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2022/12/11 21:00

「咳をしても一人」放哉の句をピース・又吉直樹さんが厳選! 放浪の俳人が人間の弱さを露わにする~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。昔、英語の授業で「くしゃみをした人がいたら欧米では、“Bless you”と声をかけるのが決まり」と聞いて、「花粉症だったら大変だな、ずっと声をかけられっぱなしだ」と人見知りの私はおびえた覚えがあります(笑)。その一方で、同じころ「咳をしても一人」という尾崎放哉の自由律俳句を知り、図書室というシェルターでひとり読書していた私の心に刺さりました。やたらに声をかけられても困るけど、ひとりぼっちでは寂しい。人間ってわがままですね。

 

よりすぐりの自由律俳句110選

 

さて、今回紹介する新書は『孤独の俳句 「山頭火と放哉」名句110選』(金子 兜太、又吉 直樹・著/小学館新書)。2013年に刊行されたムック『人間 種田山頭火と尾崎放哉』(徳間書店)を底本とし、加筆・再編集されたものとなっています。

 

山頭火の選者は俳人の金子兜太さん。戦後、日銀勤務のかたわら俳句活動に入り、現代俳句協会会長などを歴任。テレビの俳句番組でもおなじみでした。

 

そして、今回の新書で新たに放哉の選者となったのは又吉直樹さん。お笑いコンビ「ピース」として活動しつつ、2015年に小説デビュー作『火花』(文藝春秋)で芥川賞を受賞。俳人のせきしろさんと共著で『カキフライが無いなら来なかった』(幻冬舎)も上梓しています。

 

「酔うてこほろぎと寝てゐたよ」

俳句界の重鎮だった金子さんと文学に造詣が深い又吉さん、それぞれがどこに着目し、どのような句を選んだのか。句を読んだだけではわからなかった発見や、解釈の余韻、余白も見えてきます。これが選者を立てている本書のいいところ。

 

さて、55句選ばれている山頭火の句のなかで私がもっとも気に入ったのは、「酔うてこほろぎと寝てゐたよ」。酒好きの放浪者だった山頭火らしい、情景が見えてくるような句。きっと、鳴いているコオロギも気にせず、地べたにゴロリと寝たのでしょう。心地よさもありながら、ひとりで酔いつぶれた秋の夜長という寂しさも漂ってきます。

 

選者の金子さんによると、2日前に詠んだ「酔うてこほろぎといつしょに寝てゐたよ」の訂正句だそう。「いつしょに」は気持ちを込めすぎているように感じ、さらっと書くほうが逆に印象が強いのではないかと金子さん。確かに短くなった分、「寝てゐたよ」がより効いている気がします。

 

続いて、放哉の句から一句選ぶなら、「漬物桶に塩ふれと母は産んだか」。東京帝国大学法学部を卒業しながら酒に溺れ、仕事も家族も捨てて各地を転々とした放哉が、神戸・須磨寺で寺男をしていたときの句です。

 

この句は又吉さんの選評とセットになることで味わいが増します。漫才師を目指していたはずがコンビを解散し、新しいコンビはコント中心で活動するように。劇場でコント衣装の大きなツノをつけた姿を鏡で見たとき、不安になったと明かす又吉さん。自分は何をしているのだろう?  この句の放哉と同じ気持ちだったのかもしれません。

 

金子さんの選評は山頭火の当時の状況や文学的背景に基づいた解説。一方、又吉さんはこれまでの人生や経験を切り取ったショートエッセイともいえる内容で、句の奥に見える人間の本質を汲み取っています。ふたりのアプローチの違いもよく出ています。

 

山頭火と放哉の略年譜、どこを放浪したかわかる日本地図、ゆかりある場所のガイドなどもまとめられ、自由律俳句の二大俳人の軌跡が一冊でつかめる構成。山頭火も放哉も人間の弱さ、だらしなさ、鬱屈、可笑しさを短い言葉でポンと提示しています。それはある種、表現することでの肯定。少し心が疲れたら手に取ってみるのもいいかもしれません。

 

【書籍紹介】


孤独の俳句 「山頭火と放哉」名句110選

著:金子 兜太、又吉 直樹
発行:小学館

「孤独」や「孤立」を感じる時代だからこそ、心に沁みる名句がある。漂泊・独居しながら句作を続け“放浪の俳人”と言われた種田山頭火と尾崎放哉の自由律俳句が今、再び脚光を浴びているという。厖大な作品群から、山頭火の句は現代俳句の泰斗・金子兜太が、放哉の句は芸人・芥川賞作家の又吉直樹が厳選・解説。名句を再発見する“奇跡の共著”。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。