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2021/5/9 20:00

「アイシングクッキー」作家に聞く、初心者でもセンス良く見せるコツと楽しみ方

ここ数年、InstagramなどのSNSで、クッキーを色鮮やかにデコレーションした「アイシングクッキー」が人気です。なかには、まるでアートのように繊細でクオリティの高いものも!

 

そういった“作品”を見るといかにも難しそうですが、アイシングクッキーの材料は砂糖、卵白、水、食用色素と、実はいたってシンプル。比較的身近な材料で作れるため、おうち時間に挑戦するにはちょうどいいかもしれません。とはいえ、最初からいきなり挑戦するのも……。アイシングクッキー作りの基本的なポイントを押さえつつ、楽しみの奥深さを知りましょう。

 

今回は、さまざまな企業から贈答向けなどのオーダーが絶えない、料理研究家である武 陽子さんに、アイシングクッキーの魅力と基本的な作り方を聞きました。

 

魅力は好きなモチーフをスイーツで再現できること

↑武陽子さんがオーダーを受けて実際に手がけたアイシングクッキーの一部。(上)御園座(名古屋市)で上演されたミュージカル「モーツァルト!」(中)歌舞伎座で限定販売中の「プティジョリーKABUKI」(下)「茅乃舎」を運営する久原本家

 

フランス料理と時短料理の研究家として、テレビや雑誌、ウェブなどで活躍していた武さんが、アイシングクッキーを作るようになったのは約6年前。ウェディングなどパーティ用スイーツのオーダーを受ける機会が増えたことがきっかけだそう。

 

「アイシングクッキーの魅力は、表現できることの幅が広いことです。例えば結婚式用では、新婦さんが実際に着用するウェディングドレスを描くなど、オーダーメイドの作品を作りやすいんです。描くモチーフが自在なことはもちろん、混ぜ合わせることでさまざまな色を作り出せ、使える色の幅が広いのもポイントですね。私は日本の四季が好きなので、うまく色を混ぜれば、そういった自然界にあるモチーフを表現するための微妙な色も作れます。

また、子どもから大人まで、幅広い年代の方が挑戦しやすいというのも魅力でしょう。とくにお子さんはみんな、お絵描きをするように、夢中になって作っていますね」(料理研究家・武 陽子さん、以下同)

 

↑武さんの工房で手を動かすスタッフ。「時間を忘れて没頭できるので、無心になりたいときにもぴったりです」

 

↑武さんの子ども向けのワークショップでは、博多の古典芸能「俄(にわか)狂言」の半面を再現。「博多駅の商業施設で行った親子向けのワークショップでは、地元の博多らしく“にわか面”の体験レッスンを開催。作る傍らで、アイシングクリームを食べてしまう子も多かったです(笑)」

 

ヴィクトリア女王にも愛されていた!“アイシング”の歴史

↑ヴィクトリア女王にも愛されていた!“アイシング”の歴史

 

アイシングとは 卵白と砂糖、水、食用色素を混ぜて作ったもの。アイシングクリームがキラキラと輝いて氷(ice)のように見えることが、その名の由来となっています。意外にもその歴史は長く、なんとヴィクトリア王朝時代のイギリスで誕生したそう。

 

「1840年に、ヴィクトリア女王がアイシングを使ったウエディングケーキを賞賛したという記録が残っていて、イギリスでは『ロイヤルアイシング』と呼ばれています。当時、砂糖はとても高価な食材だったので、王侯貴族を中心に愛されていたようです。その後、アメリカやヨーロッパに広がっていきました。

日本で盛んになってきたのは、15-6年ほど前ぐらいでしょうか。それまでは、鮮やかでカラフルな色合いのものがほとんどで、いかにも“海外のお菓子”という見た目でした。正直、食べるものというよりは、あくまで“見て楽しむもの”でしたね。それが、日本に入ってきたときに日本風にアレンジされ、淡い色合いと繊細なデザインのものが作られるように。ただ、入ってきた当時は相変わらず、あまりおいしいお菓子ではありませんでした。

でも私は、“食べられないお菓子はお菓子じゃない”がモットーなので、アイシングクッキーでも可能な限り、おいしいものを作ろうと思って作っています。使う食材は安心・安全なものにこだわっていますし、保存料は不使用。運営しているオーダー製菓工房『アトリエ桜坂AZUL』では、クッキーにもこだわっていて、アイシングに合うだけでなく、クッキー単体で食べてもおいしいように作っています。上に砂糖のコーティングがのることを考えて、甘さを控えめに作るのは、おいしいアイシングクッキーを作るためのコツですね」

 

絵心がなくてもOK! 最初は「星」と「ハート」の練習から

でも、武さんが手がけてきた美しい作品たちを見ていると、素人が挑戦するのは難しそうに見えます。

 

「絵心が必要と思われがちですが、あまり関係がない気がします。実際私も、あまり絵は得意ではありませんから(笑)。ただ、手先の器用な方は上達が早いことはたしかですね。

最初は、クリアファイルの上にアイシングシュガーで線を書く練習をするといいですよ。間違えたら拭き取れますし、乾いて固まったらペリペリと剥がせます。

クリアファイルの中に、星やハートを書いた紙を挟んで、それをなぞる練習をしましょう。形をフチ取ってから中を塗り潰していきます。線と曲線が入っているので、これができれば他の絵もきれいに描けるようになるはずです」

 

おいしく仕上げるコツは盛りすぎないこと

武さんの作品は、造形はもちろん、色使いも素敵です。

 

「ピンクひとつとっても、モーブ系なのか、青味系なのかで与える印象は全く変わります。いろいろな色を組み合わせて試しながら、色彩感覚をつかむ必要はありますね。

また、ひとつのクッキーにたくさんの色を使うというよりは、いくつかのクッキーが並んだときに、カラフルになるようにするのがコツ。というのも、アイシングシュガーを盛れば盛るほど甘くなり、おいしくなくなってしまうからです。私のお店では瓶にクッキーを入れているので、1個ではなく、複数個が揃ったときにバランスが良く見えるようにしています。

また、桜の花びらなど、形だけでも十分に何を描いているかわかるようなものは、書き込みすぎないようにしています。これも、感覚をつかむには数をこなすしかないのですが、足し算をしたほうが良いものと、引き算をしたほうが良いものを見極められるようになると、クオリティが上がります。手を動かす前に、何色を使うのかバランスを見て考えましょう。

ちなみに、クッキーに一度描いていてしまった線は消せないので、迷ったら描き足すのをやめる、ぐらいがちょうど良いと思いますね」

 

↑「セゾンシリーズ[新緑]」。形だけでも十分に何を描いたのかわかる「葉っぱ」モチーフは、カラフルにはせず同系色でまとめるのがコツだそう。最初に表面を塗りつぶして、乾いてからベースと同じ色で葉脈を描き、立体感を出しています

最近のトレンドは和菓子のような洋菓子?

色選びのコツがわかったところで、最近のトレンドのモチーフも教えていただきました。

 

「以前は、ハロウィンやクリスマスなど、イベントに関するものが多かったのですが、最近は日本らしいモチーフやご当地ものをモチーフにする人が増えている気がしますね。“和菓子のような洋菓子”といったギャップが面白いのかもしれません。

また、クッキーなら和菓子よりも日持ちがします。一般的な和菓子やケーキなどの生菓子よりは長く楽しめるので、ギフトなどにも人気です」

 

アイシングクッキーを自宅で作るには?

では、これからアイシングクッキーに挑戦したい人は、どのように始めればいいのでしょうか?

 

「材料は、卵白、砂糖、水、食用色素。それに道具として、コルネ(絞り袋)用のOPPシートがあれば作れてしまいます。ちなみに卵白は、製菓店で『乾燥卵白』(卵白を乾かして粉末状にしたもの)が購入できますが、衛生的で管理も簡単なのでおすすめですよ。

食用色素には油性のものと水性のものがありますが、アイシングクッキーの場合は、水で溶いて使うので水溶性を。最近では、必要な材料がセットになったアイシングキットが出ているので、はじめはそれらを使えば簡単に始められるでしょう」

※桜坂AZULではキットは使用していません。

 

アイシングの材料

・卵白
・砂糖
・水
・食用色素
・コルネ(OPPシート)

 

↑初心者向けとして、アイシングキットを編集部で用意してみました。左のアイシングシュガーパウダーは、すでに砂糖と乾燥卵白がミックスされていて、水で溶くだけでアイシングシュガーを作れます。食用色素は、アイシングの世界ではメジャーブランドである「ウィルトン」のジェルタイプ

 

↑コルネ用のOPPシート。くるっと丸めて円錐状にしてから、アイシングシュガーを入れて使います。「最近ではすでに袋状になったOPPシートも購入できるので、それを使うとより簡単です。100円ショップなどでも扱っているところがあるようです」

 

アイシングクッキーの基本的な作り方

用意したキットを使用し、編集部で実際にアイシングクッキーを作ってみました。

1. ベースのクリームを作る

まずは、アイシングシュガーのベースを作ります。アイシングシュガーパウダー(材料を個別に用意する場合は、粉糖と乾燥卵白をミキサーで撹拌)に水を少しずつ加えながら、ツヤが出るまで混ぜ合わせます。

 

2. 食用色素を入れて色を付ける

ベースのクリームを作りたい色の数だけ、小皿などに取り分けて、そこに食用色素を入れます。入れるときは爪楊枝を使うのがおすすめ。少量でもしっかり色がつくので、先端にほんの少し付けるだけで十分です。ヘラを使って均一に混ぜてみて、色が薄ければ食用色素を足していきましょう。

 

3. アイシングシュガーをコルネに詰める

コルネを巻いて円錐形にしてから、色を付けたアイシングクリームを入れていきます。きれいな形を作るのが意外と難しく、編集部は巻くのに苦戦……最初から袋状のものを購入すればよかったと痛感しました。編集部では、失敗しても剥がしやすいよう、封にはマスキングテープを使用。

 

4. クッキーに絵を描いて乾かす

好きな色を使い、クッキーに絵を描いていきます。最初は想像していた以上に線がガタガタに。きれいに書くには練習あるのみです。絵が描けたら時間をおいて、アイシングシュガーが乾けば、完成!

 

↑歌舞伎で限定販売中の「プティジョリーKABUKI[隈取]」。このようにベースを塗ったうえに、絵を描く場合は、下地がしっかりと乾いてから絵を描きます。そうしないと上の絵が下地に染み込んでしまい、くっきりとした線を描くことができません

「クッキー生地から作ると1日がかりの大仕事になりますが、気軽に楽しみたいときは、市販のクッキーを使えば2〜3時間で取り組めます。また、乾くのが待てないときは、予熱したオーブンなどに入れるという裏技も。

また、最初にお伝えしたクリアファイルに描く方法を使えば、アイシングシュガーのパーツを作れるので、作品に立体感を出すことができます。例えば、クリアファイルの上で、てんとう虫のイラストを描いてパーツを作り、グリーンに塗った四つ葉のクローバー型のクッキーにのせると、てんとう虫の部分が立体になってかわいいんです。クッキーで動物を作って、リボンなどはパーツにして装飾するのもいいですね」

 

↑武さんが、アイシングクッキーで作った立体のクリスマスツリー。アイシングを施した星形のクッキーをずらしながら重ねています。さらに、アラザン(銀色の粒状の製菓材料)やシュガーでデコレーション

 

「アイデア次第でさまざまな表現ができるので、ぜひ研究してみてください。私は普段から、思いついたアイデアをノートに書き溜めています。

また、いただきものラッピングなどをしっかり見ておくことも、自分がアイシングクッキーをプレゼントするときの参考になりますよ。そういったものを日頃から自分のなかにストックしておくと、より楽しめるのではないでしょうか」

 

【プロフィール】

フランス料理・時短料理研究家 / 武 陽子

オーダー製菓工房「アトリエ桜坂AZUL」、製菓料理教室[桜坂AZUL]主宰。ホームメード協会やル・コルドンブリーなどでフランス菓子を学び、製菓料理教室およびオーダー菓子工房をオープン。ギフトやウエディング、企業の販促ツールなども手がける。テレビや雑誌、ウェブなどのメディアやイベントにも出演し、ママ層から圧倒的な支持を集めている。

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