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2021/6/14 5:50

販路拡大で爆売れ中! 伝説のホップ「SORACHI1984」担当者が語る日本のビールの可能性

「実は2~3年前、国内クラフトビール市場は勢いを失っていたんです」。そんな話をとある醸造家から聞き、筆者は耳を疑いました。というのもその時期はコロナ前。ビール専門店が地方でも開業する動きが活発化し、造り手も、酒販店も増えていたので、まさかと思いました。しかし、視点を変えれば踊り場に差し掛かっていた市場があるというのです。

 

その醸造家は「サッポロ SORACHI1984」のブリューイングデザイナー、新井健司さん。最新トレンドも含めて業界動向を詳しく聞かせてくれるということで、オンラインでインタビューを行いました。

↑新井さんが手掛ける「サッポロ SORACHI1984」。2019年にデビューして今春リニューアルしました。参考価格は350ml缶で税込267円です

 

「SORACHI1984」はクラフトビールを名乗らない

新井さんが「踊り場に差し掛かっていた」と話す市場は、スーパーやコンビニなどの小売り店のこと。クラフトビールは2015年頃に大きな盛り上がりを見せ、飲食店はもちろん小売り店を販路にもつ大手メーカーもクラフト向けブランドを立ち上げましたが、2019年頃から小売り商品の方は失速していったといいます。

↑サッポロビールの新井健司ブリューイングデザイナー(写真は2019年の取材時。撮影/我妻慶一)

 

筆者も、大手による小売り商品の話であれば納得。サッポロビールは2015年に「Craft Label」というブランドを立ち上げましたが、その後撤退しています。新井さんは「確かに全国各地で新しい醸造所やクラフトビールのレストランが開業していて、造り手も飲み手も増えたと思います。外食も含めた全体の市場で見れば落ち込んではいないでしょう」と言います。

 

いずれにせよ、スーパーやコンビニ向けのクラフトビールは外食シーンほど盛り上がりませんでした。より深掘りすれば、クラフトビールを飲みたい人は飲食店で楽しむので、スーパーやコンビニでは買わなかったということでしょう。

 

ただし、コロナ禍によって状況は一変しました。外で飲むことが憚れるようになり、家飲み需要が拡大したのはご存知の通り。落ち込んでいた小売りのクラフトビール市場は、2020年から息を吹き返したのです。

 

「ビアパブなどが好きだった方は、小売り店でクラフトビールを買う頻度が上がったことでしょう。一方、クラフトビールが特別好きでなかったとしても『せっかくだからちょっといいモノを選びたい』という心理により、いつも飲んでいるビールではなくクラフトビールを選ぶケースは増えたと思います」(新井さん)

 

2019年頃から停滞気味だった小売り向けクラフトビール市場。それも一因となり、「サッポロ SORACHI1984」の造り方や個性豊かな風味はクラフト的でありながらも、2019年のデビュー時からクラフトビールとは謳っていません。

↑最大の特徴は、サッポロビールが1984年に開発し、いまや世界中のブリュワーから人気となっている日本屈指の個性派ホップ「ソラチエース」を100%使用していること

 

「市場動向以上に、一番の理由はクラフトビールだと謳う必要がないからです。目的はビールの面白さや多様性を訴求して飲み手を増やすことなので、クラフトビールとしてカテゴライズすることはあくまで手段の一つに過ぎません。それに、願わくばクラフトビールだからという動機よりも、『サッポロ SORACHI1984だから』『ストーリーに共感するから』『ソラチエースが好きだから』という理由で選ばれるブランドになりたい。そのため、世の中の立ち位置的にはクラフトビールの扱いかもしれませんが、私たちからはクラフトビールだというコミュニケーションはしていないんです」(新井さん)

 

ホップで選ばれるようになれば、ビールはもっと楽しい

冒頭で述べた通り、今春リニューアルした「サッポロ SORACHI1984」。どこが進化したのかを聞くと、国産ホップの使用比率がアップしたことだといいます。

↑「ソラチエース」は北海道空知郡上富良野町産を一部使用。メインはアメリカ産ですが、その理由は日本産の絶対数が足りていないから

 

「国産の『ソラチエース』比率を上げていくのが私たちの使命の一つ。年々上がっているのですが、おかげさまで『サッポロ SORACHI1984』の販売数量も増えています。去年は共同契約の生産者さんの圃場(ほじょう。畑のこと)に植えて、今年から収穫していく活動も。そうやって、いつか日本産100%の仕様で届けることを夢見て今後も増やしていきます」(新井さん)

↑左が一般的なホップで、右が「ソラチエース」。ホップの球花(きゅうか)が大きいのも「ソラチエース」の特徴です

 

改めて、最新版を飲んでみました。やはり「ソラチエース」ならではの個性は健在。ハーバルで華やかな香り、柑橘系のジューシーな苦みの中に、ウッディな爽快感や南国的で陽気なニュアンスも。

↑泡立ちも良好。海外のホップに負けないジューシーな苦みがありながら、繊細なオリエンタルフレーバーがあって非常に好みな味わいです

 

筆者が個人的に気になっていたのは、最近セブン-イレブンでも見かけるようになったこと。聞けば5月から取り扱いがスタートし、「サッポロ SORACHI1984」の売り上げはさらに絶好調とか。そこで、セブン-イレブンのPBとのオススメペアリングを聞いてみました。

 

「繊細系から濃厚系まで様々なおつまみに合うと思いますが、意外性があってぜひ試していただきたいのが、セブンプレミアムのアップルマンゴーや、アップルマンゴーを使ったアイスです。というのも、以前『モザイク』というマンゴーのような香味特性をもつホップを使った限定商品「SORACHI1984 SESSION」を造ったことがあり、非常に互いの魅力を引き立て合う相性の良さだったのです」(新井さん)

↑「まるで完熟マンゴー」(税込138円)を合わせてみました。たしかに、マンゴーのトロピカルな余韻がビールの爽快な苦みと合わさって、双方がよりボリューミーなおいしさに

 

新井さんに今後の取り組みを聞くと、最近では有名な実演販売士・レジェンド松下さんによる商品紹介動画をYouTubeでアップするなど、ブランドの接点を増やしているとか。また、情勢を見ながら外食でもユニークな飲用体験を提案したり、北海道色の強いお店で訴求する活動をしていくそうです。

 

「長期的な夢は、ワインがシャルドネなどの品種で選ばれているように、ビールがホップの種類で選ばれるようになること。これは海外のビール先進国でもそれほど実現されていませんが、いつかホップの代表格に『ソラチエース』があるとうれしいですね。以前、キリンビールさんとコラボイベントを行いましたが、多くの造り手や生産者さんと協力しながら、ホップの魅力や可能性を伝えていきたいです」(新井さん)

↑「サッポロ SORACHI1984」の公式サイト。新たに、ホップに関する詳細なコンテンツが加わりました。2020年に植えた「ソラチエース」が育つ様子も見られます

 

まだまだ続くであろう家飲み需要と、家庭向けクラフトビールの消費拡大。「サッポロ SORACHI1984」を飲んだことがない人は、ぜひ一度お試しを。