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2023/6/30 17:00

「お茶割り」のプロに聞く「焼酎×お茶」組み合わせの妙を楽しむ噺

意外と知らない焼酎の噺13


『古典酒場』編集長の倉嶋紀和子さんがナビゲーターとなって探っていく「意外と知らない焼酎の噺」。今回のテーマは「お茶割り」。いまや酒場の人気メニューとなった焼酎の「お茶割り」について深掘りしていきます。

 

今回お話しを伺うのは、京都・宇治の茶舗や長野の酒蔵などを経て、昨年7月、東京都墨田区向島に「酒と茶と 襤褸(らんる)」を開業した松木恵美さん。倉嶋さん主宰のカルチャースクール「倉嶋紀和子の古典酒場部」の門下生でもあります。そして、「焼酎」および焼酎の「お茶割り」開発のスペシャリスト・宝酒造 商品第一部 副部長兼技術課長の高橋悠典さん(「高」ははしごだか)と、商品第二部 技術課長の大崎学さんにも同席いただき、解説してもらいます。

●倉嶋紀和子(左)/雑誌『古典酒場』の創刊編集長。大衆酒場を日々飲み歩きつつ、「にっぽん酒処めぐり」(CS旅チャンネル)「二軒目どうする?」(テレビ東京)などにも出演。その他にもお酒をテーマにしたさまざまな活動を展開中。俳号「酔女(すいにょ)」は吉田類さんが命名。令和4年(2022年度)には「酒サムライ」に叙任された
●酒と茶と 襤褸(らんる)・松木恵美(右)/宇治の茶舗、クラフトビールで有名な長野の酒蔵、東京・門前仲町・酒肆一村(しゅしいっそん)など茶・酒・食に関するさまざまな職を経て2022年、墨田区向島に「酒と茶と 襤褸」を開業

 

「お茶割り」の歴史や定義とは?

実は「お茶割り」の成り立ちや、明確な歴史についてはよくわかっていません。静岡などのお茶どころでは、伝統的に焼酎の「緑茶割り」(「静岡割り」と呼ばれる)が飲まれている地域もありますが、全国的には1980年代に起きたチューハイブームを経て徐々に広まりました。また、この時期に缶入りの烏龍茶や緑茶飲料が誕生したことが、烏龍割り(ウーロンハイ)や緑茶割り(緑茶ハイ)など「お茶割り」の浸透に強く関係しているとも言われています。

 

近年は食文化とともにお酒の飲み方も多様化し、他方で抹茶は世界的な人気に。また、2016年にオープンした「茶割」(東京都・目黒区)が100種の「お茶割り」を提供する独自性で話題になるほか、2019年には「抹茶ハイフェスティバル」が開催されたり、2022年には「一般社団法人日本お茶割り協会」が設立されたり。すそ野はますます広がっています。

 

なお、「お茶割り」もチューハイやサワーと同様に明確な定義はありません。こちらについては本シリーズ「『チューハイ』ってどんなお酒? その歴史や魅力を深掘りする噺」で触れているので、ぜひ一読を。さて、以下から本題へ。松木さんに「緑茶」の基礎知識から教えてもらいました。

 

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『緑茶』は日光の浴び方で大きく2種に分類される

倉嶋 松ちゃんには「古典酒場部」の講座を受講してもらっていますが、今日は私が生徒ということで、よろしくお願いします。まずは『緑茶』の種類から教えてください。

 

松木 はい。倉嶋編集長に教えるなんて大変おこがましいのですが。まず、種類はたくさんあるんですけど、大きく分けると2つ。茶畑に覆いをする「覆下園(おおいしたえん)」と、覆いをしない「露天園(ろてんえん)」があります。「覆下園」は日光を遮断するので、渋みは少ない一方うまみ豊かでまろやかな味に。「露天園」は日光を十分に浴びるので、渋みや爽やかさが特徴です。

↑覆下園(左)と露天園(右)

 

倉嶋 なるほど! 覆いをするかどうかで味が変わってくるんですね。

 

松木 はい。茶葉に含まれるアミノ酸のテアニンが変化するんですね。アミノ酸はうまみ成分ですが、日光を浴びることで渋味成分であるカテキンになるんです。

 

倉嶋 カテキンって、健康茶によく含まれてるやつですね。確かポリフェノールの一種で。

 

松木 そうそう、それです。で、より具体的なお茶の分類としては、「覆下園」には『玉露』『碾(てん)茶(抹茶)』『かぶせ茶』などがあります。「露天園」は『煎茶』や、九州や伊豆で主流の『玉緑茶(ぐり茶)』、『ほうじ茶』『玄米茶』『番茶』などですね。

 

品質の善し悪しを決めるポイントとは?

倉嶋 こうしてあらためて聞くと、種類が豊富ですね。

 

松木 ただ「覆下園」は覆いをする手間もかかるので、生産量として圧倒的に多いのは「露天園」です。

 

倉嶋 それに、価格も「覆下園」のほうが高いでしょ?

 

松木 基本的にはそうですね。また、同じ茶葉でも摘み方や製法によって価格はさまざまです。見た目だけでもかなり差があって、今日は比較でわかりやすいように2種類の『煎茶』を用意しました。

↑左が安価な茶葉。右が高級な茶葉

 

倉嶋 ほんとだ、左右でまったく違う! 右の、色ムラがなく濃いほうが高級でしょ?

 

松木 ええ、右の茶葉は3倍ぐらい高価ですね。グレードのチェックポイントとしては5項目。①形状、②ツヤ、③香気、④水色(すいしょく)、⑤滋味です。この違いは何で生まれるかというと、ひとつは若さ。大前提として、若い芽のほうが小さくて細く、ツヤがあります。

 

倉嶋 確かに。それに高級なほうは色の濃さだけではなく、パリッとした感じもありますね。でも、茶葉は小さいほうがいいのですか?

 

松木 大きくなると雑味に通じる繊維質が増えますし、針のようにきれいな形にならないんです。

 

倉嶋 そういうことなんですね。あと、高級なほうが茶葉を丁寧に選別してるということでしょうか?

 

松木 それもあります。こちらはその年の最初に生育した若い新芽、つまり一番茶だけを摘んでさらに選別したものですね。一方の安いほうは茶葉の若さや大小はあまり気にしていないのでバラつきがありますし、色の淡い茎の部分も入っています。

 

倉嶋 なるほど、このちょっと太くて淡いのは茎なんですね。

 

 

茶葉の味を比べてみる

松木 淹れて比べるとまた面白いですよ。ちょっと待っててくださいね。

↑茶こしで淹れている状態。左が安価な茶葉。右が高級茶葉

 

↑安価な茶葉(左)は色が濃く沈殿物も多い。高級茶葉(右)は色味も鮮やかで沈殿物が少ない

 

倉嶋 わっ、見た目は高級なほうがクリアで鮮やか。あと、沈殿が少ないんですね。

 

松木 沈殿しているのは茶葉から出る粉です。高級なほうは茶葉を選別する際に粉も取り除くんですよ。粉が少ないぶん、雑味も出にくくなっています。ちなみに、今日は比較用にあえて熱湯で淹れました。

 

倉嶋 比較するには熱いほうがいいんですか?

 

松木 適温は茶葉によって様々なんですけど、『煎茶』でうまみを豊かに感じるには70~80℃が目安なんです。ただ今日の『煎茶』を70~80℃で淹れると、若い茶葉のほうが良さが引き立つので、フェアじゃないというか。一方、90℃近い熱湯で淹れると苦みに通じるカテキンやネガティブな味覚成分が出やすくなって、茶葉そのものの実力を感じやすいんです。

 

倉嶋 なるほど、そうなんですね! そして確かに、味も全然違いますね。高級なほうが香りが清々しく、苦みも凛々しくて美味しいです。

 

松木 味が鮮明で、フレッシュなニュアンスもありますよね。

 

倉嶋 でも、こうしてじっくり味わってみると、意外に『緑茶』って酸味は感じないんですね。

 

松木 それは、よく言われる発酵の違いによるものです。日本の『緑茶』は“不発酵茶”なので、比較的酸味は少ないんですよ。有名な分類ですと、『紅茶』は“発酵茶”で『烏龍茶』は“半発酵茶”。これらは発酵されているぶん酸味を感じる特徴があります。

 

お酒に茶葉を漬け込んだ自家製の「お茶割り」

倉嶋 お茶については良く分かってきたので、いよいよ「お茶割り」が飲みたくなってきました(笑)。ちなみに、「襤褸」ではどのような「お茶割り」を出しているんですか?

 

松木 うちのお店は炭酸水を使う「お茶ハイボール」がスタンダードなんですけど、ベースのお酒は、甲類焼酎やジンにあらかじめ茶葉を漬けこんだ自家製。いくつかのフレーバーを用意し、メニューに応じて炭酸水で割って提供しています。

倉嶋 お茶とお酒を別々に合わせるわけではないんですね。そのベースのお酒はどのように作ってるんですか?

 

松木 酒燗器を使い甲類焼酎などの温度を上げることで、茶葉から狙った量の味わいを抽出しています。でもネガティブな成分が出ないよう、浸出する目安は5分ですね。

 

同じお茶でも焼酎が違うと味がガラッと変わる!

ここからは講師をいったんバトンタッチ。「宝焼酎」など「蒸留酒」の開発担当者である宝酒造 商品第一部 副部長兼技術課長の高橋悠典さんと、「宝焼酎のお茶割りシリーズ」や「寶 抹茶ハイ」など焼酎ベースの「ソフトアルコール飲料」を手掛けている商品第二部 技術課長の大崎学さんのおふたりです。

 

倉嶋 次は「焼酎×緑茶」についてということで、よろしくお願いします。

 

高橋 説明する前に、まずは飲んで頂きましょうか? そのほうがわかりやすいと思うので。今日は焼酎の違いで「お茶割り」の味がどう変わるかを体験いただきたく、当社の「極上〈宝焼酎〉」と宝焼酎「タカラモダン」を用意させていただきました。

↑宝酒造 商品第一部 副部長兼技術課長の高橋悠典さん

 

倉嶋 待ってました!

 

大崎 松木さんには事前にお願いして、2種類の「宝焼酎」に先ほどの高級茶葉をつけ込んだものを本日のベースのお酒として準備してもらっています。

↑宝酒造 商品第二部 技術課長の大崎学さん

 

倉嶋 ありがとうございます!

 

松木 では、作っていきますね。

 

 

高橋 「極上〈宝焼酎〉」は樽貯蔵熟成酒を3%ブレンドしており、まろやかな口当たりとコク深い味わいが特徴。「タカラモダン」は当社の独自技術でやわらかな味わいを表現しており、ほのかな甘みやカドのないクリアなキレが魅力です。アルコール度数はどちらも25%ですね。

↑「極上〈宝焼酎〉」(左)、宝焼酎「タカラモダン」(右)

 

松木 「タカラモダン」はピンク色のかわいらしいラベルデザインも素敵ですよね。編集長、まずはこの「モダン」のほうから飲んでみてください。どうぞ。

 

倉嶋 うん! 『緑茶』の清々しい香りがフレッシュで、爽やかな味わいですね。キレも良くてすっきりしているから、これは暑い日に飲みたい!

 

松木 茶葉の爽やかな風味を感じる「お茶割り」ですよね。では次に、「極上〈宝焼酎〉」のほうを飲んでみてください。

 

倉嶋 あっ、これはよりお酒のまろやかなコクを感じる味わいで、余韻に多層的な香りが伸びてきます。より「お茶割り」としての膨らみが出て、お茶の甘い香りと極上な宝焼酎の持ち味を感じる美味しさですね。

 

高橋 先ほど松木さんがおっしゃっていたように、『緑茶』にはうまみの素であるアミノ酸をはじめ、さまざまな成分が含まれているんですね。これは樽貯蔵熟成酒も同様で、うまみや甘み、香りなどさまざまなものが含まれます。その成分が調和して引き立て合ったり、一方で欠けている味を補ったりすることで美味しさが生まれているのだと思います。

 

大崎 補うというのは、例えば渋味のカドをまろやかな甘みでおいしい苦味に変えていくようなイメージですね。

 

倉嶋 樽貯蔵熟成酒は以前に宮崎の黒壁蔵で勉強させていただき、それまで甲類焼酎は無色透明で味わいに違いはないと思っていた私の価値観がガラリと変わりました。約85種類あるという樽貯蔵熟成酒は、宝酒造の甲類焼酎の味の要ですよね。

 

【関連記事】
焼酎の味わいを決める「樽貯蔵熟成酒」について宮崎・高鍋で学ぶ噺

 

松木 並べて比べて見ると、同じお茶と透明な甲類焼酎の組み合わせなんですけど、「モダン」のほうが少し色が濃いんですよね。これも面白いと思いました。

 

倉嶋 ほんとだ! これは何でですか?

 

高橋 「極上〈宝焼酎〉」のほうは樽貯蔵熟成酒が3%入っているためpH(※)などの微妙な違いが関係しているのかもしれませんね。

※水素イオン指数。溶液の酸性・アルカリ性の程度を表す物理量。

 

松木 なるほどー! でも今回2種試してみて、「お茶割り」にすることで焼酎の味の違いがよりわかる気がしました。

 

倉嶋 うん、それぞれの焼酎の特徴がはっきり出てくる印象ですよね。お酒好きの人には、どっしりとした「極上」のほうなのかなぁ。

 

松木 はい。1杯目に爽やかな「タカラモダン」のほうを味わって、あとはじっくり「極上〈宝焼酎〉」の「お茶割り」で楽しむのはいい流れだと思います。

 

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美味しい「お茶割り」を作るコツ

倉嶋 今日は最後、松っちゃんに美味しい「お茶割り」の作り方も教えてほしいです。

 

松木 すべてのチューハイに共通するのは、よく冷やすことですね。焼酎も割り材も冷やし、氷は溶けにくいロックアイスがオススメです。冷たいお茶に関しては、市販されているもので構いません。

倉嶋 そっか、お茶を淹れて冷やしてとなると、手間がかかりますよね。

 

松木 もし淹れる場合は、『緑茶』の湯温はやっぱりアミノ酸が出やすい70~80℃がオススメです。ただ、『ほうじ茶』は高温でもOK。『ほうじ茶』の場合は高温抽出すると香りが立ってくるのと、渋味のもとになるカテキンがそこまで出ないんです。

 

倉嶋 『緑茶』は水出しでもいいのでしょうか?

 

松木 いいと思いますよ! 水出しはまろやかな口当たりになる特徴がありますからね。あと、もし『玉露』を使うなら、『玉露』ならではのまろやかさがいっそう際立つ水出しはオススメです。

 

倉嶋 まろやかな味わいかぁ。「極上〈宝焼酎〉」とかスゴく合いそう。つまみはおにぎりかなっ!

 

松木 いいですねぇ! 編集長もご自宅で、ぜひ試してくださいね。

 

「お茶割り」は夢のような飲み物

大崎 もっと気軽に「お茶割り」を楽しみたいときは、ぜひ、宝焼酎の「お茶割りシリーズ」もお試しください。

 

倉嶋 そうですね! これなら、なんの準備もなく「お茶割り」を楽しめますね(笑)

 

高橋 「宝焼酎のやわらかお茶割り」は、アルコール度数を4%に設定していますが、『緑茶』の美味しさを引き立て、お酒としての飲みごたえが感じられるように、バランスを調和させていくのが腕の見せ所ですね。

 

大崎 「茶葉」は、うまみや渋味といった味わいに層がある、『煎茶』の一番茶を一部使用しています。そのうえで意識していることは、飲み飽きないクリアなおいしさですね。『緑茶』の清々しい香りや味が焼酎のコクと響き合う、清涼感のある美味しさを目指しました。

↑宝焼酎の「お茶割り」シリーズ

 

倉嶋 お酒感があって飲み飽きないなんて、お酒好きにはうってつけってことかぁ。

 

松木 源実朝(みなもとのさねとも・鎌倉幕府の第三代将軍)が二日酔いで苦しんでいたとき、お茶を飲んだら収まったなんていう話が『吾妻鏡』に書かれていると聞いた事がありますけどね。

 

倉嶋 糖質ゼロのお酒だし、おまけに酔い覚め爽やかとは、「お茶割り」は夢のような飲み物ですね(笑)。

 

今回は、お茶の種類の違いから、品質の善し悪しを決めるポイントをはじめ、焼酎メーカーと飲食店、双方からプロのこだわりを学んできました。「お茶割り」は、ベースとなる焼酎を変えるだけでもガラリと味が変わりますし、「ほうじ茶」や「玉露」など、自分で淹れたお茶で違いを楽しむのもアリ。今回学んだことを参考に、ぜひ皆さんもいろいろと試してみてくださいね。次回の「意外と知らない焼酎の噺」もお楽しみに!

 

 

<取材協力>

酒と茶と 襤褸 (らんる)

住所:東京都墨田区向島2-10-11 南山ビル 1F
営業時間:17:00~22:00(L.O.21:00)
定休日:水曜

※価格はすべて税込みです
※営業時間等に関しましては、店舗にお問い合わせください(取材日:2023年6月7日)

 

撮影/我妻慶一

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・極上〈宝焼酎〉
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/lineup/gokujo-takara-shochu.html

・宝焼酎「タカラモダン」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takaramodern/

・宝焼酎のやわらかお茶割り
https://www.takarashuzo.co.jp/products/soft_alcohol/ochawari/

・宝焼酎の濃いお茶割り〜カテキン2倍〜
https://www.takarashuzo.co.jp/products/soft_alcohol/ochawari/

・宝焼酎の烏龍割り
https://www.takarashuzo.co.jp/products/soft_alcohol/ochawari/

 

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