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2022/6/27 21:45

その情報、拡散しても大丈夫ですか?『でっちあげ』に見るデマの恐ろしさ

SNS普及により、情報の伝達速度は飛躍的に上がっていると言われ、情報が相当拡散されることを「バズる」とも言われるこのごろです。けれど、拡散する前に、その情報が真実かどうかを確認しておく必要はあるでしょう。情報の真贋チェックのポイントはどこにあるのでしょうか。

 

デマが広まった事件

でっちあげ』(福田ますみ・著/田辺康平・画/新潮社・刊)は、2003年に実際に起きた教師の体罰事件を基にしたコミックです。教師は生徒が鼻血が出るほど鼻をつねったり、耳がケガするほど耳を引っ張ったりする暴行を繰り返し、曽祖父がアメリカ人だと知ると人種差別的発言を繰り返し、生徒にPSTDの症状が出たというものです。

 

この件で教師は半年間の停職となり、生徒の両親は賠償を求めて裁判を起こしました。しかし、裁判の場で教師は、そのようなことはしていないと全否定し「でっちあげです」と言い切ったのです。そこから少しずつ意外な事実が発覚し始めるという、サイコスリラーのような恐ろしい話でした。まだSNSが普及する前の事件ですが、ここから学べることがいくつもあります。

 

証拠があるか確認する

教師によるいじめであれ、生徒間同士のいじめであれ、学校で起きた事件は、証拠を見つけることが大変困難です。誰もいない教室でいじめたら目撃者はいませんし、多くの教室には防犯カメラもありません。つまり、暴言や暴行が本当にあったかどうかがはっきりしないことが多いのです。

 

近ごろは教師の暴言の証拠を得ようと、保護者が子どもにボイスレコーダーを持たせることもあります。2013年には東京都の小学校で教師が児童を傷つける言葉を放っていた事実が録音され、動かぬ証拠となったのでした。

 

また、子どもがケガを負った場合は、医師の診断書が証拠となります。しかし福岡の教師によるいじめ事件ではケガの診断書も、音声の録音もなかったのに、あたかも事実であるかのように児童の親の言い分が広がってしまいました。情報を拡散する前に、それが事実であるかどうかの確認は必要だったのではないでしょうか。

 

本人の考えを知る

また、この事件の被害者とされた児童は、当時まだ小学4年生であったことから、訴えを代弁したのは両親でした。本人自身の言葉は、なかなか表にでは出てこなかったのです。これもまた問題を複雑にした一因でした。実際、母親が「腹痛がひどく17回も下痢をすることがある」と言ったのを、本人が否定したこともあったそうです。

 

世の中に拡散されている情報のなかには、本人に確かめたわけでもないものも多くあります。ネットでは一度流れた情報はなかなか消えません。デマを広められ、何年も傷つく人もいます。本人が事実を認めているかどうかをチェックしてから拡散することも大切ではないでしょうか。

 

感情で判断しない

福岡の教師によるいじめ事件は、まだ幼い小学4年の生徒に対しての暴行があったとされたため、多くの人が反射的に「なんてひどい」と感じたことでしょう。そのため、ご両親の訴えにウソがあるわけがない、という思い込みも起きたのではないでしょうか。

 

SNSで拡散される情報のなかには、真偽をよく確かめず、感情的に拡散されたものもあります。特に、緊急を要する情報は「早くみんなに知らせなければ」という思いから、確認の手間を省略するケースが見受けられます。けれど間違えた情報を回したら、かえって迷惑をかけてしまいます。ファクトチェックは欠かしてはいけないことなのです。

 

『でっちあげ』には、事実と違う情報が広まっていく恐怖がリアルに描かれています。拡散されたデマが、誰かの人生を変えてしまうかもしれないのですから、私たちは発信の際に、できるだけ慎重であるべきなのです。

 

【書籍紹介】

でっちあげ

著者:福田ますみ・著/田辺康平・画
発行:新潮社

どこにでもあるような街の、どこにでもあるような学校。どこにでもいるような母親と、どこにでもいるような先生。どこにでもあるようなありふれた関係、のはずだった。悪夢の“家庭訪問”まではーー。小さな街で起きた“体罰事件”は全国を駆け巡り、やがて裁判へと発展する。世論の見守る中、正義の鉄槌が下るはずが……。

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