クラフトビールが注目されたり、オレンジワインが脚光を浴びたり、お酒の世界には奥深い魅力が広がっています。最近では、組み合わせによる新発想のプロダクトも顕著。たとえば「アサヒ ザ・ダブル」は、日本で初めて麦芽100%のピルスナーとエールをブレンドしたビールとして話題になっています。
そして今回紹介する「イリーガル」は、その垣根を超えた組み合わせ。なんと、ビールとワインを融合させているとのこと! 味わいや製造方法、オススメのフードペアリングなどを踏まえながら紹介したいと思います。
正統派の白ブドウを使った、世界初のビール×ワイン飲料
イリーガルは、チリの著名なワイナリー「ベンティスケーロ」が2016年に生み出しました。ビールとワインを調合し発酵させたドリンクは、世界初だとか。具体的には、オリジナルのクラフトビールにソーヴィニヨン・ブラン種の白ワインをブレンドし、瓶内二次発酵で仕上げられています。
ソーヴィニヨン・ブランといえば、フランスのボルドー地方を原産地とする、由緒正しい王道の白ブドウ品種。ワインの味は爽やかな酸味と繊細で上品な果実感が最大の魅力で、さっぱりとしたシーフードなどがよく合います。
なお、ラベルには「UNFILTERED」の表記もありますが、これは無濾過ということ。フィルターを通していない分、よりナチュラルな味わいが楽しめます。そのため、瓶底をよく見るとにごりやワイン特有の沈殿物である滓(おり)も見られるはず。これはイリーガルの特徴のひとつですが、そのため開栓前に瓶を1、2回逆さにして、ゆっくりと攪拌させましょう。
苦みは控えめで、リアルな果実感のある甘やかな味
そしてグラスへ。最初はやさしく傾け、その後表面の泡を壊すようなイメージで勢いよく注ぎましょう。こうすることで適度に空気が含まれ、アロマを感じやすくなります。ということで、いよいよテイスティング。ソーヴィニョン・ブランがクラフトビールと出合った味わいや、いかに?
液色は、無濾過によるにごりが加わったシャンパンゴールド。たとえるなら、白ビールとして知られるヴァイツェンに近い印象です。グラスを口にして、まず飛び込んでくるのは白ブドウならではのフレッシュでみずみずしいアロマ。イメージしやすいところでいうと、マスカットや柑橘類を思わせるフルーティな香味です。これはビールで感じるフルーティさよりも、よりリアルな果実味のある甘やかなフレーバー。これこそが本物の白ワインをビールと融合させた、イリーガルならではのおいしさといえるでしょう。
味わいとしては、麦によるコクやホップの苦みも。とはいえ苦みは抑えられており、そのため余韻としての鮮烈なホップ感がなく、後キレがきわめてスッキリしていると感じました。総合的な印象としては、斬新ではありながらも正統派のおいしさです。
ビールの熟成時にワインを混ぜて瓶内でさらに円熟させる
独特な味わいの秘密も探っていきましょう。それは製造工程にあります。粉砕した大麦を熱湯に入れて醸し、麦汁にホップを加える工程はビールと同様。これを冷却したのちに発酵熟成させるのですが、熟成させるタイミングでワインをブレンドし、さらに円熟へ。そしてボトリングを行い、瓶内熟成による二次発酵を進めさせるのです。
ちなみに、苦みが抑えられていると前述しましたが、これは投入されるホップに由来しています。イリーガルに使われているのは「サーズホップ」という、大変希少かつ世界でも評価の高い素材。その特徴はビールへの豊かなアロマとフレーバーを演出しながら、苦みがほとんどないこと。あえて苦みを抑えることで、イリーガルならではのフルーティな香味を際立たせているというわけですね。
合わせる料理やグラスのチョイスで楽しみ方が一層広がる
そんなイリーガルの味わいをより楽しませてくれるのが、料理とのペアリングです。ソーヴィニヨン・ブランと同じくシーフードが合うのはもちろん、ハーブを効かせたサラダや東南アジア~南アジア系のエスニックフードもぴったり。和食でいえば、魚介や野菜の天ぷらやおでんなどの練り物、また酸味のあるお寿司も合うでしょう。
そして、グラスによって表情が変わるのもイリーガルの魅力。白ワイングラスに注げばよりワインのような上品さを、チューリップ型のビアグラスに注げば、ビールらしい麦の魅力を一層感じられます。
美食の秋といわれる季節。ぜひこれからのパーティシーンで、イリーガルを試してみてはいかがでしょう。これまでにない新たなおいしさで、食卓を華やかに演出してくれるはずですよ。
【プロフィール】
フードアナリスト/中山秀明さん
フードアナリスト・ライター。なかでもビールに関する執筆が多く、大手メーカー、マイクロブリュワリー、ブリューパブ、クラフトビアレストランなど、小売り、外食問わず全国各地へ取材に赴いている。