酉年の2017年がスタートして数か月。コンビニではから揚げや焼鳥がホットスナックコーナーをにぎわせ、外食業界では焼鳥居酒屋がひときわ勢いを見せています。この現象は、やはり酉年ということが関係しているのでしょうか。最前線を知るべく、ローソン、鳥貴族、そして予約困難の焼鳥店「鳥かど」の各キーマンから、今年の”鶏”組みについてインタビューを敢行。その”バードウォッチング”から見えた、トレンドならぬ“トリンド”をレポートしていきます。
今年のローソンは「でか焼鳥」でおつまみ需要を新提案!
ローソンの鶏の名作といえばからあげクン。2016年で30周年を迎えた国民的人気商品のから揚げですが、転機となったのは前回の酉年にあたる2005年で、様々な企画を積極的に打ち出し、累計販売が1億食を突破するなど飛躍を遂げた1年だったとか。そしてここ数年では、毎年右肩上がりで躍進を続けています。
そんな同社が今年注力しているのは、なんと焼鳥! 1月10日より“ローソン史上最大の焼鳥”と銘打った「でか焼鳥」を発売。約2か月で販売数が2000万本を突破するなど、その勢いはとどまることを知りません。
でも、ローソンのレジ横にはからあげクンはもちろん、Lチキ、黄金チキン、鶏からなど主役級の鶏商品もあります。そんな中、なぜ焼鳥にスポットを当ててビッグサイズで売り出したのでしょうか? このナゾを解くき明かすべく、ローソンの商品本部で開発などに携わる東條仁美さんを訪ねました。
「ホットスナックの鶏関連商品は、メインで召し上がっていただくシーンや購入層が分かれていると考えております。そのなかで、焼鳥はおつまみとして30~50代のお客様が夜に買われるというデータが最も多かったんですね。ただ、その需要はもっとポテンシャルが大きいのではないかと。そこでよりわかりやすく、既存の焼鳥のおいしさ、大きさ、ラインナップをリニューアルし、手に取っていただきやすいように新提案したのです」(東條さん)
ちなみに、からあげクンはおやつ感覚で若い世代やお子さん用にママが買うのが中心。対するLチキや黄金チキンは、スナック感覚で学生や若者が購入する傾向にあります。また、鶏からは総菜としても幅広く、20~40代がコアな購入層とか。それぞれがライバルになる気もしますが、シーンやターゲットが違うため、シェアの奪い合いはないそうです。焼鳥の2000万本突破もスゴいですが、やはりそれは酉年だからなのでしょうか? スバリ、酉年とトレンドの関係性をたずねました。
「社会全体として酉年と鶏をかけているというのもあると思いますが、そもそも近年は鶏自体の人気が高まっています。弊社でも、でか焼鳥の前は鶏からを定番化しましたが、カテゴリーが増えても鶏商品全体として拡大するんですね。牛肉や豚肉よりお求めになりやすい価格であり、なおかつ部位によってはヘルシーというのも理由でしょう。最近ではサラダチキンもヒットするなど、魅力が多い食材ですね」(東條さん)
鳥貴族はトレンドを意識しつつも280円均一の高コスパを徹底!
一方、外食業界の焼鳥でいま最も飛ぶ鳥を落とす勢いなのが「鳥貴族」。2016年には一部上場を成し遂げ、500店舗を突破した居酒屋チェーン界の王者です。設立35周年にあたる2021年には、1000店舗到達が目標だとか。であれば、酉年にあたる2017年はより熱を入れているのではないでしょうか。
そこで東京支社を訪問し、営業部を統括する山下 陽取締役に話をうかがいました。「今年は大きな企画や秘策を考えているのでは?」と訪ねると、意外な答えが返ってきました。
「確かに酉年ですが、特別何かをするということはないですね。弊社の一番のコンセプトは常に変わらず、税抜280円で味と質とボリュームのよい料理を提供するということです。この価値をできるだけ多くのお客様に体験していただきたい。そのためにも店舗を増やし、より親しみのある居酒屋になりたいと思っています」(山下さん)
同社のターニングポイントは2003年。大阪屈指の繁華街である道頓堀に新規出店し、この成功によって快進撃に拍車がかかったそうです。過去を振り返って、酉年だった2005年は特に何かをしたわけではないそうですが、100店舗達成となる2008年に向けての大切な時期だったとか。
「競合店の多い繁華街でも成功したことと、空中階(2階以上の階の物件)での成功は大きな自信となりました。また、繁華街立地での成功によって認知度も飛躍的に高まり、ここから弊社の出店スピードが加速していったのです」(山下さん)
でも、それでは酉年と鶏人気の関係性はないということでしょうか。また、特にトレンドは意識していないのでしょうか? さらに踏み込んだ質問をぶつけてみると、興味深い回答が!
「まったく意識しないということはないですね。食のトレンドには常時アンテナを張り、たとえばデザートに抹茶やグラノーラを使うなど、流行を取り入れることはあります。毎年春と秋に10程度の商品をリニューアルするのですが、試作の際に検討していますよ」(山下さん)
山下さんは鶏のブームについても言及。鶏だけで十分満足できるほど豊富なメニューがある鳥貴族が好例で、鶏はレシピがきわめて多彩です。特に焼鳥は、全国にご当地焼鳥があるほど国民的な料理のひとつで、なおかつ串焼きで余分な脂を落とすヘルシーさも魅力。価格も手ごろでいいことづくしなのです。最近は外国人のお客さんも多いとのことで、いつか海外進出もしたいと意欲を語ってくれました。
焼鳥達人の会は“YAKITORI”の世界進出に向けて具体的な成果を模索中!
そもそも鶏は宗教的なタブーがないこともあって、世界中で食べられている食材。フランスにはブロシェット、東南アジア圏ではサテという串焼きも存在し、日本の焼鳥も比較的簡単に受け入れられそうな気がします。鳥貴族以上に海外進出に意欲的な有名店はないものなのか調べてみると、カリスマ的人気を誇る焼鳥店にたどり着きました。日本一予約が困難といわれる「目黒 鳥しき」です。
流石の名店とあって世界中からオファーがあるそうですが、店主の池川義輝さんは「自分はこの店を守る」という強い信念のもと、海外出店を断り続けてきました。そんな鳥しきも今年で10周年を迎え、「焼鳥業界の社会的地位も上げたい。そろそろ世界へ向けてチャレンジもはじめるべきか」と決意。そして今年の1月9日に、海外進出を視野に入れた若手の人材拠点として、分店の「目黒 鳥かど」を開店したのです。
いまやラーメンも世界のミシュランガイドから認められる存在になり、日本の食も世界を目指して発信する時代。一方で、海外から日本を目指して来日するグルメなお客も年々増えています。そんな状況も池川さんの心を動かしたそうで、そもそもこの根本にはある組織の存在がありました。それが、「焼鳥達人の会」です。
実態は、音楽業界で働く無類の焼鳥好きと、首都圏の焼鳥の名店を中心に開催される完全招待制の交流会。コンセプトのひとつは「“YAKITORI”を世界に発信する」で、いまや世界共通語といえる“SUSHI”や“TEMPURA”に負けない日本食として、“YAKITORI”を伝えていくというものです。2020年のオリンピックイヤーまでに、何らかの具体的成果を上げるのが目標とか。
池川さんは、会の実行委員のひとり。2016年は10月に約600人を集めましたが、酉年の今年はさらに規模を拡大して開催されることでしょう。鳥かどが今年オープンしたのは、鳥しきの10周年という意味合いの方が強いかもしれませんが、できることならぜひイベントを密着取材し、関係者から酉年への意気込みを聞き出したいと思います!
ということで、コンビニ、焼鳥チェーン、予約困難の人気店と、鶏を巡る様々な業態の動きを見てきました。手ごろ、ヘルシー、調理法が幅広い、世界中で食べられているなど、素材としてのポテンシャルが高い鶏肉は年々人気が上昇。各社によって温度差はあるものの、酉年である今年は全体的に熱を帯びており、さらに勢いが増しているというのが個人的な見解です。2017年はまだまだ数か月あり。引き続き、この“バードウォッチング”を続けていきたいと思います!