グルメ
2018/12/2 11:00

居酒屋だけでなくコンビニにも続々… 静かなハムカツブームを追う

昔ながらの居酒屋の定番おつまみ、ハムカツ。その名の通り、ハムに衣をつけて揚げたものですが、お酒のおつまみとしてだけでなく、最近ではコンビニのサンドウィッチに採用されていたり、洋食店のメニューに出されていたりと、静かなブームとなっているようです。

 

 

ハムカツに魅せられ、食べ歩きや調査はもちろん、定期的にハムカツイベントも主宰するハムカツ太郎こと原 匡仁さんに、いまのハムカツブームと、自身がハムカツにハマった経緯をお聞きしました。

 

ハムカツ太郎こと原匡仁さん。普段は大手アパレルメーカーに勤められ、オフの際にハムカツの食べ歩き、調査に尽力されておられます

 

 

知らない人とハムカツをきっかけに繋がっていく

――まず、原さんがハムカツにハマった経緯からお聞かせください。

 

原匡仁さん(以下、原) 私は1964年生まれですが、中学・高校のときの帰りの際、お腹がすくと精肉店に寄ってコロッケとかハムカツを食べて育ってきました。ただ、それは思い出として、当初はそれほどハムカツを趣味とすることは考えていなかったんですよ。

 

しかし、2015年に、横浜のみなとみらいにBUKATSUDOというシェアスペースが出来ました。その名の通り「大人の部活動をやろう」という目的で始まったスペースなのですが、そこから「うちで昭和部というものをやりませんか?」と誘っていただいて。

 

その時期、私は一人で昭和っぽい昔ながらの酒場、食堂、喫茶店などを巡ってブログを書いていたのですが、自分で人を集めてイベントをやるのはまったく興味がなかったんです。でも、そのシェアスペースは立派なキッチンもあるし、楽しそうだし、「じゃあ、ハムカツでも作って、みんなでお酒を飲めるようなことをしてみますか」ということで、そこから改めてハムカツに注目しました。この流れでそれまでは知らなかった人たちとどんどん繋がっていったんです。

 

――2015年ごろと言うと、昭和の雰囲気を持つ酒場、個人経営の飲食店などが再評価され始めたころですよね。ハムカツも同時に注目を浴びていたのですか?

 

 このころはまだメニューの一つという程度で、特別な感じではなかったのですが、私個人はどんどんハマっていきました。そんななかで、今年の夏に『マツコの知らない世界』という番組から連絡をいただき、紹介させていただいて。その放送で再注目された方が多いかもしれないですね。

↑横浜・みなとみらいにある大人のシェアスペース、BUKATSUDO発行の『BUKATSUDO PRESS』より

 

 

ハムカツの、日本とヨーロッパ同時発祥説

――そもそもハムカツには長い歴史があるとお聞きしたことがあります。

 

 諸説あるのですが、日本ではいつ、どこで生まれたという文献は国立国会図書館に行っても残っていないんですよ。ですから、正確なことは言えないのですが、推測はできます。

 

まず1947年に現在の伊藤ハムさんが「寄せハム」「プレスハム」といった、余った肉とつなぎを入れたハムを開発しました。伊藤ハムさんがすごかったのは、その作り方や製法のレシピをフルオープンにして、他のメーカーさんでも作れるようにしたところなのですが、おそらく、この1947年のプレスハム誕生の後、数年の間に誰かがハムを揚げ始めたのではないかと思っています。

 

一方、ヨーロッパでもコルドンブルーという料理があって、これは薄い肉やハムを叩いた後、中にチーズなどを挟んでカツレツみたいに揚げ焼きして食べるものがあったようです。このレシピがスイスの料理本に初めて載ったのは1949年。

 

だから、ヨーロッパと日本ではほぼ同時期にハムカツらしきものが誕生し浸透していったのではないかと思いますが、確固たる証明はできないわけです。

 

ただハムを揚げただけの料理ですし、「こうでなくちゃいけない」という決まりもなく、各店が工夫をして、自分の店オリジナルのものを作っています。こういった決まりがない、情報もないというところも面白いんですけどね。

 

 

 

↑各店によって、まるで違うハムカツと、ハムカツを使ったサンドウィッチ。こういった自由度の高さも原さんが面白いと感じるポイントだそうです

 

 

コンビニにおけるハムカツの考察

――では、ハムカツが最も流行った時期というのも特定できないのですか。

 

 できないですね。基本的に精肉店が惣菜として出し始めて浸透していったんだと思うのですが、やっぱりメインの料理ではないですからね。

 

コロッケを買って、メンチカツを買って……じゃあ、おまけに、ハムカツも1個買っておこうかという存在ですから(笑)。でも、その目立たない、誰も気にしない感じが私には良かったですね。

 

――それがいまや静かなブームを起こしています。コンビニのサンドウィッチにハムカツサンドというものが出たりして。これは数年前では考えられなかったのではないでしょうか。

 

 ただコンビニはタームがは短いんですよ。例えば、セブン-イレブンだったら、ハムカツサンドが出ても、3週間くらいでまた違うハムカツを使った商品が出たり。これはずっと見ていると面白いですよ。「前のハムカツ商品はヤメたけど、改善してまたハムカツを始めたんだな」とか推測してみると、コンビニの開発ってつくづく面白いなと思います。

↑気にして見てみると、コンビニでもハムカツを使ったサンドウィッチ、パン近年続々と増えています

 

 

美味しいハムカツの定義はない!?

――原さんは主宰されているイベントもそうですが、常に酒場や精肉店巡り、そしてコンビニの観察を行われているのですか。

 

 そうですね。でも、私はハムカツが好きなんで全然苦労はないですよ。ただ、「この店には絶対にハムカツがあるはずだ」と思って入ってみたのに、なかったりすると、それはちょっと残念ですけどね(笑)。

 

ただ、大衆酒場にはハズレがあまりないです。お酒を飲むときにおつまみがないわけにはいきませんが、かと言ってすごく沢山食べるというわけにもいかない。そうなると、ハムカツは本当にちょうどいいですね。個人的にはビールはもちろん、酎ハイとかレモンサワーとハムカツ。そういうスッキリしたお酒と、ハムカツって合うと思います。

 

――また、これはよく聞かれることだとは思いますが、「美味しいハムカツってどこ?」という質問に対して、どうお答えされるのですか。

 

 これは困るんですよ(笑)。自分好みのハムカツってあるじゃないですか。「薄いのがいい」「厚いのがいい」とか。だから、ハムカツに対して「これが理想」という、言わば“あるべき論”みたいなものも実は私の中にはないんです。

 

ただ、最初にハムカツのイベントをやったときは、人に来ていただく以上、自分の記憶に残るハムカツを食べ歩いて、改めてどこが美味しいかを確認して参考にしたことはありましたけどね。

 

上野に、先日閉店してしまった田中食堂っていうお店があったのですが、そこのハムカツは美味しかった。そのときは、ご主人に「このハム、どこで買えますかね」と尋ねて教えていただきました。フチの赤い、昔ながらのチョップドハムという味がしっかりついたものでしたが、これは自分にとって一番好みの素材でした。

 

↑原さんによれば「美味しいハムカツ」を他人におすすめすることはできないものの、個人的には上野にあった田中食堂のハムカツが一番の好みだったそうです

 

 

次なる目標は、ハムカツの文献をまとめること!

――原さんはこういったハムカツ巡りを「ハムカツドウ」と言っていますが、これから先「こういうことをしていきたい」といった目標はありますか。

 

 前述の通りハムカツにまつわる文献とか資料が乏しいので、いつか本を作ってみたいです。また、BUKATSUDOはもちろん、イベントで知らない人とハムカツやお酒を楽しむのは面白いので、これからも続けていきたいですね。

 

イベントを続けるたびに、いろんな分野の面白い方とお知り合いになれるのが面白いです。缶詰にこだわる缶詰博士さん、世界で最初にカニカマを開発した石川県のスギヨさん、観光地によくある顔をハメて写真を撮るボードの顔ハメにこだわっている方とかともお知り合いになれて、これがすごく楽しいです。

 

 

↑ハムカツをめぐって、飲食店やお酒メーカーの方もどんどん交流が広がっていった原さん。その新しい試み、そしてハムカツのさらなる浸透が楽しみです

 

 

あくまでもメイン料理ではないハムカツですが、原さんのお話を聞くと、だからこそ多くの人に愛され、自由に調理されているのではないかと思いました。原さんが日々行っている「ハムカツドウ」もチェックし、あなたならではのハムカツ探しをしてみると、楽しいかもしれませんよ!

 

 

★ハムカツ太郎のハムカツドウ

http://rikueri.hatenablog.com/