ウーバーイーツが2016年9月に日本上陸して、3年半。利用可能エリアの拡大、大手チェーンの提供開始などで、首都圏では配達員の姿をよく見かけるようになった。一方で、本部と配達員間における契約問題や、配達員のマナーや態度、食品廃棄などがウェブで取りざたされ、よくない印象を持っている人もいるのではないだろうか。
労働問題と絡んで配達員の声が掲載されたり、SNS上でユーザーからのトラブル投稿があったり、というのは定期的に見かけるが、食事を提供する側の飲食店はどう思っているのだろうか。そこで、ウーバーイーツの注文もよく入るグルメハンバーガーショップと、実店舗をもたないゴーストレストランを展開する2つの人気店オーナーに、メリットやシステム、配達員の印象についてインタビューした。
1年半で売り上げが4倍以上アップしたものの…
最初に訪れたのは、吉祥寺にあるハンバーガーレストラン「ファッツ・ザ・サンフランシスカン」。そもそもハンバーガーはウーバーイーツのなかで最も人気が高いジャンルであり、同店は界隈の個人店のなかでトップレベルの好評価を得ている。
店主のレヴィン・ジョナサン氏は日本在住歴の長いアメリカ人で、ウーバーイーツ発祥の国出身。母国におけるライドシェアのウーバーやウーバーイーツにも詳しく、同店でも吉祥寺が対象エリアになってから、早い段階で導入した。
「導入したのは2018年の夏で、当初に比べてウーバーイーツの売上は4倍以上に増えています。実店舗との割合でいえば、現在は約20%がウーバーイーツですね。多い日は20弱のオーダーが入り、恩恵はかなり受けてますよ。ただ、手数料として約40%かかりますし、その条件がさらに変わることもあり得るじゃないですか。そういった部分も含め、手放しでは喜べないですね」(ジョナサン氏)
手数料は別にしても、作り手としては実店舗でできたてのおいしさを楽しんでほしいというのが本音。その点では、ウーバーイーツで食べたことをきっかけに、店に来てくれた例もあるという。
「うちのハンバーガーを食べたいのに、システムで注文できなくなっているから買いに来ました、というありがたいお客様もいらっしゃいましたね。これ、なんで注文できないかというと大きく2パターンあって、ひとつはお店が忙しくて僕らがデリバリー用を作れないとき。もうひとつは、配達できる人員がいないというケースです。特に悪天候の日は、ユーザーの需要は増す一方で、配達はしたくないじゃないですか。雪や台風の場合は危ないですし。なので、悪天候日のデリバリーのオーダーは結果的に少ないですね」(ジョナサン氏)
ウーバーイーツと併用して、近いサービスである「出前館」とも提携している同店。注文が入る頻度や配達員など、両社の違いはどんなところか?
「このエリアに関しては、出前館の配達員は足りてないんじゃないですかね。というのも、出前館は個人ではなく配達代行の会社が運営しているんですよ。なので、ウーバーイーツよりも時間通りにピックアップに来てくれる印象ですが、そのぶん余裕をもってスケジュールを組んでいると思います。それもあって、天候とか関係なくあまり注文が入ってこないですね。ウーバーイーツは、ふだんは配達員不足だと感じることはありません」(ジョナサン氏)
では、よく言われる配達員とのトラブルやマナーの問題があるのかと聞くと、気になるレベルではない模様。遅刻があったり、フルフェイスヘルメットで入店して「ウーバーイーツです!」と叫んだりしたことがあった点は気になったそうだが、そもそも個人が副業感覚でやっているので、そこまでの高い接客レベルは求めていないと割り切った姿勢だ。
なお、同店は立地が吉祥寺駅の近くではないので集客面では不利だが、家賃は駅前に比べ少しだけ安め。ウーバーイーツは配達員がピックアップに来てくれる性質上、立地は比較的関係ない(「比較的」の理由は後述)ので、その点でも活用するメリットがあるという。
ウーバーイーツは数ある選択肢のうちのひとつ
次に訪ねたのは、ゴーストレストランだ。これはデリバリーやテイクアウト、ケータリングに特化した飲食店のことで、ウーバーイーツの浸透とともに日本でも昨今話題となっている。話をうかがったのは、新宿三丁目にキッチンを構える「株式会社よじげん」の店舗。同社は「よじげんスペース」という、フードデリバリーやゴーストレストランなどに関するメディアも運営するなど、多角的な事業を行っている。
新宿三丁目の店舗ではウーバーイーツのほか、モバイルオーダー&ペイサービスの「PICKS」、月額定額制テイクアウトサービス「POTLUCK」、テイクアウトでフードロス削減に貢献できるサービス「TABETE.me」も活用するなど、新しい食形態に積極的に進出している。代表の荒木賢二郎氏に話を聞いた。
「ここでは業務委託の店長が、様々な飲食店とライセンス契約する形で4ブランドの料理を作っています。最初はスパイスカレーからはじめ、そこからガッツリ飯、ハンバーガー、低糖質料理店を提携先に増やして、いまにいたります」(荒木氏)
そのひとつ、スパイスカレーが「カリガリカレー よじげん店デリバリー&テイクアウト」。秋葉原を拠点に、都内と大阪で数店舗展開している人気店との提携だ。なお、「よじげんスペース」では現在の4ブランドに加えてさらにもう1業態増やし、最大5ジャンルでゴーストレストランを運営する計画とのこと。
「今後はウーバーイーツに合わせたオリジナル業態の開発もスタートします。新宿という土地柄かもしれませんが、意外と朝にもオーダーが入るんですよ。なので、朝食に食べたくなる、デリバリー向きの料理もいい思うんですよね。具体的には考え中ですが、おかゆやMEC食に注目しています。ちなみに、料理はガッツリ系か、もしくはヘルシーかのどちらかに振り切ったジャンルの方が人気が高いですね」(荒木氏)
同エリア内の競合ジャンルにもよるが、数ブランドをもっていたほうが、全体のオーダー数は増えるとか。では、現状どれぐらい注文が入っているのだろうか。
「ウーバーイーツにおける1日のオーダーは、1ブランドで5~10程度ですね。でも今年は中国版ウーバーイーツ『滴滴出行』(DiDi)や国内スタートアップの『チョンピー』に『エニキャリ』、佐々木希さんがイメージキャラクターを務める『menu』と、新たなオンラインフードデリバリー業者が増えますし、出前館も新たなサービスを開始すると思います。ウーバーイーツのライバル『ドアダッシュ』も上陸しそうですし、シーンが盛り上がればユーザーも増えますよね。私はどのサービスも並行してやるつもりなので、そうすれば注文数はもっといくと思います」(荒木氏)
ウーバーイーツは多くある選択肢のひとつという認識だ。
そして、こちらでも利用時のエピソードについて聞いてみたが、前述のファッツ・ザ・サンフランシスカン同様、目立ったトラブルはないという。自身もウーバーイーツのベビーユーザーだという荒木氏は「ごくたまにミスがあったりするけど、そういうものだとわかってるから気にならない」とのこと。
同店は新宿三丁目駅から徒歩1分程度と立地的には超好物件。もっと駅から離れた場所のほうが利益は上がるのではないだろうか。また、現状の家賃で採算は取れているのだろうか。
「採算はしっかり取れてますよ。まず、うちはエレベーターがないビルの4階です。この条件でも3階以下ですと(テナント料が高くて)厳しいのですが、エレベーターがないビルの場合は4階以上だと安いんです。あと、配達員は駅前に待機しがちなので、駅から遠いと彼らに選んでもらえません」(荒木氏)
ウーバーイーツは自転車やバイクに乗った配達員がピックアップに来てくれる関係上、駅からの距離は関係ないと思われがちだが、意外に立地は重要だという。
割とドライな飲食店側の意見
今回は2店舗のみの取材、かつ、両者とも経営者でもある点は考慮は必要だが、反応は割とドライ。ウーバーイーツはユーザーに食事を提供する手段のひとつであり、手数料の条件面も含めて冷静に判断しているといった印象だ。
同時に、定期的に話題に上がる配達員とのマナーやトラブルに関しては、たまに多少のミスはあるが許容範囲内のレベルの模様。配達員への教育やシステムエラーを徹底するにはコストがかかるだろうし、それで配達員が減ったり、手数料が上がったりして使い勝手が悪くなるのであれば、現状のままで構わないとの意見も聞かれた。すべての飲食店が両店と同じ考え方であると言うつもりはないが、少なくとも今回取材した店舗に関しては「何らかのリスクが出る可能性もあるが、それを踏まえた上で利用する類のサービスである」という認識で活用しているようだ。
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