「週刊GetNavi」Vol.28-1
1月、ソニーが自社のオーディオ機器に新しい「技術」を発表した。それが「LDAC」だ。LDACは、Bluetoothでより高音質なオーディオを伝送するための技術である。シンプルに言えば、この技術を採用することで、いままでのBluetoothヘッドホンやBluetoothスピーカーよりも音が良くなる。筆者も聴いてみたが、その価値は非常に高い。Bluetoothによるワイヤレス伝送はとても便利なものだが、音質面では問題が多い。データを圧縮して伝送するため、高音も低音も押し込められてしまい、伸びの悪い音になってしまうからだ。カジュアルに聴くにはいいのだが、お世辞にも「いい音」とは言えない。しかしLDACになると、その印象は一変する。全体の伸びが良くなり、はっきりと「いい音」に変わるのだ。
ソニーがLDACを開発した理由はシンプルである。Bluetooth機器が広がり、良い音で聞きたいニーズは高まっている。有線の世界で、ソニーはハイレゾでの高音質な体験を訴求している。だが、スマホでもウォークマンでも、どんなにいいヘッドホンやスピーカーを使おうとも、Bluetoothによるワイヤレス接続になった瞬間、音のクオリティは大きく下がってしまう。それではアンバランスだ。だから高音質なLDACを開発したのである。
音声信号のやり取りは、有線接続はアナログだが、Bluetoothのワイヤレス接続はデジタル。ワイヤレス伝送中の「伝送方式」によって音質が決まる。LDACはより高音質な伝送方式であり、結果音が良くなる……と思えばいい。LDACを使ったとはいえ、ハイレゾの音がハイレゾ高品位なクオリティのままBluetoothで聞けるわけではない。しかし、ハイレゾ音源の良さを大きくスポイルすることなく、ワイヤレスの快適さを持ち込むことができる。
LDACでの高音質な伝送を体験するには、機器がLDACに対応している必要がある。送信する機器と受信する機器、例えばプレイヤーとヘッドホンの両方がLDACに対応している必要がある。そうでない場合、いままでと変わらない。ソニーはまず自社の製品にLDACを積極的に採用していくが、自社だけに止めるつもりはなく、他社にも積極的にライセンスするつもりだという。LDAC採用になっても、ソニーの新型ワイヤレス機器の価格は上がっていない。LDACは高価なパーツを必要とするような技術ではなく、どちらかといえばソフトウェア的なものだ。ソニーと他メーカーとの間で合意が進めば、Bluetoothの音を良くする一つの技術として利用が広がる可能性は高い。
「なるほど、そういう新しい規格なんですね」
だが、正確にはそうではない。「規格」という言葉で表せない別のものであることが、Bluetoothの複雑さであり、わかりにくさでもある。
Bluetoothの音を良くする技術はLDACの他にもいくつかある。また、Bluetoothに似ているが、ワイヤレスで音質を向上させる製品は存在する。それらとLDACがどう違うのか、Bluetoothにおける「オーディオ伝送」の複雑さとはなにかついては、Vol.28-2以降で改めて解説していきたい。
Vol.28-2へつづく
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