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2022/6/26 21:00

「乱」ならぬ「ラン」! 戦国時代の合戦を歴史小説家が走ったら!?~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。今では「一気飲みは危険」というのは常識ですが、私がまだ学生だったころは居酒屋に「イッキ」コールがこだましていました。

 

史学科だった私は「イッキ」と聞くと「一揆」を思い浮かべ、「案外、百姓一揆の際、参加者が結束を高めるために酒をグイッと飲んだのが“一気飲み”の始まりかもしれない」と思ったりしていました(笑)。

 

そういえば、「乱」と「ラン(run)」も発音は同じですよね。「応仁の乱」というと焼け野原の京が思い浮かびますが、「応仁のラン(run)」だと少し健康的に感じます。「ウイニング乱」にすると、戦に勝って足軽が喜んで走っているイメージですね(笑)。

戦場サバイバルのカギとなるのは足腰!?

今回紹介する新書は「乱」ならぬ「ラン(run)」する1冊。戦国ラン 手柄は足にあり』(黒澤 はゆま・著/インターナショナル新書)。著者の黒澤 はゆまさんは『劉邦の宦官』(双葉社)や『九度山秘録』(河出書房新社)などの作品がある歴史小説家。同じインターナショナル新書の前著『戦国、まずい飯!』も歴史ファンの間で話題となりました。

なぜ今川義元は信長に敗れたのか?

今回の企画は、自動車や電車といった乗り物は一切使わず、大坂夏の陣、本能寺の変、石山合戦、桶狭間の戦い、川中島の合戦、5つの有名合戦を走って体感するというもの。武将たちがそのときどのように動いたか、移動ルートを史料から調べられるだけ調べて再現しています。なぜその合戦に至ったか、当時の背景もわかりやすく解説されていて、カジュアルな歴史本としても楽しめます。

 

読んでいて、いくら年貢を免除されてもこの戦には参加したくない(笑)と思ったのは第4章「桶狭間の戦い」。当時尾張を統一したばかりの織田信長が、「海道一の弓取り」と謳われ尾張に侵攻してきた今川義元を倒した一戦です。

 

なぜジャイアントキリングは可能だったのか? ルートは清洲城から桶狭間までの約40km。夜明けに「人生五十年」という「敦盛」を舞い終えたあと、たった六騎を連れて清洲城を出立した信長。そのルートを追って、黒澤さんも清州城から熱田神宮を経由して、アップダウンが意外と激しい熱田台地・瑞穂台地を走っていきます。「日差しは容赦なく照りつけ……足も容赦なく削られる」。そして信長が今川義元を襲った尾張丘陵の漆山付近へ。そこで黒澤さんが気づいた、今川義元の敗因とは……?

 

現地を走ることで感じ取れる、武将たちの心理と地理的な罠。命を賭けて戦ったその地は、今では萌えキャラの垂れ幕がかかっていたり、ママが立ち話する横で子どもたちが遊んでいたり……。現代日本と戦国時代のギャップ感も本書の面白さにつながっています。現場を足で捜査する歴史ミステリー的な読み味もあり。

 

章の最初には黒澤さんがどこを走ったのか、ルート地図も掲載されていて、真似して“戦国ラン”をするのも楽しそう。足腰が丈夫でなければ勝者にはなれない! 最近サボっていたスクワットを再開しようと思います。

 

【書籍紹介】

戦国ラン 手柄は足にあり

著者:黒澤 はゆま
発行:集英社インターナショナル

合戦の舞台を、歴史小説家がひた走る! 「手柄は足にあり」という上杉謙信の言葉の通り、戦国時代の人々はとにかく歩き、そして走ることで戦いの中を生き抜いた。戦国武将たちが駆け抜けた戦いの道を、歴史小説家が実際に走り、武将達の苦難を追体験する。彼らは何を思い、そして願いながら、戦場をひた走ったのか? 合戦の現場を足で辿ることで、文献史料を読むだけでは分からない、武将と戦いの実像が見えてくる?

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。