「週刊GetNavi」Vol.74-3
決済サービスは「日銭」のビジネスだ。決済を使う人が多くなり、決済額が大きくなるとビジネス価値が高まる。一方で、大きな額を扱うものと小さな額を扱うものでは、特性がまったく異なる。大きな額を扱う場合、保険、ローンなどと紐づくことが多い。安全性を確保するためにも決済手数料がそれなりにあっても許容されやすく、収益をあげやすい。ただし、導入場所は限られるし、決済額の伸びも一定以上には大きくなりづらい。少額決裁の場合、手数料は上げづらく1決済で得られる収入も小さいが、非常に広く使われる可能性も高いし、定着すれば大きなビジネスにもなる。また、決済される商品はより多彩になり、人々の生活動向を把握するのも容易になるため、マーケティング上の価値も高くなる。もちろん、プライバシーについての懸念が発生しやすいので、野放図にビジネスができるというわけではない。
日本において現金とクレジットカードの間にあった隙間を埋める存在としてモバイル決済が注目されているのは、海外ではクレジットカードでも少額決済が行われているのに対し、日本ではそれが難しいからだ。アメリカなどでは、クレジットカードを主に銀行が発行しており、決済手数料だけでビジネスが行われているわけではない。一方、日本の場合、クレジットカード会社と銀行は一体ではなく、クレジットカード会社は決済手数料収入と利息で収益を得なくてはならない。だから、少額決済向けといって大きく手数料を下げるというのは難しいのだ。
上記のような状況があるため、日本の場合、少額決済を軸にするモバイル決済は、クレジットカードとは別のサービスとして育っていくことになる。
ここでもうひとつポイントになるのは「口座振込の手数料」である。前回の本連載で解説したように、決済されるたび毎日小売店に売り上げを支払うことになると、少額の振込が多数発生する。普通に銀行を介しているとモバイル決済事業者に負担がかかり、決済手数料も下げづらくなる。そのため現状は、「特定の銀行に口座を持っていると振込サイクルが短い」というシステムになっている。PayPayは、同じヤフーグループであるジャパンネット銀行に売上入金銀行口座を作ると、翌日入金かつ入金手数料がゼロ円になる。他社銀行の口座だと、振込には数日かかる上に、2019年10月1日以降は入金手数料が有料になる。
銀行がモバイル決済を持ちたいと思うのも、LINEが銀行業務への参入を予定しているのも、まったく同じ構造である。銀行とモバイル決済が一体となってビジネスをすることで、日本のクレジットカードが抱えていた弱点を解消でき、利用量の増加を促進できるのだ。
そして、もうひとつ大きな要素がある。それが「個人間送金」だ。そのへんは、次回のVol.74-4で解説したい。
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