グルメ
2019/2/23 11:00

【街中華の名店】下北の夢追い人に寄り添う「珉亭」は、ピンクチャーハンを筆頭に芸術性の塊だ!

下北沢を代表するグルメといえば、カレーが挙げられるだろう。ジャンルが多彩で名店も多数。筆者も否定はしない。しかし、どんなカレー店よりも推したい“聖地的存在”な街中華がある。それが「珉亭」だ!

 

↑創業は1964年。再開発のターゲットとなった下北沢は、駅の出入口を含め町が様変わりしているが、この風景は変わらない。変わってほしくない

 

 

情熱の真っ赤なチャーハンを腹におさめよう

語りたいことは山ほどあるが、まずは名物から紹介しよう。特に有名なのは、ピンク色のチャーハン。その秘密は食紅を使ったチャーシューにある。今回の取材で、多くの「珉亭」ファンが気になっているであろうナゾが明らかになった。

↑「半チャーハン」600円。具は卵とチャーシューのみとシンプルで、着色による辛さや酸味はない。単品の「チャーハン」は800円で、約1.5倍となる

 

それは、「なぜ赤(ピンク)いのか?」である。これは本場の、蜜などとともに赤く着色して焼くチャーシューにならったから。先代の時期に着色しないチャーシューを使ったこともあったそうだが、「らしくない」と思いすぐに戻したという。なお、同店の場合はチャーシューを刻んだ後にしっかりと食紅で煮込むため、チャーハンが染まるほどの濃い色が付くのである。

↑つまみやラーメン用のチャーシューの切れ端を刻み、別工程で煮込む。こうして、チャーハン専用の赤いチャーシューが生み出される

 

↑ベースとなるチャーシューはこちら。豚バラ肉を伝統のスープで90~120分煮込んだあと、しょうゆダレで30~40分漬けて完成する

 

チャーハン以外にも名物は多く、その二大巨頭を一度に楽しめる人気メニューが「ラーチャン」だ。ラーメンとチャーハンそれぞれのハーフに、同店オリジナルの漬物「辣白菜」(ラッパーサイ)が付く。

 

↑「ラーチャン」850円。+100円で、ラーメンかチャーハンどちらかを普通盛りにボリュームアップできる

 

通常の「ラーメン」は650円。これに「辣白菜」をのせると同店オススメの「江戸っ子ラーメン」(750円)となるので、850円の「ラーチャン」は非常にお得である。しかも「ラーチャン」はランチ限定などの制約がないのも嬉しい。数人で飲む際のシメにも最適なのだ。

 

↑スープは、毎朝4時間以上炊く鶏ガラとゲンコツによる清湯がベース。ほのかに柔らかな細いストレート麺とともに、五臓六腑にやさしく染み渡る

 

↑写真はセットの小皿だが、「辣白菜」は単品注文するとしっかりとしたボリュームで400円。同店では毎日約30kgを仕込んでいるという

 

「辣白菜」の味付けは、しょうゆとニンニクと粉唐辛子がベースで、ごま油が決め手。キムチ的な存在だが、酸味はきつくなくて料理の邪魔をすることがなく、酒のアテにも最高だ。

 

 

写真には写らない美味しさがあるから

個性あふれる「珉亭」のメニューの数々。個人的にオススメしたいのが、「ジャンドーフ」だ。こちらは、赤みそと挽肉を中心にブレンドした特製ジャンで仕上げる豆腐料理。味付けは濃いめで野菜にはもやしがたっぷり。つまみとしても重宝する。

↑「ジャンドーフ」800円。同店には「マーボドーフ」も同価格で存在し、豆腐好きには悩みどころといえよう

 

ほかに、「バンジー」というユニークなネーミングの料理も美味。これはピリ辛に味付けされた手羽先の唐揚げのこと。バンバンジーと間違われないように、メニュー表には唯一写真付きで紹介されている。

 

↑「バンジー」(右)は2本で600円。一度茹でて柔らかくしてから素揚げして味付ける。人気のため夜にはなくなることも。そのほか、「ギョーザ」は500円、「ビール(中)」は650円

 

↑豚肉に、白菜、キャベツ、ニラをたっぷり加える「ギョウザ」は野菜の甘味豊かな人気メニュー。こうして毎日300~400個包むという

 

料理以外で同店を語るにあたり欠かせないのは、この街ならではの伝説的ストーリーだ。下北沢といえばライブハウスと劇場。演者であるバンドマン、役者、芸人などに愛され、近くに住んだり界隈の店で働いたりするケースも多い。そこにあって、「珉亭」はいまをときめく有名人がアルバイトをしていたことがある。

↑「ここから出発しました」と、したためた役者の色紙も。「それさぁ、早く言ってよ〜」と思った方、あるいは単純に「腹が、減った・・・」という方は、いますぐ同店へ!

 

特に有名なのが、現在は「ザ・クロマニヨンズ」のボーカリストである甲本ヒロトさんと、ドラマ「孤独のグルメ」で主人公役を務める松重豊さん。「珉亭」二代目店主の鮎澤陽子さんによると、約30年前にそのスターたちは一緒に働いていたとか。

 

↑2階は広々としていて、平日のみ予約できる

 

絶品のおいしさと、ほかの街中華にはないメニューが豊富な「珉亭」。なぜここまで独創的になったのかはわからないと鮎澤さんは言う。しかし、初代の胸には「オリジナリティを!」という型にはまらないロックな精神があったはず。そんな哲学から芸術的な料理も生まれ、アーティストたちの心をゆさぶった、と筆者は信じている。2018年発表の曲「アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)」で“下北沢珉亭 ご飯が炊かれ 麺が茹でられる永遠”とうたった小沢健二さんも、そのひとりではないだろうか。

 

↑入口脇のショーケースには、ユニークなうたい文句も

 

きっと今日も、昼はリハーサル前後の空腹を満たしに、夜は打ち上げや反省会などに、アーティストたちが活用していることだろう。または「さっきのステージは最高だった!」と、ファン同士が乾杯しているかもしれない。下北沢の夢追い人と同様に、赤い看板とチャーハンの輝きは色あせないのだ。

 

 

撮影/我妻慶一

 

【SHOP DATA】

珉亭

住所:東京都世田谷区北沢2-8-8

アクセス:小田急線「下北沢駅」徒歩3分

営業時間:11:30~23:30

定休日:月曜