どの商品を買うか迷い、インターネットで情報を調べているときに、「マイベスト」という商品比較サービスにたどりつく機会が増えているなと、感じている人は多いはず。仮に「マイベスト」という名前を知らなくても、“複数の商品を同じ条件下でテストし点数をつけ、ランキング形式で紹介しているウェブサイト”と聞けば、「あぁ、あのサイトか!」という人がほとんどなのでは?
↑マイベストのコンテンツ画面
Wi-Fiルーターの検証で一軒家を貸し切ったり、4日間かけて100種のワインのテイスティングを行ったり、1台で400万円を超える検証用機材を導入したり……。マイベストでは連日、「そこまでやるの!?」と驚くような手加減なしの検証が繰り広げられている。
まさにいま、進取果敢に物事に取り組んでる注目の会社であるといえよう。そんなマイベストの代表取締役CEOの吉川 徹さんに話を伺った。
「育毛シャンプー」探しを通じて感じた検索結果への不満
ガチすぎる商品比較サービス「マイベスト」だが、その誕生のきっかけはまさかの「育毛シャンプー」だという。
話はいまから約9年前にさかのぼる。マイベストの創業者であり代表取締役CEOの吉川 徹さんが、まだ別の仕事をしていたときのことだ。
当時、激務が続いたせいか吉川さんは抜け毛が増え、育毛シャンプーを買おうと商品について調べたはいいものの、出てくるのはメーカーの広告やアフィリエイト記事ばかり。何日も情報を漁り、とりあえず商品を購入してみても効果のほどはよくわからず……。このときに、検索で信頼できる情報にたどり着くことの難しさを感じたのだという。
「これはちょっとした一例ですが、人生において『選択』というのは重要な行動です。それにもかかわらず、それをサポートするサービスがありませんでした。それならば『選択』にフォーカスしたサービスをつくろうと考えました」(以下、吉川さん)
マイベストが自社での徹底検証にこだわるワケ
“検索結果への不満”という実体験をベースに、吉川さんがたったひとりで準備を進め、2016年に「マイベスト」は誕生した。ローンチから約8年。いまでは月間ユニークユーザー数は3,000万人以上を突破。日本人の約4人に1人が使っているといえる。
さらに日本以外にも8つの国と地域でサービスを展開しており、海外だけで月間1,000万人ものユーザーを獲得。まさに成長著しいサービスといえよう。しかしそれを支えるのは、泥臭いとしかいいようのない人力での検証だ。
「我々は、外形的なデータだけでは、自分にとって本当にベストな商品を選択するのは難しいと考えています。
たとえば家電でいえば、スペック情報はメーカーの公式サイトなどで公開されていますが、実際の耐久性や質感、使い心地は、実際に手に取り、同じ条件下で複数の商品を使い比較しなければわかりません。そのため我々は、実際の使用を想定し自分たちで検証方法を考え、ひとつひとつ商品を試しています」
提供するのは“精度の高い相対評価”という一次情報
つまりマイベストには、“ネットで調べてでてくる情報”ではなく、“一次情報”が蓄積されているということだ。これまで商品比較サービスの主流は、一般ユーザーがレビューを投稿する口コミ型で、もちろんそれも一次情報と言える。しかし、マイベストはその手法とは距離を置き、あくまで自社で行った検証結果という一次情報にこだわっている。
「相対評価の精度を高めるには、その母数を増やす必要があります。ここでいう母数とは、ひとりのユーザーが試した商品点数のこと。
例えばある炊飯器を使ってそれを高く評価する口コミがあったとしても、ひとりの人がこれまで使ってきた炊飯器の数は限りがあります。つまりその人は、数種類の炊飯器だけを比較し評価しているということです。
でも、もしかしたらその人が使った以外の商品のなかにもっとおいしくご飯を炊ける炊飯器があるかもしれないですよね。つまり一般ユーザーがレーティング(点数付け)をする場合、どうしても比較する商品数は限られてしまうため、精度の高い相対評価をするのは難しいんです。
もちろん、例えば『食べログ』のように、年間1,000件近くの飲食店を訪れているヘビーレビュアーのような方がいて、そういった方のレビューが強く反映されるアルゴリズムを取り入れるなど、レーティングがきちんと機能している口コミサイトもあるので、口コミ型のサービスがすべてダメというわけではなく、一定の効果はあると考えています」。
マイベストは「メディア」ではなく「サービス」である
「マイベストは、『商品比較“メディア“』として捉えられることが多いのですが、我々は、検証を通じて評価というデータを蓄積する『商品比較“サービス”』だと考えています。
まず大きな違いは記事型かデータベース型かということ。ウェブ、雑誌問わずメディアというのは、記事という形で情報を届けます。なかには定期的に過去の記事をアップデートしているウェブメディアもありますが、基本的には記事として一度世の中に出されたら、それは時間とともに古くなっていきます。
それに対し我々は、すでに検証結果を公開している商材についても、新商品が出たら同じ条件で検証を行い内容をアップデートしています。常に情報が最新であるという点がデータベース型の強みです」
「また、記事型コンテンツは誰が見ても同じ情報にたどりつく“一方向性”の情報ですが、データベース型の場合、評価項目別にランキングを並び替えたり絞り込んだりできるので、ユーザーに合わせて最適な商品情報を届けることができます。すなわち“双方向性”があるのも特徴なのです。
いまはまだ、読者それぞれが好みの条件を選択すると、それに基づき商品を絞り込んだランキングが表示されるという状態ですが、ゆくゆくは購入履歴や行動履歴などからその人が必要としているものを推測し、商品を提案できるようにしたいと考えています。パーソナライズ、つまり人と商品のマッチングです」
マッチングの精度を上げるには、大きく2つの要素が必要だ。1つは「選択肢」。マイベストでいうところの検証に基づく商品情報にあたる。そして2つ目は「ユーザーの情報」だ。そしてそれぞれのデータ数が多ければ多いほど、当然、マッチングの精度は上がる。
「いまは完全な商品データベースを作ることを目標にデータを蓄積している段階。並行して、パーソナライズの仕組みも構築していきたいと考えています。
我々が目指しているのは完璧なデータベースを作ることではなく、それを活用し、マイベストが『選択のインフラ』になること。どこにもない情報を集めることではなく、それを使ってユーザーが最適な選択ができるようになることに、最終的な価値をおいています」
過剰なマーケティング合戦ではなく開発競争が生活を豊かにする
コロナ禍を経て世の中の価値観は変化し、そこにSDGsなどのサステナブル意識も加わり、現在、我々の消費行動も少しずつ変わってきている。
生産者の思想や商品のバックグラウンドへの共感が購入決定に影響を与える応援消費やストーリー消費といった言葉も広がり、“点数化できるもの以外”の要素で商品を選ぶ人も増えている。
「もちろんそれは感じています。ただそれと同時に、商品を売るためのマーケティング合戦が過剰になりすぎていて、マーケティングテクニックにより見せ方や広告がうまい商品が売れるという状態になりすぎていることにも懸念を感じています。実際に、そこにかなりのお金をかけているメーカーもいます。
本当に素晴らしい思想やストーリーを持って作られ、商品としても優れているという場合もありますが、見せ方合戦が過剰になっていると、どれがそういった商品なのか、見極めるのが難しくなってしまう。これは健全な状態ではありません。本来はそんなことよりも、良いモノを作ろうという方向で競争が起こるべきです。
『開発競争』というモノづくりにおける本質的な競争があれば、そこから次のイノベーションが生まれ、結果それが、我々の生活を豊かにすることにつながっていくはず。
そのためにも、本当に良いモノやサービスを作り、届けようとしている人たちがきちんと選ばれて、それが存続していける世の中にすること。マイベストでそれに貢献できたらいいなと思っています」
「もちろん、広告がすべてなければいいとは思っていません。テレビを例にすると、CMがなければ私たちが日々楽しんでいるドラマもバラエティ番組も作られなくなってしまいますから。
ただ大事なのは、きちんと広告とわかる状態、つまりユーザー体験を損ねないレベルで広告が入り、それを原資にして良いドラマが作られるという、健全な状態になっていること。それが、ユーザーにとって最も良い状態だと思います」
最高の選択体験が生み出すものとは
マイベストが掲げるミッションは、「インターネットで、“最高の選択体験”を実現すること」。それは単に、ユーザーの「買い物をサポートする」ということではない。吉川さんの言葉からもわかるように、私たちが最高の選択体験を重ねることは、世の中の消費活動を健全にし、暮らしを豊かにすることでもあるのだ。それは世界を変えることにもつながるかもしれない。
そして最後にもうひとつ付け加えておきたい。商品を評価しランキング形式で紹介しているからといって、吉川さんは、すべての選択をショートカットすべきだとは考えていないということだ。
「たとえばアウトドアが趣味の人にとって、あらゆるアウトドアギアを把握し試し、選ぶということは楽しい行為です。選択というのは、とにかく簡単になればいいかというとそういうことではなく、そういった楽しい選択は当然残していくべきです」
時間をかけずにサクッとベストなものを選びたい商材や、情報が玉石混交すぎて何が良いのかわからないようなときにマイベストを活用する。そうすれば、そこで無駄にせずに済んだ時間を、選ぶこと自体を楽しみたい商品に使うことができる。これはお金においても同様だ。
そう考えるとマイベストは、人生における“お金と時間の使い先”という選択をも、最高の選択にしてくれると言えるのではないだろうか。
撮影/鈴木謙介