街中華を語るうえで欠かせない街のひとつが浅草だ。日本におけるラーメン店の元祖「来々軒」が存在していた地であり、歴史深い歓楽街のため老舗飲食店はどこも実力派で街中華も言わずもがな。そんな浅草における、焼き餃子のパイオニアが今回の舞台である。名は「餃子の王さま」。
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名物はやはり焼き餃子で、ほかにも数種の餃子を提供しているが、つまみや麺飯類も豊富な正統派の街中華である。そして、「ミシュランガイド東京」の餃子カテゴリーで3年連続ビブグルマンに選ばれている数少ない街中華なのだ。名実ともに認める“キングオブ餃子”、その魅力をお伝えしよう。
揚げ焼きなのに重くない。あっさり野菜なのに軽くない
フラッグシップは「王さまの餃子」。創業時より変わらない伝統のレシピで生み出される傑作だが、見た目も味わいも一般的な餃子とは違い個性が際立っている。生地同士がピシっとそろった、餃子のお手本のような美しいフォルム。多めの油で揚げ焼きしたことが分かる、こんがりとした焼き面。それでいて重くないのは、あんのほとんどが野菜だからであろう。
具材のバランスは野菜が9で豚肉が1。あっさりとした味わいで、何皿でもイケそうなあきないおいしさに仕上がっている。だが、これはただのあっさり餃子ではない。野菜や肉の甘味やコク、油でカリッと焼かれた生地のうまみなどもしっかりと主張し、非常に好バランスなのだ。
また、あんの食感も唯一無二といえるシルキーな口どけで驚かされる。これは野菜が非常にきめ細かく刻まれているから。しかもこれだけ細かいにもかかわらず、ベチャっとした水っぽさは皆無。パンチのあるクリスピーな生地のなかに、なめらかなテクスチャーの優しい甘さのあん。この味のメリハリが、だれもたどり着けない王者の境地なのだ。
野菜はキャベツ、にら、にんにく、しょうがを微細に刻み、しっかりと水を切る。キャベツに関しては葉と芯で食感が異なるため、切り方にも工夫してひとつのまとまりに。また、季節や産地によって味が変わるため、味付けは都度調整。にんにくはうまみ豊かな青森産を、においが出ないように生ではなくひと手間加えて調合。
こうして65年以上前から作り続けられている「王さまの餃子」。同店にはこのほか約20年前に二代目が生み出した「湯餃子」420円、「肉餃子」500円、「スープ餃子」750円もある。これらは「王さまの餃子」とはあんが異なり、具材は豚ひき肉をメインに玉ねぎ、にら、しょうが。肉のパンチがあるため、あえてにんにくを使わないのもポイントだ。