日本最大級の市場である築地。場内外には鮮魚のうまい店を筆頭に実力派の飲食店が軒を連ね、労働者や観光客の胃袋を満たしている。そのジャンルには街中華もあり、有名なのが「ふぢの」だ。ここは場内にある老舗だが、市場前の「新大橋通り」を本願寺方面に進むと「新富町駅」の手前には「中華 ふぢの」がある。今回は同店の魅力を中心に、一風変わった店名の秘密なども紐解いていきたい。
自家製調味料を駆使する素材を生かした絶品中華
「中華 ふぢの」の大きなこだわりのひとつが、自家製のうまみ調味料である。街中華では一般的に既製品を使うケースもあるが、同店の場合は野菜や酒などを駆使していちから作っているのだ。そのため、どの料理にも素材のよさを生かした自然な味わいが楽しめる。
たとえば人気メニューの「酢豚」。街中華をはじめとする大衆店ではケチャップを使う酢豚が少なくない。しかし「中華 ふぢの」ではケチャップは使わず、自家製のうまみ調味料としょうゆ、砂糖、酢などで独自のおいしさに仕上げている。
調理工程にも職人技が満載。豚肉はやわらかく、脂身が少ないヒレを使い、しょうゆなどで下味を付けてから片栗粉をまぶして揚げる。野菜は、にんじんとたけのこはあらかじめスープで30分程度煮込んでおいたものを使い、油通ししたピーマンやパプリカなどと合わせる。そして玉ねぎは料理によって使う部分を分けており、酢豚には甘みの豊かな中間のみを採用している。素材ごとに最適な時間と調理法で仕上げられているので、ワンランク上のおいしさが楽しめるのだ。
チャーハンのような定番料理にも、自家製のうまみ調味料は欠かせない。また、チャーハンには乾かしたご飯を使い、卵は水分を飛ばしきるまで炒めてから混ぜることで絶妙なパラパラ感を生み出している。
なかには完全なオリジナル料理もあり、そのひとつが「冷やしぶっかけ」だ。これは、店主が素揚げのなすを使った蕎麦にヒントを得て生み出したオリジナルの冷涼麺。同店には「冷やし中華」も同価格で存在するが、それよりも酢を控えてかつおのダシに醤油を効かせた和風のタレで、キリっとした味に仕上げている。
創業者の孫が独自の味を目指して“築”いた新境“地”
独創性の高い料理が「中華 ふぢの」の真骨頂だが、それ以外にも珍しい特徴がある。たとえば、たばこ屋というもうひとつの顔。これは約20年前に販売の免許を得て取り扱うようにしたという。その理由は、それまでたばこを販売していた隣のコンビニが閉店することになったから。
店名の由来を聞くと、そこには場内市場の「ふぢの」にも関係する深い歴史があった。「ふぢの」は築地市場の誕生と同じ、1935年にいまの地で産声を上げた。創業者は「中華 ふぢの」の森 則次店主の祖母にあたり、姓が伊藤だっため「藤」を「ふぢ」と記して、そこに「の」をつけて店名にしたという。
一方で森さんは、独自の道を切り開くべく若くして都内の中華料理店で修業。やがて1979年に「中華 ふぢの」の前身となる和風のラーメン店をいまの場所に創業させるが、店名は祖母へのオマージュで「ふぢの」を採用することに。当時は出前もやっていたというが、オープン10年後の1989年に業態を街中華へ変更し、いまに至るのだ。
なお、場内の「ふぢの」は祖母の後継者が創業家にいなかったところを知人が受け継ぎ、現在の形になっているとか。いまでも両店には親交があり、製麺所は同じところだというが、森さんが独自でレシピを磨いていることもあり、味わいは異なる。
市場近辺には名店が多いが、朝が早いという特性のため早じまいするところも多い。そこでいうと、「中華 ふぢの」は夜も営業していてメニューも酒も豊富。前記のビールは毎月20~25日限定で中グラス320円~になると、サービスもうれしい。築地は場内や場外市場以外にも、素晴らしい街中華があるのだ。
撮影/我妻慶一
【SHOP DATA】
中華 ふぢの
住所:東京都中央区築地3-3-9
アクセス:東京メトロ日比谷線「築地駅」3番出口徒歩1分、東京メトロ有楽町線「新富町駅」4番出口徒歩1分
営業時間:11:30~14:00(L.O.14:00)/16:00~23:00(L.O.22:00)
定休日:土曜、日曜、祝日