本・書籍
2023/3/1 21:30

読めないときは読まなくてもいい−−自分の心に寄り添う読書の在り方 『本を読めなくなった人のための読書論』

ネットで好きな本を好きな時に買えるようになりましたが、私は本屋さんが好きでよく足を運びます。特に大型書店が好きで、何気なく入ったコーナーに「へ〜こんな本があるんだ」と新しい出会いを楽しんでいます。

 

そんなある日、新宿の書店でたまたま出会ったのが『本を読めなくなった人のための読書論』(若松英輔・著/亜紀書房・刊)。綺麗な装丁と、はらりと開いたページの言葉に惹かれて、即レジへ(笑)。

 

子どものころから読書は好きでしたが、たまに「今日は文字を読みたくない……」と思ってしまう日もあり、その感情の理由がわからずにいました。今回は「本を読みたいのに、読めなくなる」そんなタイミングがある人におすすめしたい一冊をご紹介します。

食べ物は身体の糧に、言葉は心の糧になる?

本を読むこと=知識を増やすことと考えている人も多いと思います。多読や速読なんて言葉もあり、世の中にはさまざまな読書術も広がっています。しかし、本当にそれが本来の意味の読書、読むという行為なのでしょうか?

 

著者の若松さんは「本は、全部読まなくてもいい」と繰り返して伝えます。短編小説の1話だけでも、気になるページだけでも、一度に全部を読み切る必要はなく、今の自分に読める部分だけ読めばいいと言うのです。

 

食べ物が私たちの身体の糧であるように、言葉は私たちの心の糧です。

ほんのわずかな薬が崩していた体調を整えることがあるように、小さな言葉が、私たちの心に火を灯すこともあります。

しかし、食べ物と言葉がいちばん異なる点は、食べ物には「賞味期限」があるのに対し、言葉にはまったくといってよいほどないことです。

(『本を読めなくなった人のための読書論』より引用)

 

私がすぐさまレジへ行ったのも、この一文を読んだからでした。言葉には「賞味期限」がない。何年も読まれ続けているものも、新刊もいつ読んだっていいんですよね。

 

読書術に正解はありませんが、もし多読や速読が正しいと考えているのであれば、それだけが正解じゃないよ、と心に刻んでおけば、自分の読書との向き合い方が変わってくるかもしれません。「私に読書は無理」と思っている人も、少しずつつまみぐいするのも読書と思えれば、きっと読むことが楽しくなるのではないでしょうか?

 

図書館にいくのもおすすめ

「本を読みたくても、読めない」人の中には、どんな本を読んだらいいかわからなくなってしまった……という人もいるかもしれません。個人的には『本を読めなくなった人のための読書論』を読むのが一番のおすすめですが(笑)、本の中に紹介されていたことで「なるほど!」と思ったことがあったので紹介します。

 

読めない人の多くは、自分に合う本が何であるかが分からなくなっている状態です。こうしたとき、検索用の端末は、ほとんど役に立ちません。このとき私たちが頼りにしたいのが図書館司書です。

司書の皆さんは、本の専門家であるだけでなく、読書の専門家でもあります。そして、相談されるのを待っています。本を読めなくなったことを素直に伝え、自分の興味や関心、気分などを話しても良いかもしれません。

(『本を読めなくなった人のための読書論』より引用)

 

どこかで「本は自分で見つけるもの」「偶然の出会いを楽しむもの」と思っていたところもあるのですが、こうして司書さんに相談してみるのも本との出会いを結んでくれますよね。日本図書館協会が発表する2021年度「図書館の総数」は3316館とのこと。無料で本を探せる場所でもあるので、ちょっと時間がある時、本を探してみたり、司書さんに相談してみたり、お出かけしてみるのもおすすめです。

 

むやみに「本を読もう!」と気合を入れない

また『本を読めなくなった人のための読書論』にはこんなことも書かれてありました。

 

むやみに本を探さない。静かに出会いを「待つ」。

(『本を読めなくなった人のための読書論』より引用)

 

今はなんでもすぐに情報が手に入る時代です。SNSをひらけば「あれがいいよ!」「これがいいよ!」「読まなきゃ損!」など、波のように次々と情報が押し寄せてきます。全てを飲み込んでいては、結局自分に「何」が必要だったのかわからなくなってしまうでしょう。たくさん読む中で自分を見つける人もいれば、一冊の本から自分の心の糧を見つける人もいるし、誰かの紹介された言葉にピンとくる人もいるかもしれません。

 

焦らず、待つうちに、自分から読みたくなる本が出てくるかもしれませんよね。また無意識に「読んでみたい本」が見つかるかもしれません。本は絶対読まなければいけないものでもありません。ただ「読みたいのに読めない」と悩んでいるのであれば『本を読めなくなった人のための読書論』をぜひ読んでみてください。この記事が誰かのアンテナにヒットして、本を読む楽しさに触れてもらえればうれしいです。……って、静かに出会いを待つのがいいと言いつつ、おすすめしちゃいましたね(笑)。

 

【書籍紹介】

本を読めなくなった人のための読書論

著者:若松英輔
発行:亜紀書房

本が読めなくなったのは、内なる自分からのサイン。だから、読めないときは、無理をして読まなくていい。読めない本にも意味があるから、積読でもいい。知識を増やすためではなく、人生を深いところで導き、励ます言葉と出会うためにする読書。その方法を、あなたと一緒に考える。

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