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2019/4/1 20:00

世界に誇る伝説のホップ「ソラチエース」を使ったビールが270円で発売

先日、「日本生まれ、米国育ちの“早すぎた逸材”―」の記事で日本発祥ホップ「ソラチエース」について触れましたが、今回はより核心に迫る内容。時代に翻弄され、数奇な運命をたどったソラチエースの誕生秘話を、いま絶対に飲むべき新作ビールとともに紹介します。

 

 

幾多のクエストを経て、そして伝説へ…

1984年9月5日、ソラチエースは産声を上げました。名称の由来は、北海道空知(そらち)郡上富良野町が故郷だから。開発者は、当時サッポロビールの北海道原料センターで研究員をしていた荒井康則さん。ソラチエースは、黒ラベルやヱビスなどでおなじみのサッポロビールが生み出したのです。

 

荒井さんはその後もホップの育種にたずさわり、いまや世界第3位のホップ大国・中国にホップの栽培ノウハウを伝授するなどをしてきたレジェンド。昨年定年退職されましたが、今回はその意思を継ぎ自社での商品化を実現した、ブリューイングデザイナーの新井健司(たけし)さんに話をうかがいました。

↑新井健司ブリューイングデザイナー。右手には4月9日に全国発売される「Innovative Brewer SORACHI1984」、左手にはソラチエースの「ブランドストーリーブック」を持っています

 

「ルーツをさかのぼると、日本における野生ホップは北海道西部の岩内町が発見の地。1871年と明治初期ですね。それから約100年の時を超え、1974年に荒井がのちにソラチエースとなる品種開発計画をスタート。1975年に生まれたときは『75K-B6-5』というコードネームが付けられました。そして1984年に品種登録を果たすのですが、実はこれが弊社のホップ登録第1号なんです」(新井さん)

 

記念すべきソラチエース、当時は様々なビールに使うべく開発が進められたのですが、ひとつ問題がありました。個性が強すぎたのです。たとえるなら、ヒノキや松、レモングラスなどを感じさせる、きわめて華やかな香り。一方で当時の日本におけるビールは、味わいや香りよりものどごしや爽快感が求められていた時代。需要が見込めなかったため、商品化には至りませんでした。ただ、いつか日の目を浴びることを期待されて大切に守られます。

↑左が一般的なホップで右がソラチエース。ホップの球花(きゅうか)が大きいのもソラチエースの特徴です

 

「少し潮目が変わったのは、10年後の1994年。アメリカに渡りました。クラフトビールのムーブメントが起きていて、個性派ビールの人気が高まっていたからです。ところが、中身のメインストリームはホップよりもビアスタイル。いまでこそアメリカは世界有数のホップ大国ですが、当時はまだ上面発酵の『○○エール』やベルギー系など、醸造法の違いで変わる多彩なビアスタイルが注目されはじめた時期。個性の主役はホップではなく、ソラチエースもそこまで広がりませんでした」(新井さん)

 

転機が訪れたのは2002年。ダレン・ガメシュさんという、有名なホップ農家のマネージャーがソラチエースと出合い、その香りに衝撃を受けます。彼は“米国クラフトビールブームの影の演出者”といわれるほど影響力があり、多くのブルワリーとパイプを持っていました。そしてソラチエースを紹介していったのです。やがて2008年にはカリスマ、ブルックリンブルワリーとも邂逅。先日の記事で紹介した「ブルックリン ソラチエース」が生まれるなど、世界中に広がっていったのです。

↑新井さんがソラチエースを知ったのは、実は2013~2014年のドイツ留学時。「サッポロビールといえばソラチエース」と数人の醸造家からいわれ、海外での知名度の高さに驚いたそう

 

「留学は商品開発のためでもありましたので、帰国後は絶対ソラチエースで商品化をしたいなと。3年前から何度か限定発売してきたのですが、やっと供給体制が整い、お求めになりやすい価格で全国発売できるようになりました。ぜひ飲んでください!」(新井さん)

 

ビール好きな筆者。ソラチエースには以前から注目しており、2016年からサッポロビールが限定発売していることは知っていました。ただしネットや「銀座ライオン」などの飲食店に限られていたので、きわめて希少だったのです。

↑2016年にオンライン限定で発売された「Craft Label THAT’S HOP 伝説のSORACHI ACE」。当時の価格は1ケース(12本)4328円(税込)

 

↑2018年に同じくオンライン限定で発売された、上富良野産ソラチエースを100%使用の「伝説のホップ ソラチエース」。同時発売した「奇跡のホップ フラノマジカル」との各12本×2セットで2万7000円(税込)

 

レア商品だった時期を経て、4月9日に満を持して一般発売される「Innovative Brewer SORACHI1984」。実際に飲ませてもらうことに!

 

1缶270円はきわめてうれしいプライス!

改めて、新商品の特徴を。ソラチエースならではのヒノキや松、レモングラスのような香りを独自のドライホッピング製法で引き出したのが「Innovative Brewer SORACHI1984」。ビアスタイルは軽やかなゴールデンエールですが、これはその魅力を最大限に生かした結果がゴールデンエールだったそうです。

↑350ml缶で270円(税込・参考小売価格)と、筆者が知るソラチエース使用ビールのなかでは最もおトクな価格。アルコールは5.5%と高すぎず、IBU(苦味度)は35(「よなよなエール」は41)とほどよく、比較的飲みやすいのもポイントです

 

飲んだ感想は、ハーバル&フローラルな優美さと、柑橘系の風味をまとった苦みがしっかり。どこかパッションフルーツやココナッツ的なフレーバーも感じ、それでいてウッディな香りも。これまで、ほかにもソラチエースを使ったビールを好んで飲んできましたが、多彩な要素が華やぐ独特な味わいが、ソラチエースらしさなのかなと再認識しました。

↑ソラチエースの球花の内部にあるルプリン。この黄色い粒子がホップの香り成分のもとです

 

↑ソラチエースを使った日本の先駆け的なビールが、常陸野ネストビールの「NIPPONIA」(ニッポニア)。アルコールは8%で、公式サイトでは550ml瓶が810円で発売されています

 

まさに真打ち登場といえる「Innovative Brewer SORACHI1984」。サッポロビールとしても、クラフトビールブランドにおけるフラッグシップとのことで意気込みを感じます。では、今後の展望はいかに。

 

「今回のように、ホップにフォーカスしたフレーバービール。また、ビールの楽しさや驚きを提案するビールの2軸でさらなる商品開発を展開していきます。ソラチエースに関しては、ほかのホップとブレンドすることで味の性質を変えられることなどが研究でわかってきました。ボディ感をアップさせたり香りを豊かにしたりと、可能性は無限大。こちらもご期待ください!」(新井さん)

 

本稿で何度か触れてきましたが、個性あふれるソラチエースはほかのホップより特徴を感じやすいはず。「ブルックリン ソラチエース」とほぼ同時期に全国発売となった「Innovative Brewer SORACHI1984」。後者はコンビニやスーパーなどにも並ぶので、入手しやすくなっています。飲み比べるなどして、ぜひ世界が称賛する伝説の味を実感していただけたら!

 

 

撮影/我妻慶一