グルメ
2022/12/29 18:45

初心者が挑戦すべきおせち「黒豆」の煮方と「数の子」の塩抜き〜漬け方とは

正月料理といえばおせち。毎年お母さんが作ってきた、という家庭が多いでしょう。そろそろ自身でも作れるようになりたいと思うなら、まずチャレンジすべきは「黒豆」と「数の子(かずのこ)」。初心者のために、シワなく艶やかに仕上げるのが難しいと言われる黒豆の煮方と、覚えてしまえばすぐにできるようになる数の子の漬け方を、料理家の吉川愛歩さんに教えていただきました。

 

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おせち料理には欠かせない、「三ツ肴(みつざかな)」とは?

おせち料理は、手をかけて作られたさまざまなお料理がぎっしりとお重に詰められているもの。江戸時代以降、おせちは正月の祝いに欠かせないものとなりました。

 

「とはいえ、それだけのご馳走を用意することができた人ばかりではありませんでした。そんな時代にも、食材が安価で庶民でも準備ができた三つの祝い肴(お祝いの席で出る酒の肴のこと)とお餅さえあれば、正月を迎えられると言われてきたそうです。関東では黒豆、数の子、田作りの三つが “三ツ肴” で、関西では黒豆と数の子の他に、たたきごぼうが挙げられます。黒豆は乾物で、数の子は塩漬けになっていて保存がきくため、多くの地域に広まったとの説も。この季節になると、さまざまな地域の台所で、黒豆と数の子を仕込んでいたのでしょうね」(料理家・吉川愛歩さん、以下同)

 

黒豆にはどんな意味がこめられている?

黒豆には、真っ黒に日焼けするくらい健康でまめまめしく働けるように、という意味があり、「まめな人」や「まじめである」ことの象徴でもあります。おせちに入る蜜煮は、乾燥した豆を戻し、砂糖としょうゆを入れてふっくらと煮た料理です。

 

「昔は保存性を高めるためにも、たっぷりの砂糖で煮るものでしたが、今はそこまで保存のことは気にしなくてもいいので、控えめの甘さで仕上げていきましょう。できあがるまでに時間はかかりますが、慌てずじっくり作るのがおいしさのコツ。いつまででもパクパクと食べられて、やみつきになる黒豆ができあがります」

 

“錆びた釘” を入れるのはなぜ?

黒豆を煮るというと、必ず登場するのが「錆びた釘」。これは、黒豆に含まれるアントシアニンが鉄と反応して、黒豆の退色を防いでくれるから。鉄分と一緒に煮ることで黒豆がより黒く美しく仕上がるため、錆びた釘と一緒に煮るレシピが受け継がれてきたのです。

 

「でも、錆びた釘があるという家庭はあまりないですよね。鉄玉子というお料理専用の鉄の塊が売られているので、それを購入するのもひとつの手です。我が家では、写真のような鉄板を鍋の底に敷いて、一緒に煮ることもあります。つまりは、どんなものでも鉄といっしょに煮ればいいのです。ちなみにストウブのような鉄鍋はホーロー加工され、鉄分が溶け出さない仕組みになっています。加工されていない鉄鍋なら、そちらで煮ることもできます。ただ、無理して黒さを意識しなくても、ものすごく薄い色になってしまうことはないので、なければなくても大丈夫。充分きれいな黒豆になります。今回作ったものも、鉄製品を使わずに煮たものです」

 

甘さ控えめでちょっぴり塩気のある「黒豆の蜜煮」

黒豆の蜜煮は、二日かけて仕上げるお料理です。1日目はたっぷりの熱湯で乾燥した豆を戻し、2日目にじっくり煮ていきます。

 

「黒豆は、必ずその年に収穫された新豆を選びます。古くなった豆はどうしても硬くなりがちで、戻しきれないまま煮ることになってしまったり、煮上がるまでに時間がかかってしまったりします。できあがった蜜煮は、そのまま食べるほかパンケーキに入れて焼いたり、蒸しパンに混ぜたり、お菓子のアクセントとして使うのもおすすめです。冷凍することもできるので、食べきれなかったら保存容器や保存袋に入れて冷凍しましょう」

 

【材料】

・黒豆……250g
・重曹(食用)……小さじ1/2
・水(蜜用)……600ml
・砂糖……180g
・しょうゆ……小さじ1
・塩……ふたつまみ
・みりん……大さじ1

 

【作り方】

1.ボウルか鍋に黒豆と重曹を入れ、たっぷりの熱湯(分量外)を加える。

「黒豆は、重曹入りの熱湯で戻します。重曹を入れると豆が早くふっくらと煮える上に、皮が破けにくくなります。また、水で戻してしまうと、皮が戻るよりも実が膨らむほうが早くなり、皮が破けてしまいます。豆の3倍くらいの量の熱湯を加えて、膨らんでも豆がお湯から出ないよう、表面をラップやキッチンペーパーで覆っておきましょう」

 

2.一晩(8時間)置いて、豆を戻す。

「右が乾燥している豆、左が8時間浸しておいて戻った豆です。ふっくらと大きくなっていたら、次の工程にうつります」

 

3.戻した黒い水のまま、鍋で強火にかける。沸騰したら弱火にして1時間半煮る。

「戻したときの水のまま、鍋で加熱します。強火にかけるとモコモコと重曹の泡が出てくるので、出てくるたびに取りましょう。泡が落ちついたら、弱火でコトコトと煮ていきます」

 

4.豆が柔らかくなったら人肌まで冷まし、ぬるま湯で洗う。

「食べてみて、豆が簡単に舌でつぶれるくらいの柔らかさになったら、そのまま人肌になるくらいまで冷まします。手が入れられる温度になったらざるにあけ、ぬるま湯でそっと洗います。水を換えながら、重曹を洗い流しましょう。このとき、急に冷たい水に入れてしまうと、豆が破けやすくなります。豆の温度を急激に換えないように注意しましょう」

 

「丁寧に煮ていても、このように皮が破けてしまうものがありますが、気にせず一緒に煮ましょう」

 

5.鍋に水と砂糖、しょうゆを入れて沸かす。

「砂糖が溶けるまで加熱します。ちなみに砂糖は、上白糖でもきび糖でもお好みのもので構いません。白い砂糖を使うとすっきりとした甘さに、茶色い砂糖を使うとコクのある甘さに仕上がります」

 

6.黒豆を入れて1時間煮たら、しっかり冷ます。

「豆を入れたらキッチンペーパーを3枚くらい重ねて落とし蓋にします。木の落とし蓋は豆には重すぎるので、キッチンペーパーで。ただし1枚だと、豆が空気に触れてしまう可能性があり、皮にシワがよってしまうので、厚めに覆います。煮ている間に水分が飛んでしまったら、鍋の中の温度が変わらないようお湯を差し、常に黒豆がしっかり水に浸かっているようにします」

 

7.蜜だけを鍋に入れ、煮詰める。

「1時間煮たらしっかり冷まし、黒豆をざるにあけて、今度は蜜だけを1/3くらいの量になるまで煮詰めます」

 

8.蜜に黒豆を戻し、みりんをまわしかけてさっと混ぜて火を止める。

「蜜ができたら豆を戻して、最後に  “追いみりん”  をします。みりんをまとうと、ふくよかな香りがして、上品な味に仕上がります」

次のページでは、数の子の漬け方を、下ごしらえとして不可欠な塩抜きとともに解説していただきます。

数の子は子孫繁栄を祈る縁起の良い食べ物

続いては数の子です。数の子は、ニシンのたまごのこと。アイヌ語でニシンを「カドイワシ」と呼び、その子どもを「カドの子」と呼ぶようになったことが語源という説があります。正月料理として定着したのは江戸時代で、当時は今のように高価ではなく、もっと簡単に入手できる食材でした。

 

数の子の粒の多さが子孫繁栄を示し、縁起がよいと結納品としても活躍しました。ニシンには「二親」という漢字が当てられることがあり、ふたりの親からたくさんの子宝に恵まれるようにという意味が込められています。

 

「売られているものは、ほとんどが塩漬けになっているものか、すでに塩抜きして味付けされているもののどちらかです。塩漬けのものはそのまま食べられないので、塩抜きして漬け汁に漬けてからいただきます」

 

プチプチした音と食感を楽しむ「数の子のおだし漬け」

数の子を塩抜きしてだしに浸していただく、おせちの定番レシピ。塩抜きに一日かかるので、早めに準備しなくてはならないお料理のひとつです。

 

「数の子をおいしく仕上げるポイントのひとつは、しっかりと塩抜きすること。時間を守るというより、塩が抜けているかきちんと味見をして確かめてから、だしに漬けるようにします。もうひとつのポイントは、おいしい出汁(だし)をひくこと。昆布とかつおぶしでひいた一番だしを使います。このひと手間が、数の子をぐっと上品な味に仕上げます」

 

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【材料】

・数の子……5本
・水……400ml
・塩……小さじ1/2
・だし……150ml
・うすくちしょうゆ……大さじ2
・酒……大さじ1
・かつおぶし……適宜

 

【作り方】

1.ボウルに水と塩を入れてよくかき混ぜて塩を溶かし、数の子を入れて丸一日置く。

「水から数の子が出ないよう、キッチンペーパーやラップを密着させて置いておきます。塩水で塩抜きするのは不思議かもしれませんが、呼び塩といって真水に漬けるよりも早く塩が抜け、数の子が水っぽくならずに塩抜きすることができます」

 

2.白い薄皮を指の腹でこすりながら剥く。

「薄皮は口に残るので、両面をよく見て丁寧に取り除きます」

 

3.鍋にだしを入れて沸かし、うすくちしょうゆと酒を入れて冷ましたら、数の子を入れる。

「キッチンペーパーで覆ったら、このまま一晩置いて味を含ませます。盛りつけるときに、かつおぶしをのせましょう」

 

今回は、黒豆の煮方と数の子の漬け方だけをご紹介しましたが、毎年1〜2品ずつでもレシピを覚えていけば、だんだんと作れる品数も増えていきます。手作りした分、特別なお正月に。ただでさえ慌ただしい年末ですが、家族や周りの人が健康でしあわせであるよう願いながら、おせちの用意ができたらいいですね。

 

プロフィール

料理家 / 吉川愛歩

出版社に勤務後、ライターとして独立。雑誌や書籍の出版に携わりながら茶懐石を学び、料理家・フードコーディネーターとして活動をはじめる。企業広告や雑誌等でレシピを制作するほか、趣味が高じて『メスティン自動BOOK』(山と渓谷社)や『キャンプでしたい100のこと』(西東社)などでアウトドア料理のレシピを考案。また、誰にとっても読みやすいバリアフリーレシピの書き方を研究中で、編集者・ライターとしても幅広く活動している。『1年生からのらくらくレシピ』(文研出版)や『糖質オフのやさしいお菓子』(ワン・パブリッシング)の制作に携わり、『日本一おいしいソロキャンプ』(KADOKAWA)では執筆とともに調理も担当している。

 


提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」