Vol.76-2
スマートグラスは、2012年にGoogleが「Google Glass」を発表したタイミングで、一度大きな山場を迎えた。だが、それに続く大きな話題はなく、Google自身も製品を一般市場に広げることができず、ブレイクせずに終わった。
現在、スマートグラスが再び注目を集めつつあるのは、いよいよ複数の「実用的なデザインと思われる製品」が世の中に登場しようとしているからである。では、なぜこの時期に製品が出ようとしていて、過去のGoogle Glassより注目されているのか?
理由は「7年という空白」にある。
Google Glass登場時から7年の間に、機器の演算能力は大きく伸びており、技術自体も大きく進歩している。特に劇的に変わったのは、画像認識や音声認識などの、俗に「AI」と呼ばれる認知系技術。また、通信速度の高速化もポイントとなっている。これらを生かす形で出てきたAIが、すべての条件を変えたのだ。
過去のメガネ型デバイスでは位置情報程度しか使える情報はなかったが、いまは、小さなカメラやプロセッサーであっても、十分な精度で画像認識や音声認識を行える。写っているものを認識して情報を出したり、位置を合わせてCGを重ねたり、といったことが可能になっており、表示できる情報の幅が広がっている。
このほか、メガネ型デバイスはタッチパネルやマウスが使えない。だから、単体では複雑なことをさせるのが難しいが、別途操作機器を付けると大げさになる、という問題もあった。しかし、今日は音声認識での操作が現実的になっている。今後のメガネ型デバイスは、情報の検索や呼び出しなどの操作を、ある程度音声で行えるようになるだろう。
さらに大きいのは通信速度の向上だ。2012年にはまだ3Gしか普及しておらず、スマホでの情報取得にも制限があった。だが、いまは4Gでも数十Mbpsの通信速度が出る。2020年以降に普及が本格化する5Gならば、通信速度が一桁上がるうえに、通信をする際の反応速度にあたる「遅延」も短くなる。
2012年のGoogle Glassのコンセプトは間違っていなかった。だが、あまりに早すぎて、実用的な機器を作るために必要なものが揃っていなかったのである。スマートフォンの劇的な普及と開発競争が圧倒的な技術進歩を生み出し、その結果として、スマートグラスを実用的なものへと進化させる土台となったのだ。
特に大きいのは5Gへの期待である。
5Gは業界の期待を一身に背負った技術だが、一方、「通信速度が上がるだけ」という見方もあり、5Gスマホを作っても4Gとの差が見えづらい、という事情がある。だが、スマートグラスのように「いままではなかった」機器を作れば話は変わってくる。見ている場所に合わせて映像を切り換えていくには、高速な通信速度と低い遅延が望ましい。5Gを差別化するには、スマートグラスのような機器がもっとも適切で、目立ちやすいものなのである。
スマートグラス市場の本格化は2019年後半以降とみられているが、これは5G立ち上げの時期と同期している。そこを商機と考える企業が多いからこそ、時期が同じになっている、と考えるべきだろう。
では、各社はどのようなスマートグラスを考えているのか? どのような企業が市場参入を検討しているのか? そこは次回のVol.76-3で解説したい。
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