「クラフトビール」が最近、ちょっとしたブームになりつつあります。とはいえ、「苦い……」「料理の邪魔をしそう」といったイメージを抱いている人もまだまだ多いはず。ですが、実はクラフトビールほどバリエーション豊かな楽しみ方ができるビールはないんです。
先日、GetNaviが開催したクラフトビールとコストコ食材のマリアージュを楽しむイベントでは、キリンビールの「グランドキリン」を通してクラフトビールをより深く知るための体験セミナーが開催されました。意外と知られていないクラフトビールの基礎知識、知っておいて損はありません!
そもそも「クラフトビール」って何? 実はアメリカと日本で異なる
そもそも「クラフトビール」とはどういったビールのことを指すのでしょうか? アメリカの「ブルワーズ・アソシエーション」というビール醸造者の協会では、「小規模であること」「独立していること」「伝統的であること」と定義されています。
アメリカのクラフトビールと聞いて日本人が思い浮かべる代表的な銘柄は「ブルームーン」ですが、これは大規模かつ独立していないブルワリーが製造したビールのため、アメリカではクラフトビールとは言えないそうです。
そして、日本におけるクラフトビールの定義はありません。キリンビールでは「作り手の感性と創造性が楽しめるもの」をクラフトビールと呼んでいます。この定義では、ひと昔前に流行った地ビールや、キリンビールが手がけるグランドキリンなども、クラフトビールという一括りにまとめられます。
ホップ投入のタイミングがクラフトビールの味を左右する
ビールの基本となる原材料は、麦芽、ホップ、酵母、水です。クラフトビールも同様で、なかでも香りや苦味にとって重要なのが「ホップ」の存在。ホップはアサ科の植物で、ビールに使われるのは受粉前の雌株が持つ毬花(きゅうか)です。ホップを割るとなかに黄色い粉の「ルプリン」があり、これが香りや苦みのもとになります。
ホップが担う役割は大きく4つあります。
●ビール特有の「苦み」
●柑橘類や樹脂香などの「香り」
●炭酸が抜けたり酸化したりするのを防ぐための「泡立ち」
●ビール混濁菌の増殖の抑制
これらの効果のためにも、ビール作りにホップは欠かせない存在なのです。そして、ホップを投入するタイミングによって、香りや苦みの出方が大きく異なります。
ビール作りは、麦芽と湯をタンクに入れて”糖化”させるところから始まります。この麦汁をろ過→ホップを加えて煮沸→ホップかすの除去→酵母を加えて主発酵→低温で貯蔵した後、ろ過するのが一般的なビールの作り方です。ホップを加えて煮沸することで、香りが柔らかくなるのだとか。
それに対し、クラフトビールは貯蔵のタイミングでホップを加える「ドライホップ」製法が主流。低温での貯蔵中なので香りが飛びにくく、少し青臭い樹脂香が付きやすくなります。しかし、グランドキリンでは主発酵の段階でホップを加える「ディップホップ」製法というキリン独自の技術を採用しています。こうすることで、ホップ特有の嫌な匂いに酵母が吸着し、発酵が終わると回収されるため、ホップのいい香りだけが残るそうです。
イベントでは実際にドライホッピングと「ディップホッピング」の違いを体験! ホップを入れた容器に「一番搾り」を加えてホップを浸し、即席のドライホッピングを再現してみました。ドライホッピングした「一番搾り」と飲み比べるのは、「ディップホップ」製法で作られた「グランドキリン JPL(ジャパン・ペールラガー)」。
ドライホッピングした「一番搾り」はホップ特有の強い香りや苦みがあるのですが、少し過剰な印象。それに対し、JPLのバランスの良さは際立っています。ホップを加えるタイミングひとつでこれだけ香りや味わいに差が出るのには驚かされました。
グラスが違えば香りや味の感じ方が変わる
同じクラフトビールでも、グラスを変えるとまったくの別物になります。今回使用したのは、ドイツの名門グラスブランド「シュピゲラウ」とグランドキリンがコラボした「IPLグラス」。JPLをこのグラスとプラカップに注いで飲み比べます。
IPLグラスにおいしくビールを注ぐには、グラスを45度に傾けて、ボウルの一番太いところから2〜3cm下あたりに液面がくるように静かに注ぎます。続いて、少し上からJPLを落とすようにして泡の層を3cmほど入れれば完成。残りのビールはプラカップに入れ、飲み比べてみます。
IPLグラスは中に香りがとどまりやすい卵型でありながら飲み口もある程度の広さがあり、中に鼻をしっかり入れることでJPLの国産ホップの香りが楽しめます。それに対し、ラッパ型のプラカップは同じビールなのにほとんど香りがしません。
また、JPLを口に含んでみても、IPLグラスは甘みが感じられるのに、プラカップだと最初に苦みがきます。これはIPLグラスは上を向いて飲むので舌先から喉までビールがスムーズに流れ込むのに対し、プラカップは下を向いたまま飲めるので口全体にビールが広がってしまうからなのです。
さらに、IPLグラスは飲み進めていくと、グラスを横から縦に戻す際に泡が立ち、ビールの表面をきちんとフタしてくれます。これにより炭酸が抜けるのを防いだり、酸化による味の変化を抑えてくれたりするので、時間が経ってもおいしいビールが楽しめます。
ビアスタイルごとにグラスを増やすのはちょっと……という人は、ワイングラスで楽しむのもひとつの手です。ちなみに、「一番搾り」のようなスッキリした味わいのピルスナータイプはラッパ型のグラスのほうがおいしく飲めます。
料理に合わせたマリアージュを楽しもう
ビールは大きく分けると「ラガータイプ」と「エールタイプ」に分かれます。ラガータイプは「下面発酵」で、発酵が進むと酵母がタンクの底に沈殿します。低温でじっくり時間をかけて発酵させるので、比較的スッキリしたビールに仕上がります。
それに対しエールタイプは「上面発酵」。発酵が進むと酵母が上に浮いてきます。常温に近い温度で発酵するので、フルーティーで華やかな香りになりやすく、クラフトビールらしい味わいになります。
さらに、水、麦芽、ホップ、副原料を組み合わせていくことで、さまざまなクラフトビールが完成します。クラフトビールのビアスタイルは世界で100種類以上作られています。
これだけ香りや味わいが異なれば、料理との組み合わせも無限大。今回のイベントでテイスティングしたのは、「グランドキリン WHITE ALE(ホワイトエール)」「COPELAND(コープランド)」「グランドキリン JPL」「よなよなエール」「グランドキリン IPA」「Afterdark(アフターダーク)」の6種類。
ホワイトエールは白ワインのような香りがする「ネルソンソーヴィンホップ」を使用し、小麦を使ったふくよかな優しい苦みとさっぱりした後味が特徴。白身魚のムニエルやカルパッチョ、バニラアイスなどに合うそうです。
コープランドは麦芽の甘い香りと品のいい苦みがあり、苦いビールが苦手な人も飲みやすいピルスナータイプ。とんかつやカルボナーラ、マルゲリータピザといった味の濃い料理に組み合わせるといいですよ。
JPLは国産ホップ(一部使用)と国産麦芽を使用。少し苦みがあって余韻を楽しめるので、豚の角煮など甘辛い味付けのものに良さそうです。
よなよなエールは、アメリカ産のカスケードホップに由来するグレープフルーツのような香りが特徴。フィッシュアンドチップスなどの揚げ物や酢漬けとの相性が良く、ガリに合わせて食べるのがおすすめ。
IPAは大量に使用するホップによる、香りと苦みが特徴的。苦みのあるビールなので苦みのある料理との相性がいいそうです。いまの季節なら「茗荷の炭火焼き」をぜひ。
アフターダークはラテのような豊かな甘味と少しの苦みが感じられます。チョコレートとのペアリングは試す価値アリ。食事とのペアリングを試す際は、ビール、食事、ビールの順にいただきましょう。こうすることで、最初はビールの残り香があるなかで食事を楽しめ、最後は食事の残り香とともにビールが楽しめます。
コストコ食材を使ったおつまみは簡単なのに本格的な仕上がり!
今回のイベントでは、コストコ情報ブログ「コストコ通」の管理人・コス子さんがクラフトビールに合うおつまみを監修。爽やかな口当たりのホワイトエールには「アトランティックサーモンのヨーグルトソース」、少し苦みのあるJPLには「スパイシーロティサリーチキン」、香りと苦みがしっかり効いたIPAには「チーズたっぷりプルコギビーフ」を合わせてました。
アトランティックサーモン、ロティサリーチキン、プルコギビーフはコストコの人気商品。ビールの香りや味わいに合わせて、料理の味付けをさっぱりさせたりスパイシーにしたりすることで、ビールと料理がお互いの良さを高めてくれています。これこそがマリアージュ! コストコ食材はいずれもボリュームたっぷりなので、パーティなどでも大活躍です。
特に「チーズたっぷりプルコギビーフ」はホットプレートさえあれば完成する手軽さが魅力。プルコギビーフをホットプレートで炒めたら、ピザ用チーズを載せてフタをしてチーズが溶けるのを待つだけ。もともと味がしっかり付いているからこそ、少し手を加えるだけでいいのがうれしいですね。
実は今回体験したクラフトビールに関するセミナーは、「CRAFT BEER ROOM びあのわ」として定期的に開催されています。また、代官山、横浜、京都に店舗を構える「SPRING VALLEY BREWERY(以下SVB)」では、その場で醸造されたクラフトビールと料理を楽しむこともできます。SVBでしか飲めないクラフトビールもあるので、興味がある人はぜひ足を運んでみてください!
撮影/我妻慶一