こんにちは、書評家の卯月 鮎です。ベーブ・ルースが偉大な人という認識はありますが、どのくらいすごかったのかはなかなか実感できないところ。ちなみに友だちはベーブ・ルースのことを、“ベイ・ブルース”と思い込んでいたそうで、「ブルースさんじゃなかった……」と言っていました(笑)。まあ、ドンキホーテも“ドンキ・ホーテ”ではなく「ドン・キホーテ」なので、そうした言葉の切り間違いは“あるある”でしょう。
何はともあれ、メジャーリーグを楽しみたいなら、ベーブ・ルースの偉業を知っておいて損はありません。
MLBジャーナリストが二刀流の2人を徹底解剖
さて、今回紹介する新書は『大谷翔平とベーブ・ルース 2人の偉業とメジャーの変遷』(AKI猪瀬・著/角川新書)。著者のAKI猪瀬さんはMLBジャーナリスト。アメリカ留学時にメジャーリーグについて研究をはじめ、現在はメジャーリーグ中継の解説者としておなじみです。著書に『メジャーリーグスタジアム巡礼』(エクスナレッジ)があります。
大谷翔平とベーブ・ルースの軌跡
2022年のメジャーリーグで、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手が二桁勝利&二桁本塁打を記録しました。これは1918年に達成したベーブ・ルースから104年ぶりの快挙。著者のAKI猪瀬さんは「ルースと大谷の共通点、それは、『唯一無二の存在』」といいます。
第1章は、大谷選手の2022年シーズンの振り返り。先発した開幕のアストロズ戦から順を追って見ていきます。大谷選手が残したコメントなども入り、40ページほどと短いながら、偉業達成までの道のりが克明にまとまっています。野球本を読みながらお酒を飲む人にはたまらないでしょう。
第2章「1918年のベーブ・ルース」は、ベーブ・ルースの生い立ちと創立まもないメジャーリーグの背景、そして1918年シーズンが語られていきます。この章が本書にとっての肝。前年に第一次世界大戦に参戦したアメリカでは、メジャーリーグにも影響が出始め、それがベーブ・ルースの記録を後押しする結果に……。歴史の渦はもちろん、ボールの質が悪く「デッドボール時代」と呼ばれた当時のメジャーリーグの状況も紹介され、今との違いに驚くとともに引き込まれました。
本書の中盤以降は、「投」と「打」の変遷を追う、いわばメジャーリーグの100年史となっています。サイ・ヤング、タイ・カッブ、ルー・ゲーリッグといった、私でも名前は知っている伝説的な選手についても解説され、その偉大さが掴めます。細かいルールの改定、用具の進化、アメリカンドリーム……メジャーリーグ精神とは何か? アメリカらしさとは何か? そんなことも100年の歴史を通して見えてきます。
情報満載で読み応えたっぷりの本書。静かに並ぶ記録や数字の端々から、AKI猪瀬さんのメジャーリーグへの深い理解とリスペクトがあふれてくる、そんな一冊です。
【書籍紹介】
大谷翔平とベーブ・ルース 2人の偉業とメジャーの変遷
著:AKI猪瀬
発行:KADOKAWA
「野球の神様」ベーブ・ルース以来の二桁勝利&二桁本塁打を達成した大谷翔平。104年ぶりの快挙に世界中が沸いた。なぜ2人だけがこの偉業を成し遂げることができたのか。往年の名選手との比較により明らかにする。選手からの信頼も厚く、年間150試合を解説する日本屈指のMLBジャーナリストが徹底解剖。投打の変遷や最新トレンド、二刀流の未来を網羅した、今までにないメジャーリーグ史。
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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。