本・書籍
2022/11/15 21:30

この世に満ちている「落とし穴」に落ちないための自衛の書『邪悪な世界の落とし穴』

「政府あるいは特定の政治団体が、大衆の社会的な態度や行動に影響を及ぼす過程」を意味する“ソーシャルエンジニアリング”という言葉をよく聞くようになった。

この世は罠と落とし穴に満ちている

邪悪な世界の落とし穴』(鈴木傾城・著)は、ディストピア的な視点からソーシャルエンジニアリングを俯瞰する一冊だ。とは言え、単に厭世的な文章が綴られているだけでは決してない。誰でも知っている事実を論拠として積み上げていくアプローチに強く惹かれる。

 

基本的には著者の人気ブログ『ダークネス』から編集・構成されたエッセイ集という趣の一冊だ。冷徹で論理的なトーンの文章を通して、知りたくなかった、あるいはうっすら知っているがあえて確認したくはなかったことが次々と明らかにされていく。まえがきに、本書の絶対的な立脚点を示す次のような一文記されている。

 

もう社会は私たちを守ってくれないのだ。国も企業も資本主義の論理で私たちを突き放す。あなたは、金融の罠や落とし穴に落ちる前に、どんな罠や落とし穴があるかを知っておかなければならない。

『邪悪な世界の落とし穴』より引用

 

日本で暮らしているということは、果たして本当に幸福なのか。読み進めるうちに、そんな思いが生まれる。

 

われわれを待つのはディストピアでしかないのか

章立てを見てみよう。

 

社会がワナを仕掛けてくる

夢が首を絞めてくる

企業が裏切ってくる

グローバル化が牙を剥いてくる

経済が襲いかかってくる

未来が絶望を運んでくる

 

この本が刊行されたのは2017年12月だ。ブログの内容をまとめたものなので、文章が書かれたのはさらに前になる。2022年11月時点で筆者の周囲を見回してみると、ソ連のウクライナ侵攻や歴史的円安、爆上げが止まらない物価と、ディストピア的要素に満ちている。

 

帯にこんな文章が記されている。

 

邪悪な世界が私たちにワナを仕掛ける。それは1つ2つのワナではない。いくつものワナが同時並行に多重に連なりながら続く。

『邪悪な世界の落とし穴』より引用

 

鈴木氏は訴える。ワナとか落とし穴といったネガティブで攻撃的なものは、多層的に重なりながら逃げ場を断つように覆いかぶさってくる。日本の社会情勢そのものが、こういう状態になっている。

 

貯金は危ない?

競争、夢、能力給、グローバル化、リボ払い、格差遺伝…。次々と繰り出される落とし穴の実例は、ごく身近なものから世界経済規模の話まで、大小さまざまなスコープで展開されていく。こんなのはどうだろう。「コツコツ貯金という落とし穴」だ。

 

グローバル化によって賃金は抑制され、貯金は目減りし、金利はほぼゼロに近いパーセントで、国家財政の逼迫から年金や福祉も削減されるとなれば、日本人が次々と貧困に落ちていっても誰も驚かないはずだ。

『邪悪な世界の落とし穴』より引用

 

なのに「ひとつの会社で一生懸命に働いて、コツコツと貯金する」という生き方に、一定以上の価値観あるいは潜在的な正しさみたいなものを見出そうとするメンタリティーはいまだに生き残っている。マジョリティであるとは言わないが、こうしたやり方のほうがより安心な人も一定数存在しているはずだ。

 

パートナーシップ意識の変化

もうひとつ紹介しておこう。「結婚という落とし穴」だ。

 

結婚しないと孤独にさいなまれ、結婚しても束縛を感じ、どちらにしろ現代人はうまくいかない。これは、現代人が模範的な人生の姿を見失ってしまったことを意味する。どちらにしても、今の社会構造のままではうまく生きられない体質になったということだ。

『邪悪な世界の落とし穴』より引用

 

最近は、結婚以前に付き合うという概念が消えつつある。内閣府の2022年版「男女共同参画白書」では、20代男性のおよそ7割、女性のおよそ5割が「配偶者・恋人はいない」という回答を寄せている。また、20代男性のおよそ4割が「これまでデートした人数はゼロ」と答えている。彼女がいないどころか、デートさえしない男子が4割いる。

 

結婚によって生じる束縛感を否定したい気持ちとか、趣味との関わりのプライオリティーを重視する感覚とか、理由はいろいろあるだろう。ただ、結婚に限らずパートナーシップに対する姿勢や価値観も確実に変化しているのだ。

 

さまざまな問いかけ

たとえ明らかに不快であっても、直視しなければならないものがある。そして今の時代には、そうしたものが世の中にあふれかえっている。

 

知らないと勘は働かない。知ると勘が働く。だから、それは憂鬱で気が滅入るような現実であっても、知らなければならないのである。

『邪悪な世界の落とし穴』より引用

 

それでも、きわめて限られた部分しか見ようとしないのか。一歩踏み込んで、毎日見聞きするニュースの裏側を知ろうとはしないのか。今の自分のあり方は当たり前であり、今のままの生き方をずっと続けていくことにまったく疑念はないのか。「こんなもんだろう」という思いを理由に何もしないのはもうやめて、自分から行動したほうがいい。

 

【書籍紹介】

邪悪な世界の落とし穴

著者:鈴木傾城

邪悪な世界が私たちにワナを仕掛ける。それは1つ2つのワナではない。いくつものワナが同時並行に多重に連なりながら続く。競争という落とし穴、時間という落とし穴、夢を持つという落とし穴、楽観的という落とし穴、宝くじという落とし穴、可能性という落とし穴、孤立化という落とし穴……。社会が仕掛けてくる無数の落とし穴を私たちは回避することができるのか。鈴木傾城の人気ブログ『ダークネス』のから抜粋・編集・構成された鋭利な文章集。

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