本・書籍
2022/11/8 21:30

保護したつもりの黒柴が人間に奇跡をもたらす痛快犬小説ーー『迷犬マジック2』

愛犬家の中には感動の犬小説はちょっと苦手……という人が少なくない。ハッピーエンドならいいけれど、最後には犬が天に召されてしまうストーリーが多いからだ。その点、今日紹介する犬小説は辛い別れがないので、涙を流さずに読め、しかも心が温まってくるのだ。

 

迷犬マジック2』(山本甲士・著/双葉社・刊)は、前作で大好評となった『迷犬マジック』の第2弾。迷い犬として突然現れる謎の黒柴を保護し、世話をしているうちに人々に幸せな奇跡が訪れるという物語だ。

 

犬が人間に教えてくれることはたくさんある

小説に出てくるスーパーわんこではなくても、純粋な生き物である犬が私たち人間に教えてくれることはとても多い。私は異国フランスで雌のラブラドールを飼っていたのだが、社交的で人懐っこい犬だったので、彼女のおかげで交友関係が広がり、フランス人の友人が増えていった。つたないフランス語でも関係ないよ、人とは心で付き合えばいい、わが愛犬はそんな眼差しで私に訴えかけていたような気がする。きっと、犬を飼っているみなさんも、うちの子はこんなことを教えてくれた、あんなことを気づかせてくれたと思っているのではないだろうか?

 

では、本題に戻り、迷犬マジックとはどんな犬なのかをざっと紹介しておこう。

 

突如として誰かの前に現れる”謎の黒柴”

中型犬がすぐ後ろにちょこんと座っていた。頭や背中は黒いが、腹や足の先は白い。白と黒の境目は茶色の層がある。黒柴のようにも見えるが、顔つきには少し洋犬の要素もあるように思えた。

(『迷犬マジック2』から引用)

 

見返されても逃げようとしないどころか、出会ったその人の後ろを勝手についてくるので、明らかに人馴れした飼い犬に違いない。しかし、周囲を見渡しても飼い主らしき人影はなく、交番や近所に聞きまわっても飼い主は現れないのだ。

 

赤い首輪をつまんでゆっくりと回した。小さく〔マジック〕と書いてあった。多分、細い油性ペンで書いたものだろう。「マジックって、このコの名前かな」

(『迷犬マジック2』から引用)

 

こうしてこの謎の黒柴・マジックと出会った人々は、保護のつもりでこの犬とひとときを過ごすことになる。すると、その人の悩みや心配ごとが不思議と消えていき、希望の光が見えてくるというほっとするストーリーなのだ。本書には春、夏、秋、冬と季節ごとにマジックとの出会いがあり、それぞれが短編かと思いきや、読み進めていくと、実は登場人物にはつながりがあることがわかる仕掛けになっている。

 

孤独な小学生の男の子との出会い

では、春夏秋冬の4つの物語を、ネタバレにならない程度にざっと紹介してみよう。

 

優秀な警察官だった父親を亡くした小学生の賢助。しばらくは母親と二人暮らしだったが、母親が同級生だったという気のいい男性、重さんと付き合うようになり、家で食卓を囲むようになった。重さんは元ボクシングの選手で、以前、路上でチンピラにいきなり殴られたが反撃せず、パンチをかわし続けていると見ていた通行人が警察に通報、その加害者を連行したのがなんと賢助の父親だったのだ。しかし多感な賢助はなかなか重さんを受け入れられず、会話もほとんどなく、ぎこちない日々を送っていた。そこに、ふいに現れたのがマジックだった。

 

背後に何かの気配を感じ、振り返って「おおっ」と後ずさりした。黒柴ふうの中型犬がすぐ後ろを歩いていた。赤い首輪はしているけれど、ロープにはつながれていない。(中略)「おい、俺は飼い主じゃないから、ついて来てもダメだぞ。そもそもアパートに住んでるんだから、飼えないし」そう言い置いて歩き出しても、やはり犬はついて来た。

(迷犬マジック2』から引用)

 

アパートに駆け込めば犬も諦めるだろうと思ったが、気になって見に行くと、マジックはそこにいて、ここにいるのがあたり前みたいな感じで賢助を見上げていたのだ。そうしてマジックの登場が、賢助と重さんの関係を変え、また交友関係も広がっていくという展開だ。

 

喧嘩っ早いの男との出会い

30を過ぎているのに、すぐにかっとなる性格が災いして冴えない日々をおくる隼。6年前には酔っ払って信号待ちで立ち止まっていた男とぶつかり、悪いのは自分のほうなのに、一発殴ってしまい、傷害罪で現行犯逮捕された経験もある。以来、人を殴ったことはなかったが、最近、職場の現場主任に対し、正当防衛として押し返したらそれが原因でクビになった。そんな隼の前にマジックが現れ、隼のあとをついて来た。

 

「おいおいおいおい、何でついて来るんだよ」隼はかがんで顔を近づけた。「俺は飼い主じゃないよな。さっきちょっと会っただけだろ。さっさと公園にもーどーれーっ」と、公園の方を指さす。すると犬は冷めた目つきで隼を見返し、それからあくびをした。

(『迷犬マジック2』から引用)

 

そのとき隼は、スマホで黒柴の値段を検索して「おっ」と声を漏らした。こういう犬を飼えるのは裕福な家に違いないから、自分が保護すれば謝礼がもらえるんじゃないか。そんな、邪な気持ちでマジックと暮らしはじめた隼だったが、小さな奇跡が次々と起こっていく。

 

警察官を引退した男との出会い

身体にガタが来る前に、徒歩旅行を友人と計画した労。警察官として鍛えていたので還暦を過ぎ、引退したとはいえ、体力にはまだ自信があった。が、直前になって友人が乗り気ではなくなり、労は一人でリュックを背負い、2泊して目的地まで歩く旅に出た。

 

出発して2時間程度だったが、早くも膝が痛み始めた。それでも頑張って一人で黙々と歩いていると、ふいにマジックが現れた。追い払おうとしてもマジックは労の後をついて来る。そして信号機がなく、見通しの悪い交差点を渡ろうとしたとき、急にマジックが前に回り込み、労が足を止めた瞬間に1台の車が猛然と走り抜けていった。危うくはねられるところだったのだ。

 

見上げている犬と目が合った。目を細くしたその表情は、大丈夫か? とでも言いたげだった。「お前、もしかして、危険を知らせてくれたのか?」

(迷犬マジック2』から引用)

 

こうして、マジックは労の旅の道連れとなり、目的地を目指していく。

 

一人暮らしの老女との出会い

最愛の娘、そして孫息子にも先立たれ、孤独に生きる高齢女性のチヨ。近隣の住人からも敬遠されるような、やや無愛想な老女だった。そんな彼女の家の前にマジックが現れた。

 

「どげんした? 飼い主とはぐれたとね?」すると犬は小首をかしげた。さあ、どうでしょう、とでも言いたげな仕草だった。(中略)外に出て前後を見渡したが、犬を探していると思われる人影はなかった。

(『迷犬マジック2』から引用)

 

犬が去ってくれないので、しぶしぶ、餌をやり、散歩させることとなった。すると、これまで声も掛けてくれなかった人々がマジックのおかげで近寄ってくるようになった。チヨの顔に笑顔が戻り、そしてやがては信じられないような奇跡がもたららされることになるのだ。

 

目的を達成するとニカッと笑うような表情を見せるマジックはどこからやってきたのか、次はどこへ行くのかはわからない。が、幸せを運ぶ魔法使いのようなワンコであることは間違いない。読者の気持ちもほぐし、いい気分にしてくれる本書を犬好き、そしてペット好きにおすすめしたい。

 

 

【書籍紹介】

迷犬マジック2

著者:山本甲士
発行:双葉社

謎の黒柴、マジックは“迷い犬”として突如誰かの前に現れる。保護のつもりでマジックと一緒にいると、これまではまったく接点のなかった人との会話が生まれて気持ちが変わったり、未来に少し光が差してきたりする。心配ごと、後悔…胸のつかえがとれずに日々を生きる人々に訪れた、小さな奇跡。読めば気分が一新する、大人気のスペシャルマジック小説、待望の書き下ろしシリーズ第2弾。

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