本日、VAIOのラインナップに「新スタンダードモバイル」こと、12.5型ディスプレイ搭載のコンパクトモバイルPC「VAIO SX12」が追加されました。同社はこの1月に、13.3型ディスプレイ搭載の従来モデル「VAIO S13」をスリムベゼル化して14.0型に大画面化した「VAIO SX14」を発売していますが、VAIO SX12もその流れを汲んだ、11.6型ディスプレイ搭載モデル「VAIO S11」の進化モデルとなります。
VAIO
VAIO SX12
実売価格24万2773円
VAIOの考える「新スタンダードモバイル」とは?
ただし、ただ大画面化しただけではありません。「VAIO S11→VAIO SX12」が、「VAIO S13→VAIO SX14」と異なっているのは、後者が本体サイズを極力維持して大画面化したのに対し、前者がこの機会にコンパクトモバイルPCの使い勝手を再検証・改善していること。まさに「新スタンダード」を目指した製品なのです。
そのキモとなるのが、コンパクト機でありながらキーピッチ19mmのフルサイズキーボードを搭載したこと(VAIO S11のキーピッチは16.95mm)。デスクトップPCに付属するキーボードと同等のキーピッチなので、オフィスや自宅ではデスクトップPCや大型ノートPCを使っているという人でもサイズの違いを気にすることなく快適なタイピングが行えます。
また、この7月はVAIO株式会社 設立5周年ということで、ボディを同社のコーポレートカラーである勝色(藍色)に染め上げた限定モデル「VAIO SX12 | 勝色特別仕様」も登場。今回はせっかくですので、そちらを使ってレビューしたいと思います。
コンパクト&軽量なのにフルサイズのキーボードを搭載!?
まずはモバイル志向のコンパクト機ということでサイズと重量をチェックしていきましょう。従来モデルのVAIO S11は本体フットプリントがW283.4×D195.5mmですが、VAIO SX12は、W287.8×D203.3mmとなっています。左右幅が4.4mm、奥行が7.8mm大きくなったということですね。それでもA4サイズよりは小さいので、持ち歩きに困るということはないはずです。ちなみに厚みは+0.1mm(17.9mm→18.0mm)と体感できないレベルの違いしかありません。
重量は構成によって異なるものの、いかなる組みあわせでも899g以下とのこと。VAIO S11は最大構成時で約870gだったので、こちらもやや増えてしまっていますが、このわずかなサイズ増、重量増でフルサイズキーボードが搭載できるのなら充分に納得できるのではないでしょうか。
↑レビューで試した実機はハイスペック構成だったため、実測で882g(通常モデル)、894g(勝色特別仕様)でした。勝色特別仕様がやや重いのは後述するUVコーティングなどのため
なお、本体背面にはVAIO S11同様、カーボン天板を採用。特別な素材を採用することで軽量モバイルで問題になりがちな堅牢性の低下を見事に補っています。
続いては、VAIO SX12自慢のキーボードについて。このクラスのノートPCは、本体サイズを最優先するあまり、17mm前後のキーピッチを採用する製品がとても多いのですが、先に紹介したよう本機はデスクトップPC相当の19mmのキーピッチを確保しています。
本体を開くとキーボードの奥がせり上がる「チルトアップヒンジ」構造、打鍵時の音を抑えた「静寂キーボード」など、VAIOならではの利用感の良さもしっかり継承しています。もちろん、バックライト付きなので暗い場所でも快適に使えます。
なお、勝色特別仕様のパームレストは、自然藍を含んだ染料でカラーアルマイト加工することで、あえて均一でない着色を実現。写真では分かりにくいのですが微妙にムラがあり、それが不思議な味を生み出しています。なお、VAIO曰く、個体ごとに色味も微妙に異なっているとのこと。
また、プリインストールされる「VAIOの設定」アプリでは一部のモデファイアキーのカスタマイズも可能。Windowsマシンはメーカーによって「Fn」キーの位置などが異なっているのですが、VAIOなら自分の一番使いやすい形に変更することが可能です。
さらに、ソニーストアオンラインでは、エンジニア、プログラマーを中心に支持を集める英字配列キーボードを選択可能。私も英字配列派なので(理由:格好いいから)これはうれしいところです。ちなみにVAIO SX12には勝色特別仕様のほか、背面ロゴやオーナメント部分をブラック仕様にした(通常のブラックモデルはシルバー仕様)「VAIO SX12 | ALL BLACK EDITION」も提供されるのですが(オンライン販売のみ)、こちらにはなんとキートップの刻印もなくした無刻印キーボードも用意されます。かなりピーキーな選択肢ですが「全てのブラックが漆黒に染まっていく」な人にはぜひチャレンジしていただきたいですね……。
タッチパッドは2ボタン仕様。昨今、海外メーカー製品を中心にボタンレスタッチパッドを採用する製品が増えていますが、VAIO SX12はあえて慣れ親しんだ使い勝手のボタン付きタッチパッドを搭載しています。なんだかんだでボタン付きは誤動作が少ないので、これまで通りの使い勝手を期待してる人には喜ばれるのではないでしょうか。
「VAIOならでは」の美点も盛りだくさん
ワールドワイドに展開する超大手PCメーカーを前に、今や、多くの国内PCメーカーが苦戦を強いられています。特にコスト面ではスケールメリットの点でどうやっても太刀打ちできません。そこで、多くの国内PCメーカーは独自の技術やアイデアで差別化を追求。もちろんVAIO SX12にも多くの「VAIOならではのこだわり」が盛りこまれています。
その代表例と言えるのが、モバイルCPUのパフォーマンスを限界まで引き出すと謳う「VAIO TruePerformance」。モバイルノートPCに搭載されているCPUは常に最大の性能を発揮できているわけではなく、内部に熱が籠もると自動的に速度を落とすような設計になっています。VAIOはそこに目を付け、90年代後半の「銀パソ」時代から培ってきた熱対策のノウハウによって、高い処理能力を長時間維持できるようにしました。細かい理屈は割愛しますが、それによる処理性能向上はかなりのもの(以下の動画参照)。フォトレタッチなどの重い処理はもちろん、普段使いでもはっきりと違いを感じることができました。
なお、ここで不安になる熱の逃がし先ですが、当然、キーボード面に不快な熱が漏れてくるということは全くありません。さすがに底面はほんのり温かくなるのですが、膝の上に置いて使っていても苦痛を感じない程度には抑えられています。一番熱くなるのは、本体左側面の排気口周辺ですね。重い処理をしているとファン音と共にここから熱風が吹き出しはじめます。
そしてハイパフォーマンスということでもう1つ不安になるバッテリー駆動時間ですが、こちらも最大14.5時間(カタログ値)と水準以上のレベルを確保。ただし、デフォルトの設定ではバッテリー駆動時にVAIO TruePerformanceがオフになっており、これをオンにするとやはり明確に電力消費が高まります。今回の試用ではモバイル利用時にもVAIO TruePerformanceをオンにしましたが、約3時間ネットサーフィンなど(YouTubeなども利用)を行った状態でバッテリー残量は約60%強でした。使い方にもよりますが、VAIO TruePerformanceをモバイル時にも使うと約7時間前後でバッテリーが切れるという計算になりますね。
これを充分と考えるか、足りないと考えるかは使い方次第なのですが、VAIO SX12はUSB Type-C端子を利用したモバイルバッテリー充電に対応しており、電源コンセントのない場所からでも本体を充電できます。この際、VAIOのスペシャル機能として紹介しておきたいのが「5Vアシスト充電」という機能。USB Type-Cを使ったモバイルバッテリー充電にはUSB Power Delivery(USB PD)という規格に対応した、比較的新しく、高価なモバイルバッテリーが必要となるのですが、VAIO SX12は、スマホ向けに販売されている低出力なモバイルバッテリーでも本体を充電できるのです。
出力が小さいということで充電速度はかなり遅い(あくまで「アシスト」ということです)のですが、「転ばぬ先の杖」としてとても心強い機能と言えるでしょう。ただ、全てのモバイルバッテリーが対応しているわけではないようなので要注意。筆者の環境では手持ちの3種類のモバイルバッテリーのうち1つは非対応でした。また、残りの2つも充電速度がだいぶ違っていたので(片方は15分で1%程度、もう片方は4%程度でした)、いざという時のためにあらかじめ確認しておくことをおすすめします。
そのほか、国内ビジネスシーンではいまだに利用者が多いというVGA端子や有線LAN端子などのレガシー端子をフル搭載しているのも『VAIO SX12』の美点。海外メーカー製PCはこのあたりをばっさりカットしていることが多いので、これもまた「転ばぬ先の杖」と言えるでしょう。
また、構成によってはSIMフリーLTEや指紋センサーも搭載可能。さまざまな利用スタイルに対応可能となっています。
細部までこだわり抜かれた匠の逸品。「勝色特別仕様」は一見の価値あり
PC市場がスマホ、タブレットに侵食されはじめているとは言え、まだまだビジネスシーンではモバイルノートPCが必須です。近年のVAIOはビジネス市場をメインターゲットに定めており、このVAIO SX12も随所にビジネスパーソンを意識した機能や工夫が盛りこまれています。
個人的にとても気に入ったのがフルサイズキーボードを搭載していること。筆者のようなライターにとってキーボードの使い心地は何よりも大切です。世の中にはVAIO SX12よりも軽量なモバイルPCは多数存在していますが、どれもキーボードが一回り小さく、快適とは言いがたい面がありました。これはライターでない、一般ユーザーにとっても大きなメリットになるはずです。
唯一残念に思ったのはディスプレイの仕様です。上位モデル・VAIO SX14は4K解像度を選択可能で、文字や画像をきめ細かに表示してくれるのですが、VAIO SX12はフルHD固定となっています。12.5型モデルにそこまでの解像度はいらないという判断なのでしょうが、スマホやタブレットなどの超高精細表示に慣れてしまうとやっぱり画面の粗さが気になってしまいます。さらに、これは個人的な(やや偏った)好みの話になってしまうのですが、アスペクト比(画面の横縦比)は、もう少し縦方向に余裕が欲しいと思いました。16:10あるいは3:2が好みというのは私だけではない……はず。
しかし、それ以外は非常に良くまとめられたモバイルノートPCだと感じました。かつてのVAIOが得意としていた「世界最軽量」でも「世界最薄」でもありませんが、実際に必要になる機能を持ち運びやすいサイズにまとめたことは評価に値します。外出時のパートナーとしてはもちろん、メインマシンとしても充分に活躍してくれるでしょう。
その際、ぜひ検討していただきたいのが限定販売の勝色特別仕様。写真ではなかなか伝わりにくいのですが、見る角度や照明によって表情の変わる天板など、ちょっとこれまでに見たことがないような佇まいに仕上がっています。これを打ち合わせなどに持ち込んだらすごいインパクトがありそうです。クリアUVコーティングは指紋がベタベタと付きやすいのが弱点ではあるのですが、付属のクリーニングクロスがかなりの優れもので本当にひと拭きで指紋がスッと取れてしまいます。素材から従来モデル付属のクロスと異なるそうなのですが、かなりの拭き取り力です。今回、こっそりカメラのレンズなどでも試してみましたが、手持ちのどのクロスよりもきれいに油脂汚れを落としてくれました。
また、別売アクセサリーとして勝色特別仕様のための「勝色PCレザーケース」も用意。税込2万5920円とかなりお高めなのですが、タンニンなめしということでエイジングを楽しめるのが魅力的。こちらは勝色特別仕様とは別に購入できるそうなので、通常モデルを購入するという人にもおすすめです。
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