グルメ
2022/3/14 11:30

【街中華の名店】マンガの神々が「ンマーイ!」と叫んだ「松葉」は“街中華道”の生きる伝説だ

何事にも、究める過程には道がある。例えばマンガにも、もちろん街中華にも。そして街中華の道を究めるのであれば、必ず立ち寄るべき名店がある。落合南長崎駅が最寄りの「松葉」だ。

 

↑突如「ドーン!!!!」と現れる、黄色と赤で構成された、ザ・街中華のルックス。これでいいのだ。都営大江戸線の落合南長崎駅または、西武池袋線の椎名町駅からも行ける

 

 

当時のレシピを受け継ぐ王道ラーメンがここに

冒頭で「街中華の道」という形で触れた理由は、マンガ好きならおわかりだろう。「松葉」はマンガの歴史を語るうえで欠かせない「トキワ荘」の住人だったレジェンドマンガ家が愛した店で、「まんが道」「愛…しりそめし頃に…」など先生方の作品にも登場する聖地なのだ。

 

↑1952(昭和27)年から1982(昭和57)年にかけて存在した「トキワ荘」がミュージアムとして復活。当時の場所とは若干違うが、近所の公園に建てられた

 

2020年には「豊島区立トキワ荘マンガミュージアム」が誕生し、マンガファンをはじめ様々な人が訪れている。その際には「松葉」もぜひ訪れてほしいが、注文する際の参考として人気メニューを中心に紹介しよう。

 

↑右上にあるグレーの部分が落合南長崎駅で、中央右のアパートのイラストが「豊島区立トキワ荘マンガミュージアム」。その少し左の(18)が「松葉」だ

 

なかでも必食なのが「ラーメン」だ。藤子不二雄先生の作品にちょくちょく登場する、小池さんというキャラクターがいつも食べているラーメン。それがこの「ラーメン」である。小池さん自身もトキワ荘住人の鈴木伸一先生がモデルであり、オマージュ楽曲「ラーメン大好き小池さんの唄」や、マンガ(アニメ、ドラマも)「ラーメン大好き小泉さん」にもつながっている。

 

↑「まんが道」より。左下の方が当時の鈴木伸一(ペンネームは風田 朗)先生だ。「松葉」の随所には、各マンガにおけるゆかりのシーンが。貼ったのはお店の方ではなく、ファンだとか

 

同店を現在切り盛りするのは、二代目・山本一廣さんの奥さまにあたる麗華さん。麗華さんは1991(平成3)年から「松葉」で働くようになったため、当時の詳しい話はよくわからないという。とはいえ基本的なレシピは受け継がれ、当時と変わらない。“神々の愛した味”がここにある。

 

↑「ラーメン」600円。固ゆで卵やワカメがのるタイプの、まさに昭和なラーメンだ

 

スープは毎朝8時から炊き、鶏ガラ、豚のゲンコツ、香味野菜、煮干し、昆布がベース。タレは薄口と濃口をブレンドしたしょうゆに、隠し味を少々。麺は池袋の老舗製麺所「山口や」の中細タイプを使い、チャーシューは肩ロースを厚めにカットしてのせてくれる。

 

↑山海の恵みがバランスよく調和したスープに、キレのあるしょうゆダレ。歯切れのよいストレート麺もしっかり絡み、思わず「ンマーイ!」と叫びたくなるおいしさだ

 

あんな夢、こんな夢いっぱいあるけど

「ラーメン」と双璧をなす人気メニューが「炒飯」だ。特徴は、ゴロゴロッと贅沢に入ったチャーシュー。ラーメンに使っているものと同じで、35~40分下茹でしてからしょうゆをベースに5~10分甘じょっぱく煮て完成させる。

 

↑塊で仕入れた肩ロースを使い、余分な脂はしっかりと掃除

 

具材は大胆に使いつつも品数は最小限に、そして調理は丁寧に。卵はご飯とともに強火で熱を通してふんわり香ばしく仕上げ、味付けは塩こしょうにうまみ調味料と日本酒を数滴。きわめてシンプルながら飽きのこない、止まらないンマさのチャーハンだ。

 

↑「炒飯」600円。具材は大きめのチャーシューと卵で、ねぎは入らない潔さ。そのぶん、紅しょうがのシャキッとピリッとしたアクセントがたまらない。やさしい味のみそ汁もナイスなパートナーだ

 

「松葉」は飲む店としても使える。つまむなら「焼餃子」がイチオシだ。多い日には35皿ほども出る人気のサイドメニューで、味に深みがありながらも重くないのが魅力である。

 

↑具材には豚ひき肉、にら、キャベツ、長ネギが入る。以前はしょうがとにんにく入りだったが、いまは入れなくなったのだとか

 

比較的にあっさりとした餃子ではあるものの、味付けは複層的。しょうゆ、塩、日本酒、紹興酒、ごま油などを多彩に使い、タレがなくそのまま食べても十分なおいしさに仕上げている。食事のおかずにも、酒のつまみとしても大活躍間違いなしだ。

 

↑「焼餃子」400円。ジューシーな肉とシャキシャキ野菜のメリハリが絶品

 

そして、お酒としてぜひオーダーしたいのが「チューダー」だ。これもファンにはおなじみの傑作。宝焼酎を三ツ矢サイダーで割った、「トキワ荘」住人が溺愛したオリジナルチューハイのことである。

 

↑「チューダー」350円。サイダーのフルーティーな甘みに、熟成感のあるコク深い焼酎のうまみがマッチ。至福のペアリングをぜひお試しあれ

 

これらの美酒美食をよりおいしくさせてくれるのが、店内に飾られた写真や色紙の数々だ。レジェンドのお宝に加え、先達をリスペクトする先生方のサインも多く、同店が世界中の人から愛されていることがよくわかる。

 

↑白黒の写真は、1952、1953(昭和27、28)年の「松葉」だそう。当時の「ラーメン」は45円、「やきめし」は70円だった

 

同店は1950(昭和25)年ごろ創業で、前回の東京オリンピックが開催された1964(昭和39)年にいまのビルに建て替えられたという。そしてトキワ荘にゆかりの深い店としては、現存する唯一のスポットなのだとか。まさに生きる伝説。

 

↑店主の山本麗華さん。手にはあのせぇるすまんが、「ホーッホッホッホッホーッ!!」と笑っている

 

「まんが道」などで描かれる商店街のにぎわいこそ失ったかもしれないが、ここにはどこかぬくもりが感じられる。それはきっと、「松葉」には未来を夢見た若者の希望がいっぱい詰まっているからだろう。訪れた暁には、あんな夢、こんな夢を、いっぱい思い描き語り合ってほしい!

 

 

撮影/我妻慶一

 

【SHOP DATA】

松葉

住所:東京都豊島区南長崎3-4-11 PINE LEAF 1F

アクセス:都営大江戸線「落合南長崎駅」A2出口徒歩8分

営業時間:11:00~15:00 17:00~20:30(日によって変動あり)

定休日:月曜(祝日の場合は営業、翌日休み)

 

 

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