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2020/6/10 17:30

遊び心を持ちつつ「味は本物で良心価格」! 「陸」は新時代のウイスキーだ

日本のウイスキー業界がかかえる悩みといえば、人気の高さゆえに原酒がなくて売れないというジレンマ。熟成が欠かせないウイスキーは、つくってもすぐ出荷することはできません。それもあって、新商品が出たとしても多くは数量限定で希少な存在に。

 

ところが今春、その定説をくつがえすまさかの新ブランド「キリンウイスキー 陸」が誕生、発売されました。しかもそのプロダクトは、新時代のウイスキーともいえる画期的な試みに満ちあふれたもの。本稿ではその新しさと味わいを中心に紹介していきます。

 

↑5月19日にデビューした「キリンウイスキー 陸」は500mlでアルコール度数は50%。参考価格は税抜で1300円前後です

 

グレーンウイスキーの大家、キリンディスティラリー

「キリンウイスキー 陸」はキリンの商品ですが、同社のお酒といえばビールや缶チューハイのイメージが強いかもしれません。しかしウイスキーづくりにも長い歴史をもち、拠点は1973年に稼働した富士御殿場蒸溜所。世界的に高い評価も受けています。特に有名なのはグレーンウイスキー。これは麦が原料のモルトウイスキーとともにブレンデッドウイスキーに欠かせない原酒のことで、グレーンウイスキーはとうもろこし、ライ麦、小麦などの穀類を主原料とします。

 

↑代表銘柄は写真中央の「富士山麓」(この樽熟原酒50°は終売)で、最右の「富士御殿場蒸溜所シングルグレーンウイスキーAGED 25 YEARS SMALL BATCH」は2016、2017、2019年の「ワールドウイスキーアワード」で「ワールドベストグレーンウイスキー」に輝いています

 

グレーンウイスキーが名高い理由に、この蒸溜所がもつふたつの大きな特性が挙げられます。ひとつは、モルトとグレーン両方の原酒をつくれる世界的にもまれな設備を有していること。もうひとつは、香味の異なる3種のグレーン原酒をつくれることです。

 

↑グレーンウイスキーの特徴は風味の軽やかさにあり、「サイレントスピリッツ」と称されます。一方、個性が強いモルトウイスキーは「ラウドスピリッツ」と呼ばれます

 

前置きが長くなりましたが、「キリンウイスキー 陸」にはやはりキリンの卓越したグレーンウイスキーづくりの知見がふんだんに盛り込まれており、だからこそ生み出すことができた一本なのです。

 

サイレントスピリッツでも「うまさ濃い口」を実現

最終的な味わいを調整するべく少量のモルト原酒を使っているため、カテゴリーとしてはブレンデッドウイスキーである「キリンウイスキー 陸」。ただラベルにはブレンデッドウイスキーとは表記されていません。これも同商品の“新しさ”や“自由”につながっていると思います。

 

↑多くのウイスキーのアルコール度数が40%台であるところ、「キリンウイスキー 陸」は50%であることも大きなポイント

 

同時に、ウイスキーの可能性や楽しさを広げるという想いが込められている同商品。ということで、味わいや製法の芯部に迫っていきます。特徴をひと言で表すなら、「うまさ濃い口」であること。モルトウイスキーに比べてやさしい香味であるグレーンウイスキーを主軸にしながらも、数種の原酒を巧みにブレンドし、素材の魅力を逃さずに生かす製法で、力強いテイストを実現しています。

 

↑ウェビナー(ウェブセミナー)で解説してくれた、チーフブレンダーの鬼頭英明さん

 

そのうえで製法のキーとなっているのが、少量のモルトを使うこと、アルコール度数を50%にしつつバランスを整えること、そして冷却ろ過ではない「ノンチルフィルタード製法」を採用することで自然な香味成分を残すこと、など。濃く、伸びの良い味わいに仕上げることで、どんな飲み方・割り方でもおいしく楽しめるように設計されているのです。

 

鬼頭さんは「多くの方それぞれの好みに合う自由な飲み方に寄り添うには、おそらく従来のモルト主体のウイスキーではなく、私たちの持ち味である多彩なグレーン原酒を中心にブレンドしたほうがよいのでは、と考えました」とのこと。

 

牛乳、シナモン、ホットetc何でもござれの多様性

筆者も、ストレートから飲んでみました。うん、これはイイ! 樽熟成された原酒の深い甘味と、オレンジなどを思わせる温かみのある柑橘フレーバー。それにフローラルな香りやスパイシーなニュアンスも加わり、ボリューム感は十分。スモーキーさはなくてキレは強め。ボトルに「ピュア&MELLOW」とありますが、納得の素直さと、アフターには爽やかさもあると思いました。

 

↑アルコールがやや強めなこともあり、どっしり系のテイスト。そのうえで加水をすると、香りが開いてよりエレガントさが増しました

 

次はハイボール。こちらも甘くスパイシーなタッチと樽香のウッディなアロマが印象的で、余韻は炭酸の刺激とも相まって非常に爽快。鬼頭さん曰く、グリーンレモンやライム、かぼすといった青い柑橘を加えるのがオススメとのことです。

 

↑薄めても香味のバランスの変化が少なく、味わい深さも保たれるとか。水やソーダとの割合も自由で、薄めでも濃いめでもおいしく飲めます

 

そのあとは「キリンウイスキー 陸」の真骨頂を試すべく、ホットシナモンウイスキーを作ってみました。こちらは陸1に対して60℃のお湯を3~6加え、砂糖と少量のシナモンをあしらった飲み方です。

 

↑ホットは、立ち上る香りからしてリッチでボリューミー。そこにシナモンの甘い香りが加わって、さながらホットカクテルのよう

 

ホットシナモンウイスキーは、ミルクが入ってないチャイのようなニュアンスがあります。ウイスキーの香ばしいスパイシーさとシナモンがマッチし、そこに砂糖の甘さが加わってまろやかなテイストに。カレーのようなエスニック料理、またはスイーツ全般とも好相性だと思います。

 

そして最後にトライしたのは牛乳で割る飲み方。「陸 ウイズ ミルク」と呼ぶそうで、もはやカクテルです。氷を入れたグラスに陸1、ミルクを4~7で混ぜ、好みでガムシロップを加えるレシピは「大人のミルクセーキ」とのこと。

 

↑あ、こんな味なんだ! というのが第一印象。飲み進めると「けっこうアリ」という感想です

 

もっとまろやかなイメージでしたが、想像以上にすっきり。これは筆者がガムシロップを入れなかったから、もしくはアイスで飲んだからかもしれませんが、スモーキーさのない素直な甘香ばしさをもった「キリンウイスキー 陸」だからこその、スムースな飲み口なのだと思いました。

 

↑ラベルの隅には、英語で遊び心あふれる3つの注意事項(ハイボールだけでなく、陸の多彩な飲み方をお楽しみください、など)が書かれています

 

ウェビナー終了後、ウイスキー事業を統括している根岸修一さんから開発ストーリーを聞くと「国産ウイスキー原酒の制約が各社あるなか、ウイスキーの新提案ができず、お客様の心のなかで、ウイスキーへの期待値が”こんなもんだ”という程度になっていたという背景があります。そこでいままでにないうまさ濃い口のウイスキーを発売することで、ウイスキーの楽しさを感じてほしいと考えました」とのこと。

 

また、白バックに黒文字というデザインの狙いは、余分な要素をそぎ落としたシンプルな高級感を追求したからだそうで、500mlにしている(この手のウイスキーは700mlが一般的)理由は手ごろな価格に抑えるためだとか。ほかにも、ウイスキーの世界観は重厚になりがちですが、「キリンウイスキー 陸」の公式サイトは明るいタッチで女性にもウケがよさそうなデザインです。

 

↑「キリンウイスキー 陸」公式サイトのメインビジュアル。かつて、こんなに元気なノリのウイスキーはなかったと思います

 

味わいも、ターゲットもダイバーシティな要素に満ちた、新時代のウイスキーといえる「キリンウイスキー 陸」。本格派ながら良心価格というポジションに、個人的には惜しまれつつつ終売した銘酒「ウイスキー富士山麓 樽熟原酒50°」のDNAも。スーパーはもちろんコンビニやドラッグストアなどでも販売されるそうなので、見かけたら要チェックです。

 

 

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