長いもや調味ダレなどを駆使する大ぶり餃子も絶品
ここまで3品の必食メニューを紹介したが、実は同店で一番人気なのは餃子だ。こちらは見た目こそ一般的な餃子と大差はないが、あんに独自の食材や調味料が使われている。長いも、全卵、みそダレ、焼肉のタレだ。ベースは豚ひき肉、キャベツ、ニラ、しょうが、にんにくなどベーシックだが、隠し味的なエッセンスを加えることで、口どけやうまみの輪郭をよりよくしている。
ひき肉は赤身と白身を分けて仕入れ、自家調合。キャベツは微細にカットするなど、基本の具材にも手間ひまをかけて仕込む。あとは焼けばほぼ完成といえる餃子なので、まずは何も付けずにそのまま。次は酢とこしょうで食べるのが福澤さんのオススメだ。
ほかに、お酒のお供として人気なのは「揚げレバー」。これは「揚げ茄子」「揚げ餃子」とともに“揚げの三兄弟”としてカテゴライズされたシリーズのひとつで、前記の肉屋から届く新鮮なレバーを、パンチの効いた味付けで調理する逸品だ。
南の島から上京し、陸の孤島に都会のオアシスを作った
最後に、「菜来軒」の歴史を聞いてみた。ルーツは鹿児島県・奄美群島内の加計呂麻(かけろま)島。その島出身の、福澤さんの家族や親戚が上京し、はじめた中華料理店が「菜来軒」だという。
1944年生まれの福澤さんもその道へ続いた。地元の高校卒業後に兄の「菜来軒」で修業し、結婚後はいとこが営む「菜来軒」へ。いとこ親族は48人という大所帯で、その一番年下だったのが福澤さん。そしてご主人とともに独立して1981年、この墨田区石原に自身の「菜来軒」をオープンさせた。
昭和、平成、令和と時は流れて約40年。ご主人は昨年他界したが、福澤さんは5人の子どもと13人の孫に恵まれ、ときおり手伝ってもらいながらいまも元気に店を切り盛りする。常連客には若めのおひとり様も多いというが、きっと“おかあさんの味”や温もりを求めてのことだろう。
壁には営業時間の張り紙とともに、「時間外はおかあさんに体調きいてね~」「菜来軒を長く続けてほしい委員会」といった文も書いてあり、いかに愛されているかがよくわかる。また、メニューリストを作ってくれる常連がいるなど、まさに“下町人情”を絵に描いたような空間なのだ。たまにはちょっと時間をかけて、東京の街を歩いてみよう。なかには、同店のようなオアシス的街中華もあるのだから。
撮影/我妻慶一
【SHOP DATA】
菜来軒
住所:東京都墨田区石原4-19-4
アクセス:JR総武線ほか「錦糸町駅」北口徒歩14分
営業時間:11:30~24:00(14:30~16:30は不定休)
定休日:月曜