個人的に、カツカレーという料理は発明だと思う。厳密にはカツカレーライスだが、このライスをチャーハンにして提供している、ノーベル賞的な街中華「生駒」をご存じだろうか。店は錦糸町駅と菊川駅の中間あたり、京葉道路沿いの「緑三丁目」交差点近辺にある。
“口福”の「排骨カレーチャーハン」で悟りを得る
店主の小池光雄さんは生粋の街中華職人で、いまも現存する人形町の「生駒軒」出身。つまり、店名の「生駒」は修業元に対するオマージュなのだ。
1973年に、いまより両国寄りの緑二丁目エリアで創業。ここは周辺に相撲部屋が多かったことで親方や力士と親しくなり、その関係で小池さんは土俵に上がったことがある。また、店内の壁には街中華ならではの光景でメニュー名がズラリと並ぶが、その字は行司さんが書いてくれたものだ。
その後、1989年に現在の場所へ移転。すっかり老舗といえる貫禄だが、隠れた大発明が誕生したのはごく近年のこと。具体的には覚えていないが、2011年ごろから提供しはじめたという。まかないで、アルバイトの学生が食べていたことがきっかけだ。
ちなみに、その正式名称は「排骨カレーチャーハン」。排骨は中国語でパーコーと読み、本来は豚などの骨付き肉を揚げたもの。現地のレシピに沿っているため、日本のカツとは調理法が違う。また、カレーのソースも中華の技を生かしたあんタイプだ。
排骨の部位は豚の肩ロース。これを、しょうゆに砂糖や酒などを加えたタレで30分ほど漬け込む。カレー粉は赤い缶でおなじみの国民的商品を使うが、独自の味付けも加えているとか。そしてカレーのあんは、ラーメンなど多くの料理に使う中華スープで味を調える。
排骨とカレー。このWパンチを受け止めるため、チャーハンはあえてシンプルに卵とねぎのみ。ただ、塩やこしょうのほかにカレー粉を用いて味をなじませている。そのため、それぞれの個性が争うことなく平和な一体感を保っている。
台湾や下町の名物も激ウマだ!
なお、排骨は台湾の定番料理のひとつ。現地では麺やご飯にのせた形でよく提供されているが、「生駒」には排骨以外にも台湾料理が多い。その理由は、かつて小池さんが台湾出身のコックさんを雇っていたからである。その際に、様々な台湾料理をメニューに取り入れた。家庭の事情で帰国してしまったというが、彼の郷土食はそのまま残ったのである。この従業員がいなければ、前記の大傑作は生まれなかったかもしれない。
台湾料理の代表的なものが「干大根入り 玉子焼き」。卵は4つ使用し、燻製された干しだいこんをねぎとともに加えて焼き上げる料理だ。特筆すべきは食感で、シャキシャキではなくコリコリ。たくあんに近いニュアンスといえるだろう。
同店の多彩な料理のなかには、下町らしい逸品もある。それが純レバだ。これは浅草の街中華「味の工房 菜苑 本店」が元祖といわれており、下町の飲食店で幅広く提供されている。「生駒」の場合は、小池さんが食べ歩くなかで独自のレピシを生み出し、5~6年前にメニュー化したとのこと。
この「純レバ炒め」は生で仕入れた新鮮な鶏のレバーをサクっと揚げ、ねぎ、にんにく、にらとともに炒める料理だ。決め手となっているのが絶妙にピリ辛い味付け。これは特製豆板醤を効かせた、コク深い醤油ダレによるもの。独自手法の調合でトゲトゲしい角をとり、それによって隠し味の甘さを引き立てている。酒や白米が進むことは言うまでもない。
中華料理店でありながら、ときにカレーやカツといった洋食を味わえる自由さが、街中華の魅力のひとつである。そしてなかには「生駒」のように、カレー味のチャーハンに合わせてカツカレーをフュージョンさせる革新派もいる。業態としては古典派で大衆的なものだが、自由のなかから夢のような逸品が生まれるから街中華は面白い!
撮影/我妻慶一
【SHOP DATA】
生駒
住所:東京都墨田区緑4-30-9
アクセス:JR総武線ほか「錦糸町駅」南口徒歩11分
営業時間:11:00~14:00(L.O.13:00)/18:00~22:00(L.O.21:00)、日曜、祝日11:00~14:00/18:00~21:30(L.O.20:30)
定休日:水曜