最近、各食品メーカーから続々と「マイルド」「甘口」といったタイプの商品が登場しています。今年2月に「キッコーマン いつでも新鮮 しぼりたて生しょうゆMILD」を発売した、キッコーマン食品の塚本 崇さんによれば、「特に30代以下の世代は外食、中食に慣れ親しみ、甘めの味に親しみをもっており、こういった背景を受けて、同商品を発売した」と言います。言わば、日本人の味覚に変化が起きているとも言えるこの流れ、本当なのでしょうか? 今回はその塚本さんに話を聞きました。
マイルド、甘口の調味料が売れ始めている理由とは?
――ここ最近の食品業界は、マイルド、甘口の商品が増えています。これは何故でしょうか?
塚本崇(以下:塚本) 日本人の味覚に変化が起きつつあるのは確かです。
そもそも、近年の味覚は多様化していると思います。たとえば単身の男性の方は濃い目の味を好まれる傾向があったり、一方、女性の方は薄めで柔らかい感じの味を好まれたりするなどです。
こういったなかで、特に30代以下の若い世代の方には、外食や中食の甘めの味付けのものを日常的に口にしてきているからか、やはりマイルド、甘口のものを好む傾向が高まってきているようです。
子どもは5つある味ーー甘味、旨味、苦味、酸味、塩味のなかで最も「甘味」を好みます。甘味の代表的な成分は身体のエネルギーとなる「糖」ですが、子どもは常に活発に動くことが多く、だからこの「甘味を好む」という説があります。
また、景気が良くなると、人々が活動的になるため「甘い味などのマイルドなものを好まれるようになる」という説もあります。
専門家ではありませんので、断言はできませんが、今は東京オリンピックを控え、日本は活発になってきていますので、こういった面からもマイルド、甘口の商品が売れ始めているのかもしれません。
素材を「マスキングするため」のしょうゆから「素材を活かすため」のしょうゆへ
――それまでのしょうゆに比べ、今回開発された「いつでも新鮮 しぼりたて生しょうゆMILD(以下、「生しょうゆMILD」)」では用途の違いはあるんですか?
塚本 そもそもしょうゆに求められることと言うと、素材をマスキングする役割が結構なウェイトを占めていました。
たとえば、お刺身、お惣菜などを食べる際、昔は流通上の鮮度維持の技術が、今に比べれば遥かに劣っていました。こういった鮮度劣化による臭みなどをマスキングするための役割もしょうゆには求められていたんですね。
しかし、最近はこういった技術も進化し、一般的なスーパーマーケットでも新鮮なお刺身が並ぶ時代になりました。そうなると今度は、素材をマスキングするというよりも、むしろ素材のおいしさを活かすような役割がしょうゆに求められるようになったわけです。
前述の「味覚の変化」と合わせて、こういった素材を活かす意味もあって今回、「生しょうゆMILD」を開発した側面もあります。健康志向が高まり塩分を抑えたしょうゆが伸びてきている背景のなかでも、この「生しょうゆMILD」は時代にマッチした良い商品だと自負しています。
納得いくまで何百回もの「ききみ」を経て商品化へ
――開発時には、試食もかなりされたと聞いています。
塚本 はい。「生しょうゆMILD」の特徴としては「塩分少し控えめ」「コクを付与する」「甘味を付与する」という3つがありますが、当然口にするものですから、味わいが良くなければ意味がありません。
そのために、開発の技術スタッフはもちろん、マーケティング担当者、さらに一般のお客様にも試食していただき、さまざまな感想を受けて調整をくわえながら商品化していきます。
しょうゆの色・味・香りこれを確認することを「ききみ」というのですが、私個人だけでも何百回というレベルで確認しています。
――そんなにしょうゆを口にしていたら、喉が渇いたりしませんか?
塚本 それは個人差がありそうですね(笑)。でも、それくらい細かく、何回も確認を行い商品化に至っています。
――「塩分を控えて、甘味を付与」というのはなんとなく想像できるのですが、「コクを出す」というのは?
塚本 しょうゆは、蒸した大豆と炒った小麦に麹菌を加え、できあがった「しょうゆ麹」に食塩水を加えて仕込むのが一般的なのですが、特に今回の「生しょうゆMILD」は、「二段熟成」という製法でつくったしょうゆを一部、ブレンドしています「二段熟成」というのはしょうゆでしょうゆを仕込むという感じですね。このことだけでも奥深いコクが出ますが、弊社でつくっているみりんをブレンドし、このマイルドな味を実現しているんです。
――かなり手間のかかったしょうゆですね。
塚本 そうですね。でも、その甲斐があって、おかげさまでお客さまからはとてもご支持をいただいています。