平気で失敬する」「頼まれごとならがんばるが安い報酬ではやる気が失せる」「同じプラセボ薬でも高額なほうが効く」-。人間は、どこまでも滑稽で「不合理」。でも、そんな人間の行動を「予想」することができれば、長続きしなかったダイエットに成功するかもしれないし、次なる大ヒット商品を生み出せるかもしれない! 行動経済学ブームに火をつけたベストセラーの文庫版。

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