グルメ
2020/1/18 11:00

海なし県から漁港の目の前へ。魚に魅せられたシェフが教える「スゴイ魚料理」

『スゴイ魚料理』という書籍が出版されました。レシピ本なのですが、いやコレ、本当にスゴいんです。たとえば、表紙には真っ黒いソースがかかった魚料理。

「ここまで手の込んだ料理を作るのは難しそうだな……」と挫けそうになるんですが、読んでみると「これは自分でもできる!」と背中を押してくれる肯定感があるんです。

↑著者の依田隆シェフ。手にしているのが同書
↑著者の依田隆シェフ。手にしているのが同書

 


『スゴイ魚料理 〜漁港の目の前にあるレストランのおいしい魚レシピ〜』
1500円(税別)/秀和システム

 

今回は、著者であるシェフ・依田隆さんのレストラン「イルマーレ」を訪ね、料理や本書への思いを聞いてきました。掲載レシピにも触れながら、その魅力をお伝えしたいと思います。

 

日本一駅に近い港が目の前にあるイタリアン

同店最大の特徴は、目の前が小田原漁港ということ。ここは“日本一駅に近い港”でもあり、そんなロケーションがお店のおいしさにも直結しています。鮮度抜群なのはもちろん、特別な魚が獲れた際にいち早く教えてくれるなどのメリットも。魚を得意とする料理人からしたら、これ以上の環境はないでしょう。

↑「イルマーレ」は、JR東海道本線「早川駅」より徒歩約3分の場所にあるリストランテ。撮影/寺澤太郎(『スゴイ魚料理』より)
↑「イルマーレ」は、JR東海道本線「早川駅」より徒歩約3分の場所にあるリストランテ。撮影/寺澤太郎(『スゴイ魚料理』より)

 

毎朝、市場に行って仕入れる料理人はたくさんいます。ただ、依田シェフの場合は、関わり方がさらに濃密。毎朝市場から直接仕入れるのはもちろん、そこで仲買人や漁師の“手伝い”もしているのです。それはもはや“市場で働いている”ようなもの。本書には、そんな市場におけるシェフの姿や、魚以外の食材を卸してくれる地元の生産者さんとの絆も描かれています。

↑ヒラメ漁師の伊予田 工さんと。撮影/寺澤太郎(『スゴイ魚料理』より)
↑ヒラメ漁師の伊予田 工さんと。撮影/寺澤太郎(『スゴイ魚料理』より)

 

依田シェフは現在だけでなく、これまでの歩みも実にユニーク。海のない埼玉県で育ち、26歳で会社員から料理人へ転身、都内のイタリアンレストランでの修業ののち、イタリアへ渡ります。帰国後に活躍の場を小田原へ移し、「リストランテ・ヒロ マーレ」を経て2006年にオーナーシェフとして「イルマーレ」をオープンしました。そもそも、脱サラしてイタリアンの料理人になったのはなぜ?

 

「“職人”への憧れがあったんです。花屋もいいなと思ったんですが、最終的に料理人を選びました。イタリアンは、素材を生かしたシンプルな料理であることに魅力を感じて。現地に行くと、肉は肉、魚は魚と特化したトラットリアやリストランテがたくさんあるんですよ。だから僕も、自分の店をやるなら何かの素材に特化したいと思ったんです」(依田シェフ)

↑小神野竜成さん(左)、岩井樹里さん(右)とのチームワークで日夜、絶品料理を作っています
↑小神野竜成さん(左)、岩井樹里さん(右)とのチームワークで日夜、絶品料理を作っています

 

食感と香りのメリハリが味覚に作用する

筆者が本書を読んで興味深かったポイントが、レシピだけでなく“料理をおいしく作る技”もちりばめられていること。そのひとつが「万能野菜4傑」のページにあります。トマト、エシャロット、じゃがいも、キュウリがその“4傑”なのですが、なぜこの4つなのでしょうか?

↑「これさえあれば!」と紹介されている、4種の野菜。細かくカットすることがポイントのひとつだそう。撮影/寺澤太郎(『スゴイ魚料理』より)
↑「これさえあれば!」と紹介されている、4種の野菜。細かくカットすることがポイントのひとつだそう。撮影/寺澤太郎(『スゴイ魚料理』より)

 

「トマトは酸味も甘味もあって、イタリアンに欠かせない野菜のひとつです。エシャロットは、ちょっと入れるだけで風味をガラッと変えてくれる優れもの。じゃがいもはホクホクした食感が欲しいときに、キュウリはさっぱりさせる効果やシャキシャキ感のアクセント。そういった“メリハリ”があるだけで、味覚って感じ方が全然違うんです。食感と香りに意識して調理すると、スゴくおいしくなるんですよ」(依田シェフ)

 

では、『スゴイ魚料理』に掲載されているレシピから、3品紹介しましょう。

ここからは、『スゴイ魚料理』のレシピを一部紹介。まずは個人的に「これがアクセントの妙か!」とうなった、シンプルながら奥深さを感じた「イナダのサラダ仕立て」から。

 

1. イナダのサラダ仕立て

↑「イナダのサラダ仕立て」。オリーブとアンチョビによる「タプナードソース」的なペーストがのるだけで、刺身の味がガラっと洋風に。カルパッチョよりも、ストレートに魚のおいしさを伝えるならこちらでしょう。撮影/寺澤太郎(『スゴイ魚料理』より)
↑「イナダのサラダ仕立て」。オリーブとアンチョビによる「タプナードソース」的なペーストがのるだけで、刺身の味がガラっと洋風に。カルパッチョよりも、ストレートに魚のおいしさを伝えるならこちらでしょう。撮影/寺澤太郎(『スゴイ魚料理』より)

 

【材料】
イナダ(刺身用):4切れ
松の実(ロースト):10~12粒
ピスタチオ:適量

オリーブペースト……市販のオリーブペースト:大さじ2、アンチョビペースト:大さじ1

 

【作り方】
1.イナダを厚めにスライスして片面に塩をふる。
2.皿にイナダを盛り付け、オリーブペースト、松の実の順にのせる。
3.仕上げにピスタチオを散らす。

 

2. 桜海老のパスタ

次は「桜海老のパスタ」。彩りも味わいもビビッドに仕上がり、そしてワインでも日本酒でもジャンルを選ばずお酒と合いそう、という観点が筆者の心をわしづかみに。

↑「桜海老のパスタ」。身近なパスタなので、チャレンジしやすいともいえるでしょう。撮影/寺澤太郎(『スゴイ魚料理』より)
↑「桜海老のパスタ」。身近なパスタなので、チャレンジしやすいともいえるでしょう。撮影/寺澤太郎(『スゴイ魚料理』より)

 

【材料】
桜海老(生):50g
オリーブオイル:小さじ1
にんにく:小さじ1
唐辛子:ひとつまみ
生海苔:20g
バター:5g
枝豆:15g
トマト:大さじ1
パスタ(スパゲッティーニ):100g ※表示通りに茹でる

あさり出汁:40~50g
【あさり出汁の作り方】
・材料(つくりやすい分量)……あさり:1kg、水:あさりが浸る程度の分量
・作り方……1)あさりは砂を吐かせ、貝と貝をこすり合わせるように洗う。2)鍋にあさりと水を入れ、火にかける。3)沸騰したらアクをていねいに取り、蓋をして弱火にかける。4)キッチンペーパーをザルにしき、ゆっくりと濾す。5)氷水で冷ます。

【作り方】
1.フライパンにオリーブオイルを熱し、にんにく、唐辛子を火にかける。
2.桜海老を入れて、香りが出るまで炒める。
3.あさり出汁とバター、生海苔を加えてさらに火をかける。
4.枝豆とトマトを入れ、さっと絡めて、茹でたパスタと和える。

 

3. イカラグー

そしてもうひとつは筆者が一番「作ってみたい」と思った「イカラグー」という万能ソースです。ラグーは牛肉を使うタイプが有名ですが、本書を読んで「イカを使うという手があったのか!」と脱帽。

↑「イカラグー」。これをタコスに代用したらイカス……なんて思ったり。撮影/寺澤太郎(『スゴイ魚料理』より)
↑「イカラグー」。これをタコスに代用したらイカス……なんて思ったり。撮影/寺澤太郎(『スゴイ魚料理』より)

 

【材料】
イカ(生をカットして冷凍したもの):300g
オリーブオイル:適量
にんにく:5g
トマトソース:200g
塩:少々

ソフリット:30g
【ソフリットの作り方】
・材料(つくりやすい分量)……にんじん:60g、セロリ:45g、玉ねぎ:400g、オリーブオイル:大さじ1
・作り方……1)にんじん、セロリ、玉ねぎをみじん切りにする。※フードプロセッサーにかけてもよい。2)熱したフライパンにオリーブオイルを入れ、1を弱火でじっくりと炒める。

 

【作り方】
1.イカは冷凍のまま、フードプロセッサーで細かくカットする。
2.オリーブオイルを熱したフライパンで1を炒めて、ザルに上げる ※出た水分は捨てない。
3.別のフライパンでにんにくを熱し、香りが出たら、イカを加える。ソフリットを加える。
4.馴染ませるように混ぜながら、トマトソースを入れて、強火で様子を見ながら5分煮込む。 ※トマトの酸が出ればOK。※あまり長く煮込まない。
5.塩で調味して煮詰める。

↑こちらは「イカラグー」を使った「イカスミパスタ」。詳しいレシピは本書にのっています。撮影/寺澤太郎(『スゴイ魚料理』より)
↑こちらは「イカラグー」を使った「イカスミパスタ」。詳しいレシピは本書にのっています。撮影/寺澤太郎(『スゴイ魚料理』より)

 

レシピはあくまでテクニック。食べ手のことを想像する気持ちも大切

このほか、『スゴイ魚料理』には58種類もの多彩なレシピがのっています。ではそのなかで、料理ビギナーにオススメなメニューはどれでしょうか? シェフに聞いてみました。

 

「うーん、難しいですねぇ。というのも、レシピはあくまでテクニックのひとつで、僕は食べ手を想像することも大切ではないかなって。おいしく食べてほしいっていう気持ちがあるから、丁寧に骨を取ったり、食べやすいサイズに切ったりすると思うんですね。これを食べてみたい、食べてほしいという料理にトライしていただき、一生懸命想像をふくらませて作ればどの料理もきっとおいしく仕上がりますよ」(依田シェフ)

↑「イルマーレ」の店内。とにかくシェフの料理を食べたい!と思った方はぜひ同店へ。撮影/寺澤太郎(『スゴイ魚料理』より)
↑「イルマーレ」の店内。とにかくシェフの料理を食べたい!と思った方はぜひ同店へ。撮影/寺澤太郎(『スゴイ魚料理』より)

 

加えて、料理をおいしく作るコツを聞くと「あえて挙げるなら、食材本来の味を知ること」とか。素材の味を知ってはじめて、料理に応用できるというわけですね。そして最後に、『スゴイ魚料理』に込めた思いも聞いてみました。

 

「魚のおいしさや、魚料理の可能性をもっと知っていただきたいんです。まだまだ知られていない魚の魅力っていっぱいありますから。本のなかには、一見すると難しそうな料理が出てくるかもしれませんが、僕のモットーは素材のうまみを生かすこと。作ってみるとシンプルで、そう難しくないはずです。ぜひ多くの方にチャレンジしていただきたいです」(依田シェフ)