グルメ
2016/9/29 17:00

「和牛と国産牛」本当の違いを知っていますかーーブランド牛ですら明確な定義はない

スーパーの精肉売り場に並ぶ牛肉のパックに貼られたラベルをよく見ると、大別して3種類の産地表記があることに気づく。たとえば「米国産」「豪州産」などといった「○○産」と表記された外国産牛、残り2つは「国産牛」と「和牛」である。

 

国産牛と和牛――。「同じ日本の牛ではないのか?」と思った読者もいるだろう。いったい何が違うのか。日本人の中でも正確に理解している人は少ないかもしれない。

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↑牛肉パックの表示をよく見てみると?(写真:Ushico / PIXTA)

 

国産牛とは端的にいうと、品種に関係なく全肥育期間の半分以上を日本国内で肥育された牛の総称である。一方、和牛とは、肉専用種として指定された4つの牛の品種、または4品種間の交雑牛のみを指す。明治期になって牛肉を食すようになった日本人が、日本古来の牛に外国産のさまざまな品種を交配して品種改良を行い、日本人の嗜好にあった品種を作り出してきた。

 

■和牛4品種

和牛4品種は、以下に示すとおりである。

 

・黒毛和種

日本の和牛の90%以上を占める、肉質に優れた種。明治時代末期にシンメンタール種やブラウンスイス種などの外国種との交配をしてきた歴史がある。肉質は赤身にまでサシが入っているのが特徴(筋繊維が細く、脂肪が筋繊維の間に入りやすい)で、脂の風味もよい。肉種としては小柄。

・褐毛和種(あかうし)

肉質は黒毛和種に近く、赤身が多く脂が少ない。熊本県や高知県で肥育されてきた「赤牛」にシンメンタール種と朝鮮牛を交配した品種。現在では熊本県、高知県のほかに北海道、東北地方でも肥育される。成長が早く体が大きく育つ。大人しい性質。

・日本短角種

主に東北地方で肥育されている。肉質は赤身が多く柔らかい。南部牛にイギリスのショートホーン種を交配して生まれてきた。ほかの品種に比べ手間がかからず成長が早く、放牧に向いている。現在は北海道、岩手県、青森県、秋田県などで生産されている。

・無角和種

山口県阿武郡産の在来種とアバディーンアンガス種を交配して生まれてきた。肉質は赤身が多め。成長が早く歩留まりがいい。この4品種間内で交配された牛が国内で流通する「和牛」のすべてである。

 

■世界で唯一の血統管理「黒毛和種」の特徴

「血統×月齢×飼料」。これらの好条件がそろうとお肉がおいしくなるというのが、肉業界の定説だ。この血統という点において、黒毛和種はほかのどの品種にもない特徴がある。

 

黒毛和種は世界中の肉用牛の中でも珍しく、10ケタの「個体識別番号」と「血統書(登記書)によって、生産現場の情報(血統、管理、種牛の選定基準など)をたどる追跡可能性(トレーサビリティ)が確立されている品種である。

 

血統書を見れば祖先をたどれる上に、全国には黒毛和牛の種牛の登録機関がある。おいしいお肉を作り出すために、登録されている種牛の交配研究が何十年にもわたって日々続けられている。

 

これで品種の表示の謎は解けた。ただ、スーパーで売られている牛肉のパックのシールを見ると、さらに深掘りできることがある。品種の他に表示されている産地だ。「○○牛」などといったさらに詳しい産地などのシールを貼付されているものがあることに気付く。こうした産地を基軸にし、肩書きや付加価値がつけられた牛肉は「ブランド牛」と呼ばれる。

 

牛は、生まれてから生体になるまで、一般的には繁殖農家(仔牛専門)と肥育農家を経て出荷されるが、肥育農家は全国どこの繁殖農家からでも仔牛を買い付ける事ができる。一部の「ブランド」を除いて、産地の名前を冠されたブランド牛でも必ずしもその土地で生まれた牛だとは限らず、その牛が屠畜されるまで、一番長く育った土地の「ブランド」を背負うこととなるのだ。

 

一般的に有名ブランドの牛の育つ場所の特徴として、寒暖差の激しい盆地で、軟水のおいしい水のある地域が多いことがあげられる。そのため、「米どころにはいい牛がいる」「盆地に名牛あり」と昔から言い伝えられてきた。

 

■それぞれのブランドの基準

肥育農家によっても各「ブランド」の定義はさまざまだ。以下に書くのは、全国4大ブランドとその定義である。

 

・神戸牛

兵庫県の「但馬牛」を素牛として、生まれ、育ち、出荷が兵庫県であり、認定された肥育生産者の下、未経産牛でBMS値6(等級4)以上、歩留まりA、B等級、枝肉重量がメス牛は230~470キロ、去勢牛は260~470キロ。

・松阪牛

松阪牛は、生産区域が「旧22市町村(市町村数は2004年11月1日現在)で対象牛は「生後12ヶ月齢までに松阪牛生産区域に導入され、松阪牛個体識別管理システムに登録された黒毛和種、未経産の雌牛」。肥育期間は「生産区域でのみ肥育され生産区域での肥育期間が最長・最終」などのシステムの条件を満たし出荷されたものと定められている(松阪牛協議会)。

・近江牛

滋賀県内で肥育された期間が最も長い黒毛和種でメス牛またはオスの去勢牛。中でも

1.「近江牛」の中でも、枝肉格付がA4、B4等級以上のもの

2. 協議会の構成団体の会員が生産したもの

3. 滋賀食肉センターまたは東京都立芝浦と畜場で屠畜・枝肉格付されたもの

上記のものを近江牛生産・流通推進協議会より「認証 近江牛」として認定する制度がある。

・米沢牛

飼育者は、置賜3市5町に居住し米沢牛銘柄推進協議会が認定した者で、登録された牛舎での飼育期間が最も長いものとする。肉牛の種類は、黒毛和種の未経産雌牛とする。

1. 米沢牛枝肉市場若しくは東京食肉中央卸売市場に上場されたもの又は米沢市食肉センターで屠畜され、公益社団法人日本食肉格付協会の格付けを受けた枝肉とする。但し、米沢牛銘柄推進協議会長が認めた共進会、共励会又は研究会に地区を代表して出品したものも同等の扱いとする。また、輸出用は米沢牛銘柄推進協議会が認めたと畜場とする

2. 生後月齢32カ月以上のもので公益社団法人日本食肉格付協会が定める3等級以上の外観並びに肉質及び脂質が優れている枝肉とする

3. 山形県の放射性物質全頭検査において放射性物質が「不検出」であるものとする(米沢牛銘柄推進協議会)

 

■定義の方法に規則や基準があるわけではない

こうしてみると、「4大ブランド」といわれるブランド牛ですら、定義の方法に規則や基準があるわけではないことがわかる。肥育農家の肥育日数から条件をつけるブランドもあれば、屠畜後の枝肉の評価までブランド銘を冠するかわからないものもある。それぞれのブランドが、「それぞれの『理想とする牛のありかた』にどれだけ近いか」でその牛の価値を決めるのである。

 

ちなみに、「ブランド牛」の定義を見ると、お肉のおいしさを決める条件「血統×月齢×飼料」のうち、血統と月齢にはある程度規定があるものの、飼料については厳格な規定がないことがわかる。地域によっては「組合指定の飼料を与えること」というところもあるが、それはベースとなる飼料を指定しているだけに過ぎない。おいしいお肉を作るためにはそれらのベースとなる飼料に加え、発育の各段階で必要な栄養素を含んだ飼料を配合していくことが定説とされているのだが、それに関する規定はない。

 

つまり、同じブランドの牛だとしても、肥育生産者によって飼料の配合はまちまちであり、お肉の質や味には差が生じてしまう。さらに言えば日本に流通する粗飼料と穀物飼料の総自給率は28%、つまり大半を輸入されたものによってまかなっている(2016年度農林水産省データ)。

 

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