下北沢を代表するグルメといえば、カレーが挙げられるだろう。ジャンルが多彩で名店も多数。筆者も否定はしない。しかし、どんなカレー店よりも推したい“聖地的存在”な街中華がある。それが「珉亭」だ!
情熱の真っ赤なチャーハンを腹におさめよう
語りたいことは山ほどあるが、まずは名物から紹介しよう。特に有名なのは、ピンク色のチャーハン。その秘密は食紅を使ったチャーシューにある。今回の取材で、多くの「珉亭」ファンが気になっているであろうナゾが明らかになった。
それは、「なぜ赤(ピンク)いのか?」である。これは本場の、蜜などとともに赤く着色して焼くチャーシューにならったから。先代の時期に着色しないチャーシューを使ったこともあったそうだが、「らしくない」と思いすぐに戻したという。なお、同店の場合はチャーシューを刻んだ後にしっかりと食紅で煮込むため、チャーハンが染まるほどの濃い色が付くのである。
チャーハン以外にも名物は多く、その二大巨頭を一度に楽しめる人気メニューが「ラーチャン」だ。ラーメンとチャーハンそれぞれのハーフに、同店オリジナルの漬物「辣白菜」(ラッパーサイ)が付く。
通常の「ラーメン」は650円。これに「辣白菜」をのせると同店オススメの「江戸っ子ラーメン」(750円)となるので、850円の「ラーチャン」は非常にお得である。しかも「ラーチャン」はランチ限定などの制約がないのも嬉しい。数人で飲む際のシメにも最適なのだ。
「辣白菜」の味付けは、しょうゆとニンニクと粉唐辛子がベースで、ごま油が決め手。キムチ的な存在だが、酸味はきつくなくて料理の邪魔をすることがなく、酒のアテにも最高だ。
写真には写らない美味しさがあるから
個性あふれる「珉亭」のメニューの数々。個人的にオススメしたいのが、「ジャンドーフ」だ。こちらは、赤みそと挽肉を中心にブレンドした特製ジャンで仕上げる豆腐料理。味付けは濃いめで野菜にはもやしがたっぷり。つまみとしても重宝する。
ほかに、「バンジー」というユニークなネーミングの料理も美味。これはピリ辛に味付けされた手羽先の唐揚げのこと。バンバンジーと間違われないように、メニュー表には唯一写真付きで紹介されている。
料理以外で同店を語るにあたり欠かせないのは、この街ならではの伝説的ストーリーだ。下北沢といえばライブハウスと劇場。演者であるバンドマン、役者、芸人などに愛され、近くに住んだり界隈の店で働いたりするケースも多い。そこにあって、「珉亭」はいまをときめく有名人がアルバイトをしていたことがある。
特に有名なのが、現在は「ザ・クロマニヨンズ」のボーカリストである甲本ヒロトさんと、ドラマ「孤独のグルメ」で主人公役を務める松重豊さん。「珉亭」二代目店主の鮎澤陽子さんによると、約30年前にそのスターたちは一緒に働いていたとか。
絶品のおいしさと、ほかの街中華にはないメニューが豊富な「珉亭」。なぜここまで独創的になったのかはわからないと鮎澤さんは言う。しかし、初代の胸には「オリジナリティを!」という型にはまらないロックな精神があったはず。そんな哲学から芸術的な料理も生まれ、アーティストたちの心をゆさぶった、と筆者は信じている。2018年発表の曲「アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)」で“下北沢珉亭 ご飯が炊かれ 麺が茹でられる永遠”とうたった小沢健二さんも、そのひとりではないだろうか。
きっと今日も、昼はリハーサル前後の空腹を満たしに、夜は打ち上げや反省会などに、アーティストたちが活用していることだろう。または「さっきのステージは最高だった!」と、ファン同士が乾杯しているかもしれない。下北沢の夢追い人と同様に、赤い看板とチャーハンの輝きは色あせないのだ。
撮影/我妻慶一
【SHOP DATA】
珉亭
住所:東京都世田谷区北沢2-8-8
アクセス:小田急線「下北沢駅」徒歩3分
営業時間:11:30~23:30
定休日:月曜