300日食べ歩きライター藤井存希の、美味しかったらUP 【GNW編】 第1回 「Celaravird(セララバアド)」
食ライター・藤井存希です。大学時代におこなった官能検査で、“旨み”に敏感な舌をもつことがわかり、国内外食べ歩いて早20年弱。「300日食べ歩き」してるなかで、「美味しかったらUP」する連載がスタートです!
情報誌の編集部にいたころから、「取材したお店」や「雑誌に載ってたお店」が“本当に美味しいのか?” は、疑問に感じていたところ。“取材に行ったら=記事にしなくてはならない”というジレンマを抱え、ならば……プライベートで食べ歩いて、本当に美味しかったときだけ記事にできないかな? という、webならではの美味しい連載です!
記念すべき1回目に取り上げるお店は、近年グルメ界を賑わす「ガストロノミー」の最高峰レストラン「Celaravird(セララバアド)」。「世界のベストレストラン50」で第1位に5回選ばれているスペインの「エル・ブジ」と、同じく第1位を4回受賞するデンマークの「ノーマ」。それぞれドキュメンタリー映画が公開されるほどレジェンダリーなこの2店で、料理経験を積んだ橋本宏一シェフが開いたお店です。代々木上原駅から徒歩10分程と、周りにはお店など見当たらない高級住宅街に位置するけれど、予約はなかなか取れない人気ぶり。私も今夏以来、3か月ぶりの訪問です。
そもそも「ガストロノミー」とはなんぞや? というあなた。一言でいうならば「分子レベルで研究された美食学」であり、一見で伝えるならばドライアイスのようなモクモクの白煙なので、まずは動画から。
森の朝
メニュー名の通り、朝露に包まれているようなしっとりとした湿度を感じながらいただくアミューズ。白煙の正体は、液体窒素です。
「ポップコーンみたいに手掴みで」と言われ、中央の緑の物体を口に運ぶと、舌のうえで途端に消えるけれど、アボカドやピスタチオの緑深い味だけがほんのり甘く残る……! ガラでもないけど、森のなかで大きく深呼吸した感覚です。
スパークリング マスカット
「これ動画で撮る意味あった?」と思ったアナタ、よく見て!! パチパチ言ってません? マスカットに二酸化炭素が注入され、口のなかでもシュワッシュワッと弾けます。
さて、こんな驚きから始まるディナーコースを、さらに動画でご紹介。
「Autumn Menu 2016」と書かれた落ち葉をそっと……と促されるがまま、一片を持ち上げると……キャーーー! 落ち葉の一枚一枚に本日のメニューが! 「森の朝」や「落ち葉の森」などイメージを掻き立てる料理名もあれば、「Heidi(ハイジ)」「豚」(!)なんてネーミングセンスも。
そうそう、セララバアドが面白いのは、アルコールペアリング4500円はもちろん、ノンアルコールペアリング3500円も選べること。料理に合わせて、選ばれしソフトドリンクも紹介していきます。
ノンアルコール1杯目 ジュニパーベリーの甘いジュース
「ジンの香り」として知られる松の実「ジュニパーベリー」から抽出した、スッキリとした甘さ。
落ち葉の森
落ち葉や松ぼっくりが敷き詰められたガラスBOXをお皿に。左からアスパラガス、トリュフに見立てたコロッケ、そのトリュフを探す豚(昭和生まれのおやつ「おっとっと」を彷彿!)、巨峰に見立てたフォアグラ!! 「ほっこりする~」と森ガール気分を楽しんでると「豚」に封じ込められたローズマリーオイルのピリッとした辛みが、アラフォー女を我に帰らせてくれた……。
Heidi(ハイジ)
ハイジの食卓をイメージしたというチーズパンとキノコスープです。あらゆるものからインスピレーションを感じるんだなぁ、と改めて感動。数種類のキノコの食感とともに、滋味深いエキスがたっぷり滲み出ているのを感じました。
ノンアルコール2杯目 梨とバジルを塩で仕上げたドリンク
「なんで3種の味がきちんとするのに、こんなバランスいいんだろ?」と、ワイン派の友人に「飲んでみて」「もう一回飲んで」としつこく試飲させたほど、このドリンクが一番気に入りました(その友人からも「この味は衝撃!」と感動を引き出せました)。
才巻海老・大麦
才巻海老のエキスで炊き上げた大麦に、緑のソースはニンニク、パセリ、アーモンドオイル。ちなみに海老は小さい順に、小巻き、才巻き、(中)巻き、車、大車、と呼ばれるように、「才巻海老」とは、車海老のやや小さいサイズといったところ。
ノンアルコール3杯目 人参とパッションフルーツのジュース
単体ずつではけっして季節ものでもないのですが、人参にパッションフルーツが掛け合わさったら、秋らしい味覚になっていたから不思議。ちなみに、夏に訪れたときの「パプリカと生姜のジュース」は、ひと口めは正直ギョッとしたのですが、魚介のお皿を食べてから飲んでみるとジュースの味が変化していて、飲み進めるのが愉しかったことを思い出した……。
丹波黒鶏・ほおずき・藁
写真のほおずきを持ちあげると、ガラスの器に開いた穴から鶏肉が藁で燻された香りが、ほわ~んッと広がります。燻した鶏肉はチーズのような芳醇な旨みを放ち、ホオズキが甘くとろけてからむので、数秒酔いしれたほど…。枝に見えるのは、カレー粉などスパイスを効かせたシュー生地です。
食後にシェフが「今日は何か印象に残ったお皿ありましたか?」とテーブルを周ってくれるのですが、私はすぐさま「鶏とほおずきを一緒に口入れてたら、びっくりするほど美味しかったです!」と感動を露わにしたのが、このお皿。
豚
セレ豚に、付け合わせはマコモダケとタマネギ。牛ハラミのような弾力があるのに柔らかく、いつもは苦手な脂身まで美味しく……。「ほんとに豚なの?」「でもメニュー名が‘豚’以外ないものね……」と自問自答。
ノンアルコール4杯目 柿とミントのジュース
上澄みはミントのさっぱり感でお肉の口直し。底に近づくほど、溜まった柿の甘みはデザートワインみたいに二段階で楽しめました。
栗・チョコレート・どんぐり
栗から作られた0.1ミリほどの極薄のシートを割ると、どんぐりのアイスクリームとチョコのムースが。パリパリと割った楽しさよりもさらに、3種が合わさったときの味わいは越えてきます。
トリュフ・ライチ ジャスミン・オリーブオイルグミ
ガストロノミーの終演を伝えるのは、恒例の可愛いお菓子の缶。手前から時計まわりに、ライチとジャスミンのマカロン、栗のフィナンシェ、オリーブオイルのグミ、黒トリュフに見立てたトリュフチョコ……、と思ったら、見かけだけじゃなかった! チョコレートとして味わった後にトリュフの香りが口いっぱいに残るほど、本物の黒トリュフがふんだんにまぶされていました。
こちらの秋のコース(10品~12品)は、飲み物・サ料は別で、ディナーコース7800円(税別)。冬メニュー以降、コース料金が若干上がるとのこと。
話題先行型のガストロノミー店では、1万5000円~2万円くらいのコースが中心のわりに、見た目の驚きや仕掛けしか記憶に残らないお店が多いため、一度体験すればリピートする必要のないお店がほとんどですが、セララバアドは奇をてらい過ぎず、驚きよりも美味しさを記憶できるお店です。
でも、次の予約お願いしようとしたら、冬メニューが予約終了していて、来春ですって…(涙)
― shop data ―
セララバアド Celaravird
住所:東京都渋谷区上原2丁目8-11 TWIZA上原 1階
交通:東京メトロ千代田線ほか 代々木上原 駅北口 徒歩8分
営業時間:18:30~22:30(要予約)
定休日:月曜日を中心に月6回
【URL】
セララバアド http://www.celaravird.com/