本・書籍
2022/6/28 21:45

80年代のロックキッズの憧れ。横浜生まれのテレビ局TVKを知っているか?

僕は中学生のときに音楽にハマり、現在までずっと音楽を愛している。音楽を聴くことも好きだし、自分で演奏したり作詞作曲をすることも好きだ。

 

音楽にハマりだした中学生のころ、僕が憧れているテレビ局があった。神奈川県横浜市にあるTVK(テレビ神奈川)だ。なぜなら、とにかく音楽、特にロック関連の番組が多かったからだ。

千葉県から神奈川県のテレビ局を受信

中学生の僕は、TVKを見たかった。でも見られなかった。なぜなら僕は東京の東のはじっこに住んでいたからだ。TVKはUHF局のため、別途アンテナを設置しなければならない。中学生の僕にはそんなことができるわけもなく、ただTVKに憧れていただけだった。

 

そして高校生になり、実家は千葉県北西部に引っ越し。そのとき、僕は高校入学祝いにUHFが受信できるアンテナを所望。千葉県北西部でTVKを受信することに成功した。

 

それからは時間が許す限りTVKを見た。「ミュートマジャパン」「ライブトマト」「夕焼けトマト」「ハロー・ジャガー」「saku saku」……。そのほか、洋楽の番組もあって、見まくっていた。

 

さすがに神奈川の放送を千葉県で受信すると、画像などは若干荒かったが、憧れのTVKの番組が見られるのはうれしかった。Mr.Childrenの「君がいた夏」という曲がかかりまくっていたことを覚えている。

 

TVKの命題は「いかにして生き残るか」

横浜の“ロック”ステーション TVKの挑戦 』(兼田達矢・著/DU BOOKS・刊)は、TVK開局50周年にあたり、当時FMラジオ情報誌『FMステーション』で編集職についていた著者が、開局当時ディレクターだった住友利行を始め、関係者へのインタビューを中心に構成し、TVKの開局から2021年現在までを追った内容となっている。

 

本書によれば、TVKは「いかにして生き残るか」が当初の命題だった。以前はVHF帯のみがテレビ放送に開放されていた。いわゆる「キー局」と呼ばれているテレビ局はVHF帯だ。しかし1967年にUHF帯のテレビ放送に開放された。VHFと比べるとUHFは電波の届く範囲が短い。ラジオで言えばVHFがAM放送、UHFがFM放送といった感じだ。そのため、UHFのテレビ局はローカル色が強くなっていった。

 

TVKは1972年4月1日に開局。しかし、東京には主要なテレビ局が集中しており、それらの番組を買って放送しても意味がない。住友によれば開局当時は

 

「テレビ神奈川はどうやって生きていけばいいんだ?」ということを話し合い、考えていかざるを得ない状況だったんですよ

(『横浜の“ロック”ステーション TVKの挑戦 』より引用)

 

という状況。しかも新設のテレビ局ということで人材も揃っておらず、まだ学生だった住友も現場の最前線で働かざるを得ない状況だったという。

 

キー局とは違うアーティスト主体の音楽番組に活路を見出す

そのような状況で住友が目を付けたのが音楽。当時キー局で扱っているのは、歌謡曲や演歌がメイン。そこでTVKはカウンターカルチャーであるフォークに注目し、『ヤング・インパルス』という音楽番組を制作。出演するアーティストは一人(一組)で、曲はフルコーラス演奏。キー局の音楽番組とはまったく異なる構成の音楽番組をスタートさせたのだ。どちらかというとラジオ的なテレビ番組という感じだ。

 

そのような番組は、視聴者はもちろんアーティストにも好評。何せ自分だけの1時間番組を作ってくれる上、思う存分演奏させてくれるのだから。

 

基本的な考え方としてあったのは、出演者に表現の場を与えるということだったんです。

(『横浜の“ロック”ステーション TVKの挑戦 』より引用)

 

制約の多いテレビにうんざりしていたアーティストにとって、「ヤング・インパルス」がどれだけありがたい番組だったのかは想像に難くない。

 

その後、ライブを主体とした音楽番組が始まり、その後アーティストのPVを3時間以上流し続ける番組なども登場。とにかく音楽音楽音楽なTVKは、視聴可能地域外でも話題になる。僕のような感じで、見たことはないけれど「TVKって音楽に強いテレビ局なんだよな」と、強い憧れを抱くロックキッズも多かったはずだ。

 

伝説の音楽番組「ファイティング80’s」

現在はCS放送があり、音楽専門チャンネルもある。そしてTVKもCATV経由で全国で見られるようになっている。開局当時と比べると状況はかなり異なっているが、TVKは今でもロックキッズに多大なる影響を与えているテレビ局だ(もちろん音楽以外の番組もある)。

 

本書には、TVKに縁のあるアーティストのインタビューも多数掲載されている。デビュー前からTVKの番組に出演しているHOUND DOGの大友康平は

 

発展途上というか、これから行くぞ!というバンドやシンガーにとって、あんなにステキでありがたい番組はなかったんじゃないかなと思います。

(『横浜の“ロック”ステーション TVKの挑戦 』より引用)

 

と語る。ここに出てくる「番組」とは「ファイティング80’s」。宇崎竜童がMCで、デビュー当時の佐野元春や、デビュー前のTHE MODS、HOUND DOGなどが出演した伝説の番組だ。僕が一番見たかった番組だが、僕がTVKの存在を知ったころにはもうやっていなかった。リアルタイムで見てみたかった…。

 

TVKのチャレンジ精神を忘れてはいけない

僕はフリーライターとして、さまざまな媒体で原稿を書いている。なかには、立ち上げ当時から参加して15年以上携わっているメディアもある。

 

まだWebメディアというものが浸透していない時代で、どんな原稿を書けばいいのか、どんな企画がおもしろいのか、雑誌との差別化をどうするか、マネタイズはどうしたらいいのかということを、編集部とあれこれ考えながらやっていたのが懐かしい。

 

本書を読んでいたら、その当時の姿とTVKの立ち上げ当時の様子が重なってきた。そして、いつまでも当時の気持ちを忘れずに、常に新しいことにチャレンジしていくことが必要だと改めて強く思った次第だ。

 

【書籍紹介】

横浜の“ロック”ステーション TVKの挑戦

著者:兼田達矢
発行:DU BOOKS

僕たちの音楽はいつもTVKにあったー。『ヤング・インパルス』『ファイティング80’s』『ファンキー・トマト』『ミュージックトマト』『ライブトマト』『saku saku』etc。懐かしい記憶が今、その制作の裏話と共に蘇る!宇崎竜童、佐野元春、大友康平、奥田民生、宮田和弥ほか、貴重なインタビュー掲載!

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