ビジネス
2025/2/17 19:00

手取り足取りのOJTは昭和的? 令和式メンタリングマネジメントの極意を『組織のネコという働き方』著者が解説

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

 

ネコトレVol.19「ネコと人材育成」

 

「気合いが入る教育係」と「気が滅入る新人」

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機11年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価されたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

新しい年度を迎え、営業部に2人の新卒社員がやってきた。教育係として指名されたのはポチ川とミケ野。ポチ川が黒井ニャン吉を、ミケ野が白田ワン子を担当することになった。久しぶりの新人に「ミケ野への指導は失敗したので、今度こそきちんと育てるぞ!」と気合いが入るポチ川だったが……。

 

ポチ川「黒井くん、教育係で副主任のポチ川です。この会社には10年いるから、安心してください。手取り足取り丁寧に指導していきますね。まずは今日の To Do リストを渡します。この30個のタスクを進めていってください。あと、人事の新卒研修でホウレンソウは教わってるよね? 報告・連絡・相談は欠かさずやること。それではがんばってください!」

黒井ニャン吉「わかりました(To Do リストって、こんな細かいことまで指示されるのか。1つ目が『朝、ポチ川さんの机をウェットティッシュで拭く』って書いてある……)」

 

――――その1週間後の夕方。

ポチ川「黒井くん、なんで今日もまた To Do リストを残さずやれてないの?! ちゃんとやるように言ってるよね」

黒井「えっと、リストにない仕事をハチ村課長から頼まれまして……」

ポチ川「言い訳は聞きたくありません。どうしたら全部できるか、ちゃんと考えてください。これは君のためを思って言ってるんだからね(キリッ)」

黒井「す、すみません……」

 

――――4月が終わり、ゴールデンウィークが明けて1週間後。黒井は欠勤するようになった。ポチ川が連絡しても返信がない。困ったポチ川は、黒井の同期・白田ワン子に声をかけることにした。

ポチ川「あの〜、白田さん。ちょっといいかな?」

白田ワン子「はい、なんでしょう」

ポチ川「今日も黒井くんが出社してないんだけど、何か聞いてる?」

白田「……いえ、特には」

ポチ川「そうか。白田さんは仕事どう? ミケ野が教育係だと、ただの放任でちゃんと仕事教えてもらえてないんじゃないの〜?」

白田「いえ全然! 新鮮なことばかりで、とっても仕事が楽しいです!」

ポチ川「そ、そうなんだ……。ちなみにどんなことやっているの?」

白田「毎日1つか2つ、お題をもらっているんです。例えば、量販店さんの勉強会に連れて行ってもらう日は『参加者全員の名前を覚えること』とか『何人以上と話すこと』とか」

ポチ川「え、それだけ?」

白田「あとは一日の終わりにふりかえりをしてくれます。『今日一番印象に残ったこと』と『得られた学び』は何だったかを」

ポチ川「な、なるほど。どうもありがとう……」

 

(いやいや、そんなの何も教えてないに等しいじゃないか。楽しいって言うけど、仕事は遊びじゃないことを最初にわからせるべきなのでは。ミケ野は一体なにを考えているんだ?)

 

その翌日、休んでいた黒井が出社してきたので、ポチ川は励まそうと声をかけた。

 

「この遅れを取り返さないとな! 黒井をどんどん成長させたいんだ。そうしないと白田さんにどんどん差をつけられるからね。よし、今日からテレアポ100本ノックだ! ここにトークマニュアルがあるから、これ通りにやってくれたらいいよ。ちゃんとできてるか、僕が横で見ててあげるから安心してよね!」

 

そして次の月曜日、また黒井は休んでしまった。悩むポチ川は、ニャンザップへと向かった。

↑何がいけなかったのか、悩むポチ川は今夜も、ニャンザップに向かうのだった

 

「成長させるため」にがんばる教育係

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「おやポチ川さん、なんだか元気がないようですね」

 

ポチ川「新卒が入社してきて僕が教育係になったのですが、彼が連休明けから出社しなくなってしまいまして……」

 

ニャカ山T「おや、そんなことに」

 

ポチ川「僕は去年、ミケ野の教育係になったものの、ちゃんと教え込めなかったので『今度こそは』と気合いを入れたのですが……。彼(黒井)を成長させるため、手取り足取り丁寧に教えているつもりです。仕事を早く覚えさせるため、具体的な To Do リストを渡してやらせています。進捗を管理し、やり残しがあったら叱咤激励しているというのに……。しかも納得できないのが、ミケ野ですよ!」

 

ニャカ山T「ミケ野さんがどうしたのですか?」

 

ポチ川「あいつも別の新卒(白田)の教育係になったのですが、全然ちゃんと仕事を教えていないんです。それなのに、新卒が楽しいって言ってるんです。仕事は遊びじゃないってことを、最初にきちんとわからせるべきでしょう!」

 

ニャカ山T「ふむ。ミケ野さんは、そんなに何も教えてないんですか?」

 

ポチ川「いや、毎日お題を与えて、一日の終わりにふりかえりをしているそうです。あとは、量販店の勉強会に連れて行ったりして遊んでるんですよ」

 

ニャカ山T「ああ、なるほど。勉強会のときに、参加者の名前を覚えるとか、全員と話す、みたいなお題とか、いいですねぇ」

 

ポチ川「なんでわかるんですか?! そういうお題が出たとその新卒が言ってました」

 

ニャカ山T「さすがミケ野さん。教え上手ですね」

 

ポチ川「教え上手?! 何も教えてないのに?!」

 

ニャカ山T「今日もだいぶ凝っているようですね。今回のネコトレのテーマは『教え方』にしましょうか」

 

「答えを教えない」教え方?

ニャカ山T「ポチ川さんは、答えを教えるのが教育や育成だと思っていませんか?」

 

ポチ川「え、当然ですよね?」

 

ニャカ山T「教え上手には2種類あります。答えを教えるタイプと、答えを教えないタイプです」

 

ポチ川「ということは、答えを教えてもいいわけですよね。なにか問題でも?」

 

ニャカ山T「答えを教えるタイプの教え上手は、ハッキリ『こうしなさい』と言います。教わる側がその通りにやると、結果が出る。そのアドバイスが驚くほど的確なので、どんどん成長していきます。ただ、教わる側が依存してしまうことになりやすい。自分で考えなくなるわけです」

 

ポチ川「それなら、自分で考えさせるように指導すればよいのでは?」

 

ニャカ山T「ポチ川さんが教わる側だとして、今まで答えを教えてくれた人から、急に『自分で考えなさい』と言われたらどう思いますか?」

 

ポチ川「ケチ!って思いますね。……ああ、そういうことか。たしかに急に切り替えるのは難しいかもしれません……。では、もう一つの『答えを教えない』ほうの教え上手はどうするんですか?」

 

ニャカ山T「お題を出します」

 

ポチ川「お題?! それって、ミケ野じゃないですか!? 教え上手ってどういう意味で?!」

 

ニャカ山T「お題をクリアすることで、自分で考えて行動しながら成長実感が味わえるように設計すれば、『答えを教えて』と依存されることもなく、夢中で仕事に取り組んでもらうことができます」

 

ポチ川「……。お、お題を出せばいいんだったら、僕もテレアポ100本ノックのお題をやらせているから、教え上手ということですか?!」

 

ニャカ山T「そのお題をクリアすると、どんな学びや成長につながるのですか?」

 

ポチ川「それはまあ、打たれ強さですね。使い古されて獲得見込みがほとんどないリストを使ってテレアポさせることで、トークマニュアルを覚えさせるとともに、何度断られてもあきらめない不屈の精神を学ばせたいと思って」

 

ニャカ山T「なるほど……。お題設計の前に、そもそものところで問題がありそうですね。きょうのネコトレは『使役形の言葉を使わない』にしましょう」

 

「〇〇させる」と言うのをやめよう

ポチ川「使役形?」

 

ニャカ山T「『◯◯させる』とか『◯◯をやらせる』という表現です。ポチ川さん、ここまでのやりとりでご自分が何回使役形を使ったかおわかりですか?」

 

ポチ川「そんなの使いましたっけ?」

 

ニャカ山T「9回ほど使っていました。成長させる、覚えさせる、やらせる、わからせる、考えさせる、テレアポさせる、などとおっしゃっていましたね」

 

ポチ川「それが何か?!」

 

ニャカ山T「使役形は、相手を思い通りにコントロールしようとする意思があるときに出てくる表現です。『自分で考えさせた』相手は、自分で考えるというより『考えさせられただけ』になることが多いです。人を思い通りに育てようとしても、そううまいことはいきません。『育ちやすい環境』をつくってあげることしかできないのです」

 

ポチ川「はぁ。あまりピンとこないのですが……」

 

ニャカ山T「ポチ川さんは、推しの方に対して、『成長させる、覚えさせる、やらせる、わからせる、考えさせる』などの表現を使われますか?」

 

ポチ川「いやいやいや、使うわけないでしょう! 推しは尊い存在ですから、僕の思い通りにコントロールすることなどできません。僕にできることは、あくまで推しがすくすくと成長していきやすい環境をつくるために、常に見守りながら支援し続けるだけですから! よければどんな支援の仕方があるのか、詳しくお話ししましょうか!」

 

ニャカ山T「あいにく今日は予定がありまして。またいつでもいらしてくださいね」

 

今日のネコトレ

Vol.19
【相手をコントロールしようとする表現を使わない】

・人を思い通りに育てることはできない。育ちやすい環境をつくるだけ
・手取り足取り教え込むのではなく、成長しやすいお題を設計してプレゼントする
・他人に対して使役形を使ったら、違和感を持てるようになろう

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仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。


『組織のネコという働き方 〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』
1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/つるたちかこ イラスト/PAPAO