本・書籍
2023/4/2 21:00

昆虫、植物、貝……新種はどうやって発見されたのか? 気鋭の研究者たちが自ら語る苦労と喜び~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。こう見えても(?)子どものころの私は昆虫少女で、網を持ってはトンボやセミを捕まえていました。それが高じてか、今では『ポケモンGO』でポケモンをゲットする毎日……(笑)。

 

ただ、本書を読んでハッとしました。ゲームのなかでは、決められた図鑑の空白を埋めていきますが、昆虫のような生物はまだ新種が世界中にいる状態。今見かけた昆虫はどこにも分類されていない未知の生物の可能性があるのです。新種発見とは、地球の全貌がまだ明らかになっていないという証でもあります。

新種発見までの道のりを研究者たちが語る

 

そんな新種探しに魅せられた生物学者たちが、自らの発見とそこに至るまでの道筋を明かすのが今回紹介する新書新種発見物語 足元から深海まで11人の研究者が行く!』(島野智之、脇 司・編著/岩波ジュニア新書)。本書の1~9章では9人の気鋭の研究者が登場します。

 

岩波ジュニア新書なので中高生向けですが、夢を追いかけ続け、専門分野に全力を注ぐ人たちのドラマとして大人が読んでも面白く、忘れかけていた静かな情熱がよみがえってきます。

 

編著を担当した島野智之さんは法政大学国際文化学部/自然科学センター教授で、専門は動物分類学(ダニ類・昆虫類を含む陸上節足動物と原生生物)。『ダニが刺したら穴2つは本当か?』(風濤社)など著書多数です。

 

脇 司さんは東邦大学理学部准教授で、専門は寄生虫の分類、生態、保全など。著書に『カタツムリ・ナメクジの愛し方 日本の陸貝図鑑』(ベレ出版)があります。

情熱から生まれる発見のドラマ

第1章は愛媛大学大学院理工学研究科助教の今田弓女さん。少女時代から虫を眺めるのが大好きで昆虫学者を目指していたという今田さんは、京都大学に入学したての4月、教授にコケを食べる原始的な蛾「コバネガ」の研究を持ちかけられ、毎日研究室へ通うことに。

 

コバネガを観察するうちに、新種を発見して発表する「記載論文」を書きたいと考えた今田さん。狙いは今まで生息報告がない東北地方。地図に印をつけ、緯度と標高を定め、月山や白神など東北地方の山奥を進んだところ……!?

 

論文執筆の苦労や反響の喜びも語られ、フィールドワークとデスクワーク、両方の側面が見えてきます。新種を発見するだけでは終わらないんですね。

 

私が読んでいてワクワクしたのは、深海生物の調査。9章の渡部裕美さんは海洋研究開発機構(JAMSTEC)の准研究主任で、熱水噴出域(海底から噴き出す高温の温泉)の生物を研究しています。

 

有人潜水船「しんかい6500」での調査は、宇宙とは違って特別な訓練は必要ないものの、トイレなどはないため体調を整えて潜らなければならないそう。窓の外には発光生物の幻想的な風景が広がる……。深海の生物よりも、水のない陸上という極限環境にすむ人間のほうが奇妙かもしれない、という渡部さんの言葉には、考えさせられるものがあります。

 

9人のエピソードが並んでいるので、研究との向き合い方や新種に対する考え方も異なり、さまざまなアプローチが見えてくるのが本書の面白いところ。

 

自分の好きなことにまっすぐで情熱的な人たちが、今日も地球の謎を少しずつ解明している。大人も刺激を受ける一冊でした。

 

【書籍紹介】

新種発見物語 足元から深海まで11人の研究者が行く!

編著:島野智之、脇 司
発行:岩波書店

発見の裏には、たくさんのドラマがある! 子どもの頃から追い求めて、偶然見かけて――ちょっとした疑問が、深い探究へとつながっていく。舞台は身近な環境から遠く危険な未踏の地まで。虫、魚、貝、鳥、植物、菌など未知の生物との出会いにワクワクしながら、研究者たちの歩みを追体験。分類学の基礎も楽しく身につく、濃厚な入門書。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。