本・書籍
自己啓発
2022/10/27 21:30

最近“だんまり”していますか? じっくり考えること、ことばの重みを実感できる講演録『だんまり、つぶやき、語らい』

わ〜かわいい表紙! と思って手に取った『だんまり、つぶやき、語らい』(鷲田清一・著/講談社・刊)ですが、本屋さんで時間を忘れて読み耽ってしまい「買おう」とレジに向かった1冊でした。

 

この本は、哲学者の鷲田清一さんが2020年10月に愛知県の高校生に向けて講演された内容がそのまま1冊の本になったものです。鷲田さんのやさしい言葉が心に沁みて、高校生だけでなく大人にも読んでもらいたい内容が綴られていました。

 

読み返すたびに「気になる」フレーズが変わる本

『だんまり、つぶやき、語らい』は、高校生に向けた講演の内容を再編集したもの。そのため、難しい言葉は出てこず、1時間もあれば読めてしまうほどのボリュームです。しかし、一言一言が濃い! 言葉のエスプレッソかな? と思うくらいガツン! とくる言葉たちが並んでいます。

 

大きく分けると、3分の2ページくらいが講演の内容で、残り3分の1が高校生からの質問に鷲田さんが回答する対話ページで構成されています。講演のテーマは、本のタイトル通り、だんまり・つぶやき・語らうことについて。一見すると「なんのこと?」と思いますが、読み進めていくことでその意味がわかり、パズルのように答えが導かれていく……そんな本でした。

 

『だんまり、つぶやき、語らい』は濃い言葉がいっぱいあるのですが、繰り返し読むことでどんどん自分の一部になるような感覚が味わえます。最初に読んだときには、だんまり、つぶやき、語らいの意味も理解しないままだったので全てが新鮮! 2度目は全体像を理解した上で読めるので新しい気づきが出てくる。3回目以降は、自分自身の行動を振り返りながら読める余裕が生まれるので、周りの人を思い付かべながら読めるんです。私も気がついたら5回ほど読んでいましたが、読むたびに好きだなぁ〜と思うフレーズが変わっていくので、定期的に読みたくなる本コーナーに置きました(笑)。

 

いま必要なのは「話しあい」より「黙りあい」

現代には、話し方の本や聞き方の本など、コミュニケーションに関する書籍がたくさん出ています。大きく分類したら『だんまり、つぶやき、語らい』もその部類に入りますが、書かれてあることはちょっと違っています。

 

一般的な話し方の本では、「間」をあけないように! とか「すぐ」返事をしよう! と相手を待たせないことが良しとされていますが、鷲田さんは、寺山修司さんの『歴史の上のサーカス』にある言葉を引用した後、以下のように伝えています。

 

いま必要なのは「話しあい」じゃなしに、「黙りあい」ではないか。おそらくいまのたとえばスマホとかSNSなんかでいえば、なにかこう、ことばをいったん呑みこむということがすごく少なくなって、ことばがじぶんに向けられるとそれに反射的にメッセージを返してしまう。

いったん呑み込んで、うーん、と口ごもってしまって、「だんまり」を決めこんで、じぶんなりにそのことばと折りあいをつけようとする、そんなプロセスを経てことばを返すということがない。この「だんまり」、ことばを呑みこむ部分がものすごく浅くなっているんじゃないか……。

(『だんまり、つぶやき、語らい』より引用)

 

自分の行動を振り返ってみても「だんまり」することってほとんどなかったんです。仕事柄、取材することも多いのですが、45分とか決められた時間でどれだけ言葉を引き出すか? そんなことに気を取られて、反射的に言葉を返してしまっていたなぁと反省しました。

 

ず〜っと「だんまり」するのはちょっと怪しい人ですが(笑)、心の中で決めつけてしまったり、「〇〇でしょ?」と話を先に進めてしまったり、言葉を交わすことばかりを考えていたような気がします。言葉を発することだけがコミュニケーションではないはず。たまには、言葉を呑みこんで「だんまり」してみたいと思います。

 

読書は「時空を超えた語らい」

誰かと常に会話しているのなら「だんまり」チャンスも巡ってくるかもしれませんが、なかなかそうもいかないですよね。『だんまり、つぶやき、語らい』でも、高校生からコロナ禍で人との接触ができにくい中でどうしたらいいの? なんて質問が出てきました。鷲田さんは、外に出られないなら、室内でできる読書で解決できるよ、と答えていました。

 

本のすごいところは、会ったこともない、世代もちがうし、生きている時代もちがう人と一対一で向き合える点。「時空を超えた語らい」の場です。ふだんいろんなおつきあいがむずかしくなっても別の出会いのチャンスが得られたと考えられたらいいんじゃないかな。実際の対話と、読書における対話は、そんなに区別しないほうがいいと思いますよ。

(『だんまり、つぶやき、語らい』より引用)

 

「時空を超えた語らい」ってなんて素敵な言葉なんだ! そう思うと、本を読むたのしさ、選ぶ方法も変わってきますよね。

 

友人、家族、仕事の同僚や上司・部下、いろんな人たちと言葉を交わしている今、本当に心地よい「語らい」とはどんなものなのか、たまには立ち止まって考えてみるのも良いかもしれません。

 

個人で情報発信することが当たり前になった今、自分を表現することに困っている人もたくさんいると思います。ちょっとでも悩んでいたら、『だんまり、つぶやき、語らい』で鷲田さんと語らいをしてみましょう。自分にとって気になる言葉は、あなただけのもの! 何度も読んでみることで、自分なりの答えが見つけられるはずですよ。

 

【書籍情報】

だんまり、つぶやき、語らい

著者:鷲田清一
発行:講談社

二〇二〇年十月十五日、コロナ禍のなか愛知県立一宮高校の生徒に向けておこなわれた講演の記録。碩学のあたたかい語りかけと生徒たちの真摯な応答に、読者もぜひ参加していただきたい。

楽天koboで詳しく見る
楽天ブックスで詳しく見る
Amazonで詳しく見る