冬の賞与(ボーナス)の時季が近づいてきました。賞与が支給される会社、支給されない会社、それぞれあると思います。帝国データバンクの「2021年冬季賞与の動向調査」では、12%の会社で「賞与がない」との結果が出ています。ちなみに、私の関与先では、賞与の支給がない会社は約4割です。
支給される会社に勤ていても、支給日と近接する時期に退職される場合、注意しておかないと「賞与がもらえない」という事態になることがあります。賞与に関して「支給日在籍要件」を設けている会社が多いからです。
支給日に在籍していないと賞与をもらえない!?
そもそも賞与制度を設けるかは、会社の裁量にまかされています。会社は必ずしも支給する必要はないのです。ただ、賞与制度を設けるのであれば、会社は賞与について就業規則に明記する必要があります(労基法89条)。
あなたは、会社の就業規則を見たことがありますか? この機会にぜひ見て下さい。賞与の条項に以下のような記載があるかもしれません。
「賞与は、支給対象期間に勤務し、支給日に在籍している者に支給する」
これが、支給日在籍要件です。文字どおり、賞与支給日に在籍している者にしか賞与を支給しない、ということです。
賞与の支給日前に自己都合や定年で退職する労働者であれば、「退職日までの期間分は働いたのだから、少なくともその分は支給してほしい」と考えるでしょう。
一方で、会社としては、「これからも一緒に働いてくれる労働者に感謝と期待を込めて賞与を支給したい」という想いもあるところです。会社の想いと労働者の意識が食い違ってくる場面です。
このような食い違いのため、賞与の支給日在籍要件そのものについて、過去に争いになったことがありますが、判例では有効とされています(大和銀行事件(最高裁昭和57年10月7日判決)。
会社が賞与支給日を故意に遅らせた場合どう対処するか?
そのため、あなたの会社に支給日在籍要件があるのか無いのか、無い場合にはどのような支給方法なのかを確認しておくようにしましょう。そうしないと、期間分は当たり前にもらえると思っていた賞与がもらえない、ということもでてきます。
仮に、支給日在籍要件があったとしても、会社が賞与の支給日をわざと遅らせ、賞与を支給しなかった場合、労働者としてどう対応するかです。
例えば、賞与の本来の支給日は12月10日であるけれども、12月15日に退職することが決まっている労働者に賞与を支給することを回避するためだけの目的で、支給日を12月25日に後ろ倒しにするような場合です。
この場合は、賞与を支給されるという期待が労働者にはありますし、嫌がらせ目的が明白なので、堂々と会社に賞与の支給を訴えてもよいでしょう。このような目的での支給日の後ろ倒しは、争いになった場合、会社の民法上の不法行為が認定される可能性が高いからです。
他方、会社の業績や資金確保の都合などから支給日が延期になる場合は、これら会社の置かれている状況や会社からの説明の有無等にはよりますが、賞与の不支給あるいは支給額の減額措置などは受け入れざるを得ないと考えます。
賞与は、支給するかどうか、支給額をどうするか等、会社の裁量が大きく発揮される場面です。
とはいえ、労働者サイドからすると、賞与は生活設計の中で大きな意味を持っていることが多く、支給基準などが不明確な場合、不安を感じることもあるでしょう。 そのため、労働者としても、就業規則等で賞与の支給基準を確認しておくことは自己防衛として必要なことなのです。
【書籍紹介】
労務管理の基本がぜんぶわかる本
著:三谷文夫
発行:ワン・パブリッシング
働き方改革、DXへの取り組み、新型コロナによるテレワークの進行…企業労務はここ数年で大きく様変わりしています。本書では、豊富な図解と事例で企業労務に関する問題をわかりやすく解説しました。経営者、労務担当者、必携の1冊です!
楽天koboで詳しく見る
楽天ブックスで詳しく見る
Amazonで詳しく見る
(文:三谷文夫)