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お酒
2019/9/17 18:00

【ラ飲みの名店】つまみは、ほぼ裏メニュー!? 〆の一杯は「ある意味、もっとも贅沢」と絶賛される曙橋「角久」

ラーメン店でお酒を楽しむ、通称「ラ飲み」。本稿は、お酒をより深く楽しむための情報サイト「酒噺」(さかばなし)とコラボし、この「ラ飲み」にスポットを当てた企画である。

 

案内人は、GetNavi本誌でラーメン連載を持つミュージシャン、サニーデイ・サービスの田中 貴さん。本稿では「ラ飲み」でオススメの店を行脚しつつ、「ラ飲み」の楽しみ方や珠玉のラーメンを紹介していただく。今回は、全6回となる短期連載の第2弾をお届け。

第1回の記事はコチラ→【ラ飲みの名店】「コスパの概念」が吹っ飛ぶ店を知っているか? つまみ、手打ち麺ともに衝撃的な「金町製麺」

 

【プロフィール】

田中 貴(たなか・たかし)

サニーデイ・サービスのベーシスト。日本全国を食べ歩くラーメン好きとしても知られ、TVや雑誌などでそのマニアぶりを発揮することも多い。バンドの新作としては、9月4日にサニーデイ・サービス、丸山晴茂在籍時の国内ラスト・ワンマン公演収めたDVD「Birth of a Kiss」をリリース。そのほか2019年はアルバム制作のかたわら、様々なアーティストのライブサポートを行っている。

 

お酒を注文するとサービスで日替わりのお通しが

今回田中さんが訪れたのは、都営新宿線「曙橋駅」が最寄りの「江戸川ラーメン角久(かどきゅう)」。前回の「金町製麺」はつまみが充実している店だったが、今回は違う。メニューの多くはラーメンで、アテになりそうな料理は「つまみチャーシュー」ぐらいだ。こういったお店で「ラ飲み」を楽しむには?

 

「まずはお酒が置いてあるかどうかをチェック。角久はビールやチューハイが缶でそろっています。僕は、メニューにはない『ミドリ』と呼ばれるオリジナルの緑茶割りを飲んでますけどね。あと、ここはお酒を注文するとお通しがサービスで付いてくるんですよ。その日によってカボチャの煮物とか、天ぷらとか餃子とか。女将さんが手作りする家庭料理っぽい小鉢に安らぎを感じますね。あと、つまみチャーシュー以外にも、ラーメンってトッピングがあるじゃないですか。角久なら煮玉子とかキムチとか。それを単品で注文して、お酒のつまみにするんです」(田中さん)

↑お通しは日替わりで、この日はひじきの煮物

 

↑サービスのお通しは、どれもほっこりするおいしさ。「ミドリ」は350円で、メニューにはのっていないが常連客のほとんどがこれを飲む。しかも、アメリカン、レギュラー、エスプレッソと濃さを選ぶことが可能

 

↑ほどよい塩味でお酒が進む「半熟煮玉子」100円(左)と、ほうれん草がたっぷりでラーメンダレの隠し味も絶品な「つまみチャーシュー」350円(右)  ※お酒の画像はイメージ。店舗でも取り扱いなし(以下同)

 

居心地の良さに惹かれ、何回も通ううちに裏メニューの存在を知る

しかも同店の場合は「ミドリ」がそうであるように、つまみにも裏メニューがいくつもあるのだとか。そういったところも、田中さんが同店をピックアップした理由なのだ。

 

「ネットに詳しい情報がのってなくても、にぎわってるラーメン店ってありますよね。その理由はおいしさだけじゃなく、居心地の良さもあったりすることが多いんです。たとえば、手が空いてる時なら、気さくな店主がお客の要望を叶えて裏メニューを作ってくれるとか。角久はまさにそういうお店。僕も、何回も通ううちにお店の人や常連と仲良くなって、徐々に裏メニューがあることを知ったんです。クチコミサイトに書き込む人って、ウマい店であっても一度しか行かないみたいなところがあるので、こういう楽しさまでは知ることはできないんですよ」(田中さん)

 

そんな裏メニューのひとつが、トッピングの「ネギ」と「のり」を組み合わせた「ネギのり」だ。ネギはラーメンのタレとスープで味付けされており、これをのりで巻いて食べるのがオススメ。

↑「ネギのり」300円。それぞれ150円のネギとのりを、常連が自ら工夫してつまんでいたのがきっかけだという

 

↑こちらも裏メニューの「ほうれん草のバターコーン炒め」400円

 

人に話したくなるお酒のお役立ち情報やうんちくを知りたい方は、酒噺へ!

 

ラーメンは「インパクト重視ではなく、グイグイと引き込まれるタイプ」

次はいよいよラーメンだ。同店はタレ、スープ、麺をそれぞれ1種類だけ用意する、いわばストロングスタイル。濃さや麺の硬さを変更できるほか、トッピングで自分好みの味を楽しむのだ。田中さんの“いつもの”は、味の濃さと油の量はそのままで、麺はやわらかめ。

↑店主の山口正行さん(右)と。女将さんと夫婦で営業していて、常連からは「お父さん、お母さん」の愛称で親しまれている

 

できあがったラーメンは、鶏油(チーユ)が香る豚骨醤油のスープに中太麺を合わせ、ほうれん草と大判ののりをのせた、横浜家系に似たルックス。だが食べてみると、この一杯が平均的な家系とは一線を画すおいしさであることに驚く。

 

「インパクト重視ではなく、グイグイと引き込まれるタイプのラーメン。タレは少なめの薄味で、スープとは別に取った鶏油以外に油はほとんどありません。でも、この骨から出るシンプルなうまみにどんどん魅了されます。僕自身、最初は『やさしいスープだな』というくらいの印象だったんですが、なんだか気になって訪れるうちに、この味の深さに気付かされました」(田中さん)

↑「ラーメン 並」650円。サイズはほかに中(800円)と大(950円)がある

 

丁寧な仕込みが豚骨・鶏ガラ本来のうまみを引き出す

深みはあってもクドさは皆無。ゆえに白濁した豚骨系スープながら、毎日でも食べたくなるやさしさがあるのだ。そしてその秘密は、丁寧な仕込みに隠されている。ベースは豚のゲンコツと豚の背ガラ、鶏ガラの3つ。これらはダシが抽出されるタイミングが異なるため、1時間おきに鍋へ。さらに臭み消し用の香味野菜と昆布を加え、強火で計15時間じっくりと炊いていく。

↑厨房には大きな羽釜が2つ。また、これとは別に寸胴の鍋もある

 

しかもその丁寧な仕事は、下処理からはじまっている。あるとき田中さんが厨房を覗くと山口店主が細やかな所作をしており、そのときに発見したのだとか。

 

「手の空いたタイミングで、大将が豚骨を1本ずつ手に取り、ピンセットか毛抜きのようなものを使って、脂や血合いなどの余計な部分を取り除いていたんです。そうやって完璧なまでに下処理されているから、このスープには臭み、エグみ、雑味が一切なく、豚骨・鶏ガラ本来のうまみをダイレクトに感じられるんです。

 

夜のみ営業の小さなお店なので、炊くスープの量も多くないからこそできる手の掛け方です。ある意味、最も贅沢な一杯。常連さんはラーメンマニアではないですし、味の細かいところまでは気付いてないでしょうが、この丁寧な仕事によって、知らぬ間に連日食べたくなる一杯になっているんです。そこそこウマいくらいのラーメン屋じゃあ、こんなに常連が集うことはありえませんから」(田中さん)

↑麺の量は並で150g。比較的細めな中太タイプで、ほどよくシルキーなスープにマッチする

 

人に話したくなるお酒のお役立ち情報やうんちくを知りたい方は、酒噺へ!

 

 

のどごしがよいつけ麺と裏メニューの麺にも注目

ラーメン以外の公式な麺料理がつけ麺だ。ラーメンの味付けをベースにカツオ、煮干し、昆布から抽出したダシを加え、ほんのり辛味を効かせたつけ汁。ゴマやかいわれ大根で香ばしさや爽やかさを加えた味が食欲を刺激し、冷水でシメた麺と絶妙にマッチ。ツルツルっとのどごしがよく、飲んだあとでもペロリといける食べやすさだ。

↑「つけ麺」800円。大盛りは950円となる

 

また、前段で“公式な麺料理”と述べたが、ラーメン類にも公式でない料理=裏メニューが存在する。これらは仕込みや混雑状況によるため必ず提供してもらえるわけではないが、運がよければ、辛口ラーメンや溶き卵を加えた一杯などが味わえる。そしてこの日は……運がよかった。夏の定番「冷やし中華」が用意されていたのだ!

↑「冷やし中華」850円。提供期間の目安は7~9月ごろ。店内にメニューの張り出しはない、常連だけが知る夏の幻の一皿だ

 

「冷やし中華を食べると夏だなぁ、と思いますよね。角久の夏の思い出といえば、フジロック(国内最大級の野外音楽フェス「フジロックフェスティバル」のこと)帰りのワンシーン。お母さんに『おかえり!  ちょっと疲れてんじゃないの?』なんて声かけられて、当時はまだ僕の職業がバレていなかったから『ちょっと仕事で新潟まで行ってたんですけど、雨がすごくてずぶ濡れになってねぇ……(フジロックフェスティバルの会場は苗場で、山のため雨がよく降る)』と。『あら随分遠くまで……カゼひかないように気をつけるんだよ!』ってやさしい言葉に癒されつつ、さっきまで数千人の大歓声を浴びてたのに、3時間後には近所のいつものお気に入りのラーメン屋でひとりで飲んでる自分にニヤニヤしたり」(田中さん)

 

ご近所でラ飲みのできる「ちょっといい店」を探してみては?

一日を振り返り、ゆっくりと素の自分を取り戻していく……そんな癒やしの場所があると、人生はちょっぴり豊かになるだろう。その意味でも、ぜひ「ラ飲み」ができる店を1軒は確保しておきたいところだ。

 

「角久みたいに本当にウマい店は少ないかもしれませんが、どの街にも気さくなご夫婦がやられているような“ちょっといい店”っていうのはあると思うんです。近所の常連さんと会話しながら軽く一杯やって、最後はラーメンで〆る。本格的な飲み屋さんとは違うからこその楽しさ。仕事帰りにちょっと寄り道して、そういうラーメン屋を探してみる。これもラ飲みの楽しさのひとつです」(田中さん)

 

BGMが有線の昭和歌謡チャンネルのせいか、ここ角久には、子どものころに見ていたバラエティ番組のような「古きよき風景」がある。休憩中にやって来る“イカついけど話すとやさしい”タクシー運転手は伊東四朗で、向かいの陽気な学生グループはザ・ハンダース。おっと、ほろ酔いでご機嫌な小松政夫が入ってきたよ……。顔なじみの常連さんをラーメン屋のコントの登場人物にたとえて、ひとりほくそ笑むのもまた一興。ただ、近所の女子大生3人組のキャンディーズが入ってくることは、決してない。それだけが残念である。

↑今回も前回と同様、取材にGetNaviのプロデューサー・松井謙介(左)が駆けつけて乾杯。このあとは演奏ができるライブバー、そしてスナックへとハシゴしたという……

 

撮影/我妻慶一

 

【SHOP DATA】

江戸川ラーメン角久

住所:東京都新宿区市谷台町8-2 ルシエール ハル 1F

アクセス:都営新宿線「曙橋駅」A2口徒歩3分

営業時間:火~土19:00~翌1:00、日18:00~23:30

定休日:月

 

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