6月1日、新国際ビルと新日石ビルの間にある路地をリニューアルし、都市の隙間を公園として活用する「有楽町『SLIT PARK』」がオープンしました。
これは、有楽町再構築を体現する既存ストックの活用プロジェクト第1弾。従来は単なる通路として使われてきたスペースに手を加え、トークセッションができる会場機能やキッチンカーが入れる飲食機能を持たせて多目的スペースに変える。それによって人と人とが交流し、コミュニティが生まれる場所を目指しています。
これまで三菱地所では新しい才能を発掘し、活動の場を有楽町に創出する「Micro STARs Dev.(マイクロ スターズ ディベロップメント)」など、ビジネス街である有楽町エリアの再構築プロジェクトを進めてきました。GetNavi webでは過去2回にわたり、代表的な空間・施設を取材。
本稿ではそのまとめとして、「ディベロッパーとしてどのような理念があるか」に迫ります。今回は、三菱地所のプロジェクト開発部 有楽町まちづくり推進室 エリアマネジメント企画部統括の山元夕梨恵さんにお話を伺いました。
【関連記事】
異質で曖昧な空間だからこそ「最強」
――6月1日にSLIT PARKがオープンしました。ビルの合間の路地を活用するというユニークな取り組みですね。
山元 SLIT PARKは単なるデッドスペースの有効活用とは少し異なります。実はこうした路地は、大丸有(※大手町・丸の内・有楽町の総称)のエリアのなかでは貴重な場所です。大丸有の敷地はもともとは大名屋敷があった名残りで、100m×100mのまっすぐ整った街区なんです。
そこに建物を建てるので、大丸有のほかの場所ではこうした路地があまりないんですよね。ですが、この場所は昔からの名残りでカギ型の路地が残っており、こうした不思議な空間が残っていたという経緯があります。
――もともとちょっと異質な空間だったんですね。
山元 そうですね。大丸有は形も明確なら、建物の使い方も明確で、1階には店舗があり、上にはオフィスがある……といった、ハード的にもソフト的にもはっきりしている街が特徴です。
ですが、現在は用途の境目が曖昧になってきています。カフェで仕事をしたり、オフィスで雑談をしたりもする。これからの私たちの街づくりとして、ある種、境界を曖昧にしておく部分を生み出していきたいという思いがあります。
――境界が曖昧になることで生まれるメリットはあるのでしょうか?
山元 定まらない部分や混ざり合っている部分は自由度があって、何をしても良さそうと感じられる余白のような空間です。そうした場所だからこそ、偶発的なアイデアが飛び出して、新しいものが生まれるのではないかと。
今回のSLIT PARKになった路地は、ハードとしても珍しいし、これまで用途としてもあまり定まっていなくて、申し訳程度に駐輪場があり、知っている人だけが通る場所でした。だからこそ、今の時代ではむしろ「ここ最強!」なんですよね(笑)。
――都市にある余白のような路地は、多くの人を惹きつけるポテンシャルがあるんですね。SLIT PARKはそれをさらに引き出しているということでしょうか。
山元 SLIT PARK自体も多目的空間で、用途はひとつではありません。そこで仕事をしてもいいし、休憩してもいいし、デートをしてもいい。セミパブリックというか、ビルとビルの間のいわゆる民地なんですよね。ですので、完全なパブリックな場所でもなければ、クローズドの場所ともまた違った関わり方、過ごし方があると思います。
100年先も残るハードを作る責任
――今回、有楽町の再構築を取材して、曖昧な場所の重要性という点にみなさんが着目していたのが印象的でした。それが、大手町や丸の内との最大の違いになりますか?
山元 ある種、大手町や丸の内は2000年代以降の開発が一巡した街なんです。それに比べて有楽町は、今ちょうど変わりつつあるときです。だからこそ、思い切ってチャレンジができる。開発が一巡すると数十年間は、ハード的に固まってしまうので。
――三菱地所が有楽町で力を入れている施設のひとつにステージやカフェを備えた「micro FOOD & IDEA MARKET」があります。こちらも“思い切ったチャレンジ”のひとつでしょうか。
山元 micro(micro FOOD & IDEA MARKET)は好奇心が交差する市場、多機能型店舗という位置づけです。機能的には飲食があって、イベントができて、物販があるという場所なのですが、“micro”という名前の通り、まだ価値が定まっていない小さな可能性が集まっています。
大手町や丸の内よりももっと敷居を下げていろいろなことをチャレンジできる空間になったらいいなと。銀座も日比谷も近くて、一般の人たちがたくさん通るタッチポイント。そんな、街とみなさんをつなぐ接点になれたらいいと考えています。
――オープンして2年半、予期せぬコロナ禍という状況で苦境もあったと思いますが、どういった収穫がありましたか。
山元 microは同時期に有楽町でオープンしたインキュベーションオフィス「有楽町『SAAI』Wonder Working Community」以上にコロナに翻弄されました。ただ、一番良かったのは、全国からアイデアを募った、2mのソーシャルディスタンスの距離を使った遊び心ある取り組みを考えるという企画です。
2mのスプーンやフォークを使う食事スタイルを提案した最優秀賞は、実際に制作してmicroで展示しました。これがまさに構想していた、一般の人たちと街の接点であり、microが実験的な場所として機能した。すごくいい例だったと今も思います。
――今後の話をお聞きしたいと思います。有楽町で新しく取り組もうとしていることはありますか?
山元 有楽町は東京国際フォーラムや、少し視野を広げると東京駅もあって、日本中、世界中の人がアクセスする立地的ポテンシャルがあります。そうした人たちのタッチポイントになるというコンセプトに注力していきたいと思っています。具体的には、街と訪れる人の接点を複線化していく試みをやりたいですね。
アメリカのオースティンで行われている世界最大級の複合フェス「サウス・バイ・サウスウエスト」は、メイン会場とは別に、その近くのカフェも期間中だけはサテライト会場に早変わりするのだそうです。単に会場に行って帰るという経験よりも、来場した人の街の捉え方が全然違うはずですよね。
――SAAIにしろmicroにしろ、単に大きな箱ものを作るという一般的な“ディベロッパー”の印象とはだいぶかけ離れていますよね。ディベロッパーに今求められているものは何だとお考えですか?
山元 たまに「三菱地所は余計なことしないで堂々としてればいいんだよ」みたいなことも言われたりします。でも、私たちの課題意識としては、今までのやり方のまま、従来の価値を維持しようとしていたら、気づいたときには停滞した状態になりかねない。
私たちは100年先も残るハードを作る責任があり、大きな失敗はできません。だからこそ今、小さな失敗を積み重ねていく必要があると考えています。足元にマイクロなものを積み重ねて、少しずつチャレンジして、それをチューニングして、未来の姿を抽象度高く持っておく。そうして少しずつ固めていくような街づくりをしたいですね。
――なるほど。小さな失敗をチューニングしていって、大きな成功につなげるということですね。
山元 そのためには、街のなかに可変性を持たせて、試行錯誤しているうちに共感する人が集まってくるという形が理想です。どうして人が街に来るのかというと、提供されたものをただ享受するという消費型ではなく、この街で“何かをしたい”という役割を持っていることが一番の強い理由だと思います。それを受け止められる懐の深さみたいなものを、ディベロッパー側も持ち合わせるべきではないでしょうか。
まとめ/卯月 鮎 撮影/中田 悟