シャンパンを飲まれる方なら一度は目にし、口にしたことがあるはずの“MOET(モエ)”。優雅でかわいくも映るこのシャンパンこそが、モエ・エ・シャンドンです。しかし、特別なシャンパン好き・ワイン好きでない限り、このモエ・エ・シャンドンがシャンパンであることくらいは知っていても、その中身、歴史などは実はよく知らないという方も多いのではないでしょうか。
最近では自動販売機も登場するなど、あらゆる場面で飲む機会が増えているこのモエ・エ・シャンドンについて、しっかり中身と歴史を学ぶべく、販売元・モエ ヘネシー ディアジオの吉田知音さんに話を聞きました。
結婚式でモエ・エ・シャンドンをよく口にするのには理由があった!
ーーシャンパンを飲む機会によく目にする“MOET”の瓶のモエ・エ・シャンドンですが、この歴史から教えてください。
吉田知音さん(以下、吉田) 創業は1743年、フランスでワイン商をしていたクロード・モエという人物が「ワインで人々を魅了したい」ということで、シャンパーニュ地方のエペルネに拠点を定め、「モエ社」がスタートしました。なかでも特に「泡の出るワイン(シャンパン)を広めたい」という想いがあったそうです。「泡の出るワイン」を広めるために、まず彼が目をつけたのが当時の王侯貴族。今で言うインフルエンサーみたいな感じだと思うんですけど、こういったフランス社会で影響力を持つ方々にひいきにしてもらい、存在感を高めていきました。その美貌と知性、芸術的センスによってフランス宮廷に影響力のあったポンパドール夫人は日記に“飲んでなお、女性が美しくいられるお酒はシャンパンだけ”と記しています。
その後、クロード・モエの孫で三代目当主であるジャン・レミー・モエが「シャンパンの魔法を世界中に」とビジョンを掲げ、シャンパンというお酒を世界共通のラグジュアリーのシンボルとすべく、さらに意欲的に動き始めます。ジャン・レミー・モエは、ロシア皇帝アレキサンドル1世やフランス国王シャルル10世、皇帝ナポレオン1世など早々たる面々をメゾンに招き、国内外におけるシャンパンの知名度を上げるべく尽力しました。その後、ジャン・レミー・モエは、息子のヴィクトールと娘婿のピエール=ガブリエル・シャンドンに会社の経営権を譲り、ここでブランド名が「MOËT & CHANDON (モエ・エ・シャンドン)」になりました。つまり、モエ家とシャンドン家が結婚した際に生まれたブランドこそがモエ・エ・シャンドンだったんです。
ーーよく結婚式でもモエ・エ・シャンドンを飲む機会がありますけど、そもそも縁起が良いシャンパンというわけですね(笑)。
吉田 そうです。結婚によって生まれたブランドですから、結婚式はもちろん、あらゆるお祝いの場で飲まれることが多いんですね。これは私たちも非常に嬉しいことだと思っています。
ーーよくレースとかで優勝した選手が歓喜を表すためにシャンパンを開けるシーンがありますけど、これもシャンパンならではですよね。
吉田 いわゆるシャンパンファイトですね。シャンパンファイトは意外と歴史が古くて1967年、フランスのル・マンの24時間耐久レースで優勝したダン・ガーニー選手が喜び勇んでやったのが最初のようです。その後、世界中のレース場の表彰台では定番の儀式となり、レース以外の場面でも何かの成功だとか、達成したときに「シャンパンを開ける」ことが縁起が良い、おめでたい行為として広まっていったようです。
シャンパンは“不可抗力”で出来上がったもの?
ーー1743年時点で、ワインはもちろん、飲み物をスパークリングする技術はすでにあったのですか?
吉田 はい。もともとのシャンパンの起源は、1600年代の終わり、今ではシャンパンの父と称されるドン・ピエール・ペリニヨン修道士が先駆けたものです。ただ、シャンパンの“泡”は特別な技術を持って開発されたものというより、ワインを熟成させる過程などで、不可抗力で発生する“泡”だったようです。
ーー「偶然できちゃいました」みたいなことですか?
吉田 はい。モエ社の創業は1743年ですので、弊社以前に「泡の出るワイン」を作っているブランドが存在していました。ただ、シャンパンを世界中に広めるべく、市場を確立したパイオニアはモエ・エ・シャンドンだという自負はあります。世界で初めてシャンパンを作ったわけではないけれど、シャンパンを広めたのはモエ・エ・シャンドンだと私たちは思っています。
ーー先ほど名前が上がったドン ペリニヨンもその一つですが、シャンパンにはいくつかブランドがあります。その中で、モエ・エ・シャンドンはどういった位置づけになりますか?
吉田 シャンパン=モエ・エ・シャンドンと言っても良いくらい王道だと思います。モエ・エ・シャンドンのキャッチフレーズとして「毎秒1本、世界中のどこかでモエ・エ・シャンドンのボトルが開けられている」というものがあるんですけど、現在、世界約140か国に広がっています。それくらい愛されているブランドです。
ーーす、すごいですね! 味わいとしては、他のシャンパンと比べて、どんなところが違うんですか?
吉田 モエ・エ・シャンドンを代表するシャンパン「モエ アンペリアル」で言うと、醸造最高責任者のブノワ・ゴエズが「1杯口にふくむと、もう一口飲みたくなる味わい」と表現しています。モエ アンぺリアルには「瑞々しい果実味」「魅惑的な味わい」「エレガントな熟成」という3つの味わいがあります。
ーーこのモエ アンペリアルで使われているブドウは1種類ですか?
吉田 いえ、シャンパンはだいたい3つのブドウ……シャルドネ、ピノ・ノワール、ムニエという主要品種をブレンドし、熟成させるものです。その配合比率にこだわりがあって、ブドウを作っているフランス・シャンパーニュ地方の作付面積と比例する割合でブレンドしています。これもモエ・エ・シャンドンの特徴と言って良いと思います。
日本でモエ・エ・シャンドンが広まったのは1990年代以降だった
ーーモエ・エ・シャンドンは世界中で親しまれているということですが、日本に入ってきたのはいつ頃のことですか?
吉田 これまでは「1903年」と言われていたのですが、近年フランスの本社で確認してもらったところ、「1874年に横浜に輸出した」という記録が残っていることが分かりました。日本のどのような会社が輸入し、誰が買ったというところまでは読み解けないんですけどね。ただ、実際の売れ行きで言うと、モエ・エ・シャンドンが日本の市場に広まったのは1990年代以降なんです。
ーーそうなんですか?
吉田 はい。弊社は、ヘネシーというコニャックも取り扱っています。1990年代まではヘネシーが主力ブランドでしたが、その後、ドン ペリニヨンやモエ・エ・シャンドンなどシャンパンの市場が拡大し始めました。
バブル以降、定期的に起こるワインブームの影響もあったと思います。シャンパンもワインの1種ですから、ワインブームが訪れ身近に親しまれるようになると、モエ・エ・シャンドンを含むシャンパンというお酒が、より身近に感じられるようになったのかもしれません。
定番以外にも複数ある個性派シャンパン!
ーー先ほどうかがったモエ・エ・シャンドンを代表する、モエ アンペリアル以外にも複数のラインナップがありますね。
吉田 はい。まず、スタンダードのモエ アンペリアルの兄弟のようなシャンパンで、「モエ・エ・シャンドン ロゼ アンペリアル」というシャンパンがあります。辛口のシャンパンなのですが、赤身のお肉、ローストビーフのように火が入りすぎていない低温で調理されたものや、サーモンや海老などのカルパッチョなどと相性が抜群です。色もかわいくて、近年特に人気が高まっているシャンパンです。
吉田 さらに氷を入れて楽しむタイプのシャンパンがありまして、それが「モエ・エ・シャンドン アイス アンペリアル」というものです。
吉田 開発経緯としては、前述の醸造最高責任者のブノワ・ゴエズがバカンスで南フランスに行った際、現地でワインやシャンパンに氷を飲んでいる人たちを多く見かけたことがきっかけだったようです。「だったら、氷を入れて飲むための専用のシャンパンを作ったほうが良いな」と考え、「アイス アンペリアル」が誕生しました。氷が溶けてシャンパンの風味とよく調和するように作られています。氷を入れないまま飲んでも、美味しいのですが、ちょっと個性が強く出てしまうシャンパンですね。なので、やはり氷を入れることで初めて完成する商品です。
ーーワインには年代物のヴィンテージがありますけど、シャンパンにもあるのでしょうか。
吉田 モエ・エ・シャンドンでは、特別に作柄が良かった年だけに、その年のブドウのみを使って造るヴィンテージ シャンパンを用意しています。最近のもので言うと、「モエ・エ・シャンドン グラン ヴィンテージ ロゼ 2012」というシャンパンになります。
吉田 最初に言ったブランドを代表するシャンパン、モエ アンペリアルは世界中いつどこで飲んでも同じスタイルとクオリティで、親しみやすい味わいですが、「グランヴィンテージ ロゼ 2012」はその年のブドウの強い個性を引き出した味わいです。毎年作られるというわけではなく、醸造最高責任者の自由な発想と芸術性で判断され、とりわけブドウの出来が良かった年にのみ造られるものですので、より貴重なシャンパンであると言って良いと思います。
また、少しユニークなラインナップとしては、「モエ・エ・シャンドン ネクター アンペリアル ロゼ ドライ」というシャンパンもあります。
吉田 ナイトシーンなどで楽しんでいただけるように作られたもので、ボトルが光る仕様になっており、味わいは個性的です。夜を輝かせながら、力強い風合いなので芳醇でエレガントなシャンパンを求める方には最適な1本となると思います。
これらがモエ・エ・シャンドンのラインナップなのですが、他のシャンパンブランドと比べてみても多いほうだと思います。それだけモエ・エ・シャンドンは様々なシーンに対応できるシャンパンを生産しているという自負もあります。
自動販売機でも販売され始めた「ミニボトル」の理由
ーー最近では、モエ・エ・シャンドン モエ アンペリアルのミニボトル「ミニ モエ」が発売され、自動販売機にも登場しました。この経緯を教えてください。
吉田 先ほども少し触れましたが、モエ・エ・シャンドンでは様々なシーンでシャンパンを楽しんでいただきたいと考えておりまして、それは必ずしもかしこまった場所でなくても良いと考えています。ピクニックでも良いですし、ホームパーティやご家族での食事の際にも、気軽に楽しんでいただきたいと思っています。そんなシーンにピッタリなのが、容量200mlのミニボトル ミニ モエです。
ーーシャンパンって飲みたい場合、一度開けると全部飲み干さなければいけないですよね。飲み仲間を揃えないといけないなどの制限があった点に、このミニ モエは嬉しいですね。
吉田 はい。おっしゃる通り、たしかにフルボトルのシャンパンは、飲用の機会が制限されてしまうような、と感じられる方も少ないと思うのですが、ミニ モエならお一人でも楽しめます。新型コロナウイルスのこともありますけれど、日常では少人数で過ごすことが多くなったこの時代に、ミニ モエはマッチしているのではないかと思います。より多くの人に気軽に楽しんでいただくために、今回自動販売機も用意したというわけです。
「or」の自動販売機「モエ ミニマティック」でミニボトル「ミニ モエ」を買ってみた!
旨味あるシャンパンは、旨味ある和食とも相性抜群!
ーー先ほど「中華料理やタイ料理にもシャンパンが合わせられる」というお話がありましたが、和食にも合いそうですね。
吉田 もちろんです。シャンパンやワインは醸造酒ですから日本酒と同じで、旨味がすごくあるものです。だから、同じように旨味を楽しむ和食と相性が良いのは必然かもしれません。特に醤油を使った料理や、お出汁を楽しむ水炊きには合うと思います。温かい料理に対する口直しのようにシャンパンを楽しんでいただくのも良いと思いますし、外食時だけでなく、ご自宅での普段のお食事と合わせて楽しんでいただけると思います。「意外!」と思われる方もいるかもしれませんが、是非お試しいただければと思います。
ーー今後、モエ・エ・シャンドンがどのように広まっていくことを望まれていますか?
吉田 これまでにも話しましたが、お祝いとか記念の席で楽しんでいただくのはもちろん、今後は日常的に親しんでいただければ良いなと思っています。「ミニ モエ」は特にそうですけれど、本当に親しみやすく、美味しく楽しい気持ちになれるお酒だと思いますので。
お祝いの席・特別な場面で飲む印象が強かったシャンパンですが、吉田さんの話をお聞きし、もっと気軽に楽しめるお酒なのだと思いました。自動販売機も登場したことですし、これからはビールの代わりにモエ・エ・シャンドンをゴクッと一杯というのも良さそうですね!
■or
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撮影/我妻慶一
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