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2024/3/11 21:00

もしも、アリストテレスとニートがディベートしたらどうなる?『人生に目的は必要か?』哲学者と現代人がガチバトル!

現代人の気になるテーマを哲学者とディベートしたらどう答えるのか? そんな全く新しい哲学入門書『21世紀を生きる現代人のための哲学入門2.0』(富増章成・著/GAKKEN・刊)。今回は本書から抜粋して『人生に目的は必要か?』をテーマに、ニートとアリストテレスのディベートを紹介します。

 

機械的に流されるか、目的をもって生きるか

ニート 人生に目的なんか不要ですよ。今の時代、将来には希望がもてそうにないので、目的なんて掲げるだけ損です。

 

アリストテレス いやいや、今こそ人生に目的を定めて生きる必要があるんだよ。そもそも、この世界は『~のため』という目的の連鎖でつながっている。コップは水を飲むため、椅子は座るためというようにな。人間も『~のため』という目的をもった生き方が必要なんだ。

 

ニート そうですかね? 自分は目的を目指して行動しているのではなく、機械的に行動していますよ。たとえば、目覚ましが鳴るから目が覚める→シャワーを浴びる→空腹だからメシを食うという感じです。

 

アリストテレス それは、私の時代よりかなり後に出てきた思想で、機械論的世界観というやつだな。私の考えはそれとは逆なんだよ。人は、起きるために目覚ましをかけている→会社に行く目的でシャワーを浴び身だしなみを整える→栄養補給をするために朝食をとる…というように。これを目的論的世界観というのだ。

 

KEYWORD 目的論的世界観・機械論的世界観

目的論的世界観では、世界のあらゆるものは、すべて目的に沿っているとされる。一方、機械論的世界観では、「ある原因が結果を生み、その結果がまた原因となって次の結果を生む」というように、世界は原因と結果の連鎖によって動いているとされ、そこにはなんの目的もない。近代の機械論的世界観によって目的論は批判されたが、現代ではこの目的論は政治哲学などで注目されている。

 

アリストテレス 現代人は、この機械論的世界観に染まっているので、あなたのように機械的に行動している人が多いのだよ。でも、そうやってると、ただ生きてただ死ぬという、動物と同じ生き方になってしまうんだ。人生に意味がなくなってしまうんだよ。

 

ニート その二択なら、自分は、ダラダラと機械的に流されていてもいいと思います。考えによっては、世界は目的をもたず、偶然的に動いているわけですよね? それに合わせたっていいと思います。

 

アリストテレス しかし、世界がなんの目的ももたず、同じようなことをただ終わりなく繰り返して動いているように捉えると、虚しく感じるものだよ。そこになんらかの意味合いをもたせてはじめて、幸福になれるというものだ。

 

実況 さて、人生の目的をもって生きるべきか、そんなものはもたずにダラダラ生きるかの議論になっています。どちらの考えもわかりますが…。

 

解説 一般的に、ビジネスマンの自己啓発書などでは、まず自分の目的を決定しろといわれていますね。アリストテレスさんの哲学は、現代の政治哲学にも影響を与えています。

 

【ちなみに】

NHK で放映されたマイケル・サンデル教授の『ハーバード白熱教室』(2010年度)では、アリストテレスの目的論をふまえた共同社会についての内容を扱った。

 

目的で自分を縛る必要はあるのか?

ニート 別に人生に目的なんてなくても生きていけますよ。自分は家にいてインターネットをダラダラ見ていれば幸福です。YouTube と映画見放題とコンビニ弁当があれば生きていけます。

 

アリストテレス 今はそれでいいかもしれないが、そのうち飽きてやることがなくなると目的を喪失し、不幸になるだろう。

 

ニート だからといって目的をもつと、いつか期待を裏切られて、失望し、それこそ不幸になるのではないでしょうか。たとえば勉強や仕事で目的をもつと、それがうまくいかなかったときの反動で裏切られたときにダメージを受けるものです。

 

アリストテレス それは目的に対する考え方が異なるのだよ。たとえば『勉強をして知識を得るという行為そのもの』を目的だと考えれば、勉強をしている時点で目的が達成されることになる。大きな目的を設定すると同時に、細かい目的も設定することが大切なのかもしれないよ。

 

【ちなみに】

アリストテレスはリュケイオンという学校を開いている。アリストテレスの学派は、学校の歩廊(ペリパトス)を歩きながら議論していたとされていたので、彼らはペリパトス派と呼ばれた。

 

ニート でも世の中そんなに意識の高い人ばかりじゃありませんよ。実際、働いていても心のうちでは僕のような生活をしたいと思っている人も多いはずです。目的やら理想やら、自分自身で自分に足枷を嵌めるような生き方をしなくてもよいのではないでしょうか。

 

実況 ここではニートさんに軍配が上がりそうです。実際、ダラダラ生きるほうが性に合っているという人も多いかもしれませんね。

 

解説 そうですね。アリストテレスさんは、人間が社会的な存在であるとも主張しているので、それとは異なる考え方なのでしょう。

 

実況 なるほど。さて、ダラダラ生きるか、それとも目的をもって生きるか――この話し合いはどのような結末を迎えるのでしょうか。

 

哲学することが最高の幸せ

アリストテレス しかし、君が自覚しているかどうかは別として、人間は〈◯◯をするために、□□をする〉という目的をもった形式から逃れることはできないのだよ。

 

ニート そうでしょうか? そりゃ、なにかを買うためにコンビニへ行くという程度のことを目的と呼ぶこともできますよ。でも、僕のいっている『目的』は『人生の目的』とかもっと大きなことですよ。『働くために就職する』とか『稼ぐために仕事に行く』とか、そういう意識高いのが嫌なんですよ。

 

アリストテレス だからといって、なにも考えずにダラダラ生きるだけではいつか飽きがくるぞ。あれこれと考えることこそが人間の幸せなのだ。私はこれを『観想』と呼んだ。それに…私は別に外に出ろといっているわけじゃない。君のように1人で引きこもってあれこれ考えているようなタイプは、私の理想とした『観想的生活』に向いているかもしれないよ。

 

KEYWORD 観想的生活

アリストテレスは、観想的生活を理想とした。観想的生活とは、理性によって世界の仕組みを考えること、つまり哲学することである。アリストテレスは、快楽を追い求める「享楽的生活」や、名誉を求める「社会的生活」よりも、観想すること、つまり哲学することが最高の幸せであると考えた。

 

ニート え? 外に出なくてもいいんですか? それなら別にニートでもいいってことですか…?

 

アリストテレス そうとも! 私は別にニートは否定していないよ。

 

ニート そうだったんですね。もっと意識高い系かと思ってました。

 

アリストテレス 観想的生活によって、人生の目的に開眼するかもしれないしな。ただ、観想的生活を目指すなら、知性を磨くためのよい習慣を身につけることは忘れないようにな。

 

KEYWORD 習慣

アリストテレスは、人間の徳を「知性的徳」と「習性(倫理)的徳」の2つに分けた。「知性的徳」は教育や学習によって身につくモノである。一方、「習性的徳」は、感情や欲望を統制するモノで、これは、日常の繰り返し(習慣)によって得られるとした。

 

実況 おっと、ニートさんが部屋にこもって、ダラダラ哲学をするという結果になってしまいました。

 

解説 まあ、私も哲学をやっていますが、ときどき変人扱いされたりしますんでね。大学の哲学科を出ると就職も厳しいなんて話もあります。もちろん、人によりますが!

 

実況 ニートさんも将来、哲学に目覚めて、なにかの目的を達成するかもしれません。

 

【解説】世界は目的をもって動いている

師匠プラトンの説を論破しようとしたアリストテレス

プラトンの弟子のアリストテレスは、師匠プラトンの考え(イデア論)を批判しました。そしてプラトンのつくった学校(アカデメイア)を去ったのです。プラトンは、「アリストテレスはまるで仔馬が生みの母親を蹴り倒して去っていったようだ」といったとかいっていないとか…。

 

師匠を批判したアリストテレスですが、今日では「万学の祖」と呼ばれています。彼は自然学(今でいう自然科学など)を研究・整理整頓し、政治学、弁論術、詩学、論理学、形而上学…などを1人で体系的につくったのでした。

 

アリストテレスの唱えた「キング・オブ・哲学」とは

アリストテレスの考えのなかでも注目すべきなのは、形而上学です。これは存在の仕組みについて考えるものであり、第一哲学と呼ばれています。いわば「キング・オブ・哲学」なのです。なぜ「存在の学」形而上学はここまで重視されるのでしょうか?

 

それは「存在」があらゆる知識・学問の根本にあるからです。「存在」以外の知識は、そのジャンルについて研究すれば得られるものですが、「存在」はその根底にあるものです。実際、この「存在」について考える形而上学は、今日の物理学・化学など、幅広い学問に影響を与えています。

 

すべての存在は「目的」を目指して動いている?

形而上学のキーワードとして「形相」(エイドス)と「質料」(ヒュレー)があります。アリストテレスは自然界に存在するすべてのものは、材料である「質料」が、設計図である「形相」によって変化してできていると考えました。これにより、プラトンが唱えた「現実世界を越えたイデア」の存在を否定したのです。

 

この考え方によると、たとえば「質料」としての鉄は、「形相」によって金槌や釘に変化します。言い換えれば、「鉄は金槌や釘になるために変化している」と考えられたのです。このように、「あらゆる物事は目的をもって動いている」という考えを目的論的世界観と呼びます。

 

人生の「究極の目的」とは

私たちの生活もまた、因果関係とさまざまな目的でつながっています。筋トレは健康のため、健康は仕事のため、仕事はお金のため、そして、お金はまわりまわってフィットネスクラブの会費を払うため…。よく考えると、人生とは堂々巡りです。しかしアリストテレスは、そういう堂々巡り的な生き方は虚しいと述べ、もっと大きな目的があると説きました。このような難題について考えることを、アリストテレスは「観想」すると表現し、「観想的生活」を勧めたのでした。

 

 

【書籍紹介】

21世紀を生きる現代人のための哲学入門2.0

著者:富増章成
発行:Gakken

現代人の疑問、哲学者ならどう答える!?新感覚の哲学書。悩みながら生きる人はみな立派な“哲学者”だー現代人も、歴史上の哲学者も、対等に考え、討論する。全く新しい哲学入門、ここに誕生。

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