流麗な3DCG、カラー液晶、ぐりぐりとした操作感のコントローラー、臨場感あふれる効果音――これらは最近の携帯ゲーム機では当たり前の機能やハードだろう。
しかし今から33年ほど前、モノクロ1行表示の液晶画面を持ち、1から0の数字とわずかな記号だけでシューティングゲームのできる“電卓”が販売されていたのをご存知だろうか。
創立60周年を迎えたカシオ計算機(以下、カシオ)は、「電卓の日」の翌日3月21日から5月10日まで「学びと遊びの電卓・電子辞書展」を開催する。事前にプレス向け説明会が開催され、会場となる樫尾俊雄発明記念館(東京・世田谷)を訪れた。
学びツールの電卓に“遊び”をプラスアルファ
電卓にプラスアルファの機能をもたせたい、ということでカシオは1975年にバイオリズムを測れる「バイオレーター」を、翌年にはストップウォッチやアラームなどの時計機能を搭載した「でんクロ」、1979年にはメロディ演奏のできる「カシオ メロディー」を発売。
そしてついに1980年にカシオ初となるゲーム電卓「MG-880」が発売された。これは冒頭で触れたように、わずか1行の液晶画面に防御側(砲台)と攻め寄せる敵キャラクターを数字で表示し、電卓にもともと備わっているキーを利用して撃ち落とすというシューティングゲーム機能がついたもの。
「ゲーム性には何が含まれるでしょうか」とカシオ コーポレートコミュニケーション統括部広報部 渡邉彰氏。「防御、せめぎあい、追い詰められる局面、逆転……開発陣がかなり考えたこのような要素を盛り込み、数字で表現したのがこのゲーム電卓なのです」。
やがて占い、囲碁、アニメーションをはじめて使用したボクシングゲーム搭載電卓を発売。どれも中身は一般電卓と同じチップで表示するものが違うだけだという。
「のせるプログラムを変えることでドットの表示を変えてゲームに仕立てた」と渡邉氏。しかしハードウェア的に制約があるため「高低2種類の音で効果音を作るのに、開発者は苦労したようだ」とその舞台裏を明かした。
わずか2年後の1982年8月には、電卓機能のない携帯ゲーム機を発売。当初、月産10万台体制を敷いていたが10月には月産30万台に到達したという。
その後、携帯できるゲーム機としての役目を終えたゲーム電卓は、1980年代後半に生産終了し、現在ではより生産性を追求した電卓の開発に戻っているという。
日本とは異なる海外の電卓事情
“電卓”と聞くと数字を扱う製品なので、多くの人は「理数系向け」というイメージを抱くかもしれない。実際、カシオでは1950年代からルート(開平)、三角関数などの計算を行える科学技術用計算機を、1972年には関数電卓を開発してきた。
カシオ計算機 CES事業部長 太田伸司氏は「海外では新入学や新学期前の季節になると関数電卓がショッピングセンターに並ぶ。その様子はさながらランドセル売り場のよう」と述べ、「学生たちにとってなくてはならない持ち物のひとつのため、1年で2500万台売れている」と、関数電卓の海外事情について説明した。
日本では“難しい計算も手計算で”が主流のため、ほとんどの中高生にとってあまり馴染みのない関数電卓だが、海外の学生にとっては必需品。定期試験の際には筆記用具と同じく持ち込まないと試験を受けられないという。
「グラフ関数電卓があれば何も勉強しなくてもいいか? 答えはノーです」と語るのは長野県総合教育センター 新井仁氏。「関数電卓に打ち込むプロセスを考えるのは学生たち。そのようなプログラミング的思考を培うのにも一役買いますし、考えた方法が正しかったかどうかが瞬時にわかるのも関数電卓の強みです」と、端末が学力向上の妨げになるどころか、学校教育における関数電卓の利用によって開ける未来についても説明した。
日本の学生でカシオの電卓とお馴染みがあるのは、
カシオは、現在の「EX-word(エクスワード)」シリーズの前身となる、電卓に英和・和英辞書機能をもたせた簡易電子辞書「TR-2000」を1981年にリリース。実はこの製品、筆者が子どものころ、新し物好きな父親が「ただの電卓と違うんだぞ。辞書にもなるんだ」と買ってきてくれた思い出がある。
2020語の英単語や熟語を収録していたTR-2000から36年。最新の電子辞書「EX-word XD-G20000」では紙の辞書である英和大辞典や英和・和英・英英辞典、ビジネス英語や会話集を収録しただけでなく、デジタルならではの特性を活かし、コンテンツのカラー化、動画化、音声化なども行っている。
さらに、ユーザーの発音を文章単位で分析・採点する発音機能やスマートフォンと連携したネットワーク学習機能も搭載。学生だけでなく、語学を学ぶ社会人にとっても役立つ端末といえそうだ。
いずれの製品も、国内外を問わず学校現場に出かけて教師や生徒たちからのフィードバックを得ていると太田氏。
「関数電卓では、国によって授業のカリキュラムが違うからそれに合わせて開発しますし、日本での利用者の多い電子辞書の場合、数万するようなハードなのに割と乱雑に扱われがちなので自転車で踏んでも壊れない程度には頑丈な作りにしています」
電子手帳・辞書部門で2016年まで13年連続シェアナンバーワンなのもうなずける。
ゲーム電卓の体験も可能!
期間限定で開催される特別展「学びと遊びの電卓・電子辞書展」では、「数の部屋」にて歴代の関数電卓や電子辞書に加え、これまで発売された約20点のゲーム電卓から8点を展示。そのほか「時の部屋」や「音の部屋」では通常の収蔵物を見ることもできる。なかでも341個の金属片「リレー」によって計算を可能にした世界初の電気式“卓型”計算機「14-A」は一見の価値あり。
ほとんどの収蔵物には手を触れられないが、特別展示されているゲーム電卓は実際に触れて遊べるという。現在のようなリアリティあふれるゲーム機とは一味違う、ノスタルジックなゲームを体験してみてはいかがだろうか。
特別展「学びと遊びの電卓・電子辞書展」詳細
日時:2017年3月21日〜5月10日 9:30〜16:30
入館料:無料
見学申込:Webサイトからの完全予約制(1時間あたり上限10人)
休館日:土日祝日(休日営業もあるため詳細はWebサイトで確認)
場所:樫尾俊雄発明記念館
東京都世田谷区成城4-19-10