【エモいマンガ大賞 2019/居場所を求めるあなたへ編】
「月曜日の友達」(阿部共実・著/小学館・刊/既巻2巻まで)
美しいマンガ表現と、青春の描写力に脱帽! あなたの「居場所」になり得る青春譚のマスターピース。
またもや超個人的に、良いマンガの条件を一つ挙げさせてもらいますが、「読者にとっての居場所になり得る作品」は、どの時代でも変わらない条件だと思います。「ドラえもん」が誰かにとっての原点であるように、働くおじさんが迷った時に「あしたのジョー」を読み返すように、子どもでも大人でも、また読み返したい、あの世界に戻りたいと一人でも思っている人がいるなら、そのマンガはまぎれもなく名作。
さて、そういった観点で言えば、「月曜日の友達」はここ10年、20年の中ではハチャメチャに私にとっての名作。いや傑作、大傑作! なるべく丁寧に太鼓判を押したいくらい感動させられた作品なのですが、その理由は「誰よりも解像度高く青春を描いている」ことにあると思います。
ここで言う「解像度」とは何か? というと、マンガにとっての画力であり、演出力の高さと言い換えられますが、本作は両方においてずば抜けています。阿部先生は、たとえば「スラムダンク」のように、劇画調で描きこみが多いマンガを描くわけではありませんが、多彩なアングルと色彩感覚(モノクロだけど)を駆使して、人物の内面と世界観を豊かに描く作家さんです。
本作の主人公は、みんなが急速に大人びていく中、まわりの変化に戸惑う中学一年生・水谷茜。そんな水谷が「超能力を使える!」と豪語する、これまたズレた同級生・月野透との出会いが本作の始まり。
水谷は月野と毎週月曜の夜に、学校の校庭で超能力の特訓をするという秘密の約束を交わして交流していきます。そこから水谷の目を通して紡がれる月野との日々、水谷の心象風景は「美しい」としか言いようがないほどのマンガ表現が詰め込まれています。1ページも無駄なく考えられた構図、白黒を多彩に使い分けたページは色鮮やかとしか言いようがありません。1巻の見せ場である、月野と学校のプールにシーンでは水しぶきの表現がパワーありすぎて、「夜のプール」という青春モノの鉄板シーンを水谷と月野と一緒に追体験しているような気持ちになります。
これぞ「解像度の高さ」! 中学生の頃見た風景、漂っていた空気のにおい、涼しい風の肌触り、感じた思いなどがページから溢れてくるのです。男の子と「秘密を共有する」という設定も青春モノの王道ではありますが、それが水谷と月野にとっては、恋なのか友情なのかといった言葉で語られないアンビバレンスな感じも、また非常にリアリティがあります。
もう少し解像度に関わる話をすると、詩的なセリフ回しも本作の大きな魅力です。
学校の始まり。
残暑がこもる教室のにおい。
秋が来るのにまだ蝉の声が聞こえる。
2巻「秋」より引用
落ち葉が地面をこする音。
校舎裏にだけかすかに届く金木犀の香り。
冷ややかな空気にそれが交わり鼻をぬける。
2巻「秋」より引用
絵とあわせて読んでほしいのですが、セリフだけでも十分に情景が伝わるんじゃないかと思います。どちらも水谷のセリフですが、中学一年生とは思えないこの語彙力もまたキャラのギャップになっているんです。全編に渡って、水谷のこうした詩的なモノローグで進行していって、文字量は多めな方だとは思うのですが、セリフも絵やデザインの一つとなっていてどんどん水谷の心情に引き込まれます。
とにかく絵とセリフ、設定やキャラが緻密に描写されている「解像度の高さ」ゆえにエモさが生まれるのですが、結局はやっぱメッセージが素晴らしいの一言に尽きます。本作にはたくさんの大好きなセリフがあるのですが、特に大好きなセリフが以下です。
「大人になるっていうことは我慢したり控えることではなく、」
「与えるってことだよ。」
2巻「冬」より引用
土森という水谷の級友が、水谷に送った言葉ですが、中学生でない大人になった今だからこそ心打たれる言葉です。中学生時代への郷愁、美しい過去のパッケージだけでなく「成長すること」への前向きさも描く。まあ…青春譚としてはもうパーフェクトすぎますね! これがあるからこそ、私はきっとこれから死ぬまで何度でも「月曜日の友達」を読み返すと思います。悩んだ時、心打ち砕かれた時に。過去の自分と水谷と月野が歩んだ、何者でもない時代をもう一度思い出すために…! 恋でもなく友情でもなく、中学生になりたてのあの瞬間しか得られない人との繋がりを感じたことのある人には、絶対に刺さる作品です。
【おすすめしたい人】
学生時代に戻りたいと思う人/進むべき道に悩んでいる人/今まで読んだことのないマンガが読みたい人
これにて「エモいマンガ大賞 2019」は終了。今もエモい気持ちになりすぎているので、作品の解説を出来てなさすぎるんじゃないかと思いますが、どれも短い作品ですので、まずは手にとってほしいという意図もあります。
本企画を振り返ってみると、この熱量で5作品は私も非常に魂を削る作業だと気づいたので、1回に1作品くらいの感じで定期的におすすめマンガを紹介していきたいです。フレッシュな気持ちで新年を迎えるために、正月休みでエモいこれらのマンガを読んで、心のデトックスをしてみてください。