「週刊GetNavi」Vol.62-2
ノートPCの歴史は、小型化と消費電力低下の歴史、といっていい。いまでこそ、1kg前後で7時間程度動作するノートPCは珍しくなくなったが、こうした状況になったのもほんの数年前のことである。
ノートPCのバッテリー動作時間が伸びた理由は、主に3つある。ひとつは、もちろんCPUの消費電力が下がったこと。2つ目は、バックライトがLEDになり、ディスプレイの消費電力が下がったこと。そして3つ目が、各種デバイスのサイズが小さくなり、同じボディサイズの中に、より大容量のバッテリーを搭載できるようになったことである。
実は、PC全体におけるCPUの消費電力は、そこまで大きくないのだ。一般的にはCPUの関与度は3分の1程度と言われており、残りの3分の1がディスプレイ、さらに残りがほかの回路、といわれている。
CPUやディスプレイの省電力化は確かにインパクトがあるのだが、CPUを10%省電力化しても、それだけでは極端に大きな影響が出ない……というのも事実。いまやノートPCの省電力化は、あらゆる部分が協調して初めて実現できるものになってきている。
Snapdragonを採用した「Arm版Windows 10」を使ったPCは、動作時間が20時間以上と、一般的なノートPCに対して劇的な長時間駆動を実現している。それが可能になった理由も、実はCPUだけにあるのではない。正確にいうと、Snapdragonというプロセッサーを採用することは、単に「CPUを変えた」こととは異なる特性を持っているのである。
Snapdragonのようなプロセッサーは、俗に「システム・オン・チップ(SoC)」と呼ばれる。SoCとは、CPUやGPU、メモリーコントローラーなど、機器を構成するために必要な要素をまとめたものなのだ。一般的にスマホに使われるSnapdragonの場合には、上記のほかにLTE/Wi-Fi通信用のモジュールや動画・音声などの再生支援機能、セキュリティを扱うための暗号化回路も含まれる。
これらは協調しあって動作しており、一方で、すべての部分が常に動いているわけではない。だからスマホ向けのSoCは、こまめに作業や用途に合わせて動作をコントロールし、消費電力をとにかく下げるよう工夫されている。PCのCPUも同じような仕組みにはなっているのだが、PCのように大きなバッテリーを搭載できず、バッテリーに対する要求がさらに厳しいスマートフォンでは、そうした「全体的なコントロール」がよりシビアに行われており、その結果、バッテリー動作時間を長くすることができているのだ。
一方で、もちろんデメリットもある。処理能力だ。SoCの性能は、PCのCPUやGPUほど高くないし、長時間トップスピードを維持するのも難しい。PCに搭載する場合は、OS側でのエミュレーションも利用されるので、アプリ自体の動作速度はどうしても遅くなる。ゲーム向けPCやクリエイター向けPCへの採用は難しく、そのへんは既存のシステムとの棲み分けとなるだろう。
では、Arm版Windows 10を使ったPCはどのくらい普及するのだろうか? これについての予想は次回のVol.62-3以降で。
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