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2023/3/26 21:00

40代の住職が「四国遍路」八十八ヶ所を自ら歩いてみたら! 自然、人情、美味との出会い~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。一時期、よく利用する路線の駅をひとつひとつ降りて、駅前で美味しいパン屋さんやカフェを見つけるという遊びを散歩がてらしていました。全駅制覇などの目標があると達成感もひとしおですよね。

 

私の行き当たりばったりな各駅散歩とは比べ物にならないほど、由緒正しいのが四国八十八ヶ所巡り。真言宗の開祖・空海(弘法大師)ゆかりの寺院八十八ヶ所を巡礼する約1200キロの「四国遍路」は、終えると八十八の煩悩が消えるとも言われています。気力と体力があるうちに一度は挑戦してみたいという人も多いのではないでしょうか。ついお菓子を食べてしまう、その煩悩だけでも消えるとありがたいです(笑)。

お坊さんがリアルに歩き遍路を体験

 

今回の新書はマイ遍路―札所住職が歩いた四国八十八ヶ所―』(白川 密成・著/新潮新書)。著者の白川密成さんは1977年生まれ。四国八十八ヶ所・第五十七番札所の栄福寺(愛媛県今治市)住職。大学卒業後、地元の書店に勤務したあと、2001年に24歳で実家である永福寺の住職を継ぎました。著書には映画化もされた、「ほぼ日刊イトイ新聞」連載エッセイ『ボクは坊さん。』(ミシマ社)や、『坊さん、ぼーっとする。』(ミシマ社)、『空海さんに聞いてみよう。』(徳間文庫カレッジ)があります。

心温まるお遍路さんの旅

本書は、「遍路を歩くことで、八十八ヶ所の“全体像”を肌で感じたい」と考えた白川さんが、月に数日ずつ、計68日間をかけて歩いてお参りした記録。寺の住職という鎧を一旦はずし、肩書を持たないひとりの人間として巡礼を経験したいという気持ちもあったそうです。

 

第1章「歩き遍路が始まる」は2019年4月18日~26日、一番霊山寺(徳島県鳴門市)から二十二番平等寺(徳島県阿南市)までの出来事。

 

まずはひどい方向音痴ということで、一日中地図アプリを使えるようにiPhoneの外付けバッテリーを購入する白川さん。お遍路さんといえば杖が定番ですが、今はスマホがサポートしてくれる時代なんですね。

 

最初の目的地・霊山寺の最寄り駅である徳島県「坂東駅」に電車で到着……と思ったら、少し手前の「板野駅」だった!? というハプニングから開幕。一時間ほど歩いて霊山寺にたどりつきます。

 

九番札所・法輪寺の門前にある茶屋では、アメリカ人とデンマーク人のお遍路さん2人と相席に。鳴門金時(いも)の天ぷらを「これは食べられるの?」と聞いてきた2人に、「スイート・ポテトだよ。美味いよ」と返す白川さん。七味唐辛子を「セブン・フレーバー・チリ」と教えると、アメリカ人はスナップを効かせて盛大に振りかけたとか(笑)。こうした心がふっと通う旅先の交流も本書の読みどころです。

 

お遍路さんの立場になって寺をまわることで、改めて札所の住職という自らの仕事を見直す“お仕事もの”的な側面も共感できる部分。

 

人口減の日本で寺院や僧侶はどう生き残っていけばいいのか、悩みつつ歩く……。住職の本というとありがたい話が満載というイメージがありますが、私たちと同様に迷いながら進む等身大の姿が、この本のもっとも大きな魅力でしょう。

 

四国の厳しくも美しい自然、宿や宿坊での温かいおもてなし、山海の素材を活かした名物料理……。白川さんは、四国遍路を「“行く”ようであり、“帰る”ようでもあり、またそのどちらでもないような不思議な道のりが貴重であるからこそ、世界から人々が集まる」と語っています。人生を詰め込んだようなこの円環が、四国遍路の引力なのかもしれません。

 

【書籍紹介】

マイ遍路―札所住職が歩いた四国八十八ヶ所―

著:白川 密成
発行:新潮社

四国にある八十八の霊場を巡礼するお遍路。本書は、そのひとつ第五十七番札所・栄福寺の住職が、六十八日をかけてじっくりと歩いた記録である。四万十川や石鎚山など美しくも厳しい大自然、深奥幽玄なる寺院、弘法大師の見た風景、巡礼者を温かく迎える人々……。それらは人生観を大きく揺さぶる経験として、多くの人々を魅了する。装備やルートまで、お坊さんが身をもって案内する、日本が誇る文化遺産「四国遍路」の世界。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。