デジタル
2019/12/11 21:30

2020年導入のAdobe新ツールに大きな期待——単純作業から解放され、日々にクリエイティブが広がる可能性大

サブスクリプションというビジネスモデルを先駆的に導入し、成功を収めたAdobe——。同社は、Photoshop(フォトショップ)をはじめとするAdobe Creative Cloud製品群のアップデートを提供し続けることで継続的にサービスの価値を高めている。同製品群に関する大きなアップデートについては、毎年開催されるクリエーター向けの祭典「Adobe MAX」にて発表されるのが恒例だ。

 

11月4日(米国時間)から開催された「Adobe MAX 2019」に合わせ、新アプリ「Adobe Photoshop iPad版」や「Adobe Aero」の提供が開始された。また、「Adobe Illustrator iPad版」や「Adobe Photohop Camera」もプレビューされ、2020年の提供が予告されている。

 

本稿では、同イベントから垣間見えたクリエイティブツールの進化のポイントについて振り返りたい。

「Adobe Sensei」による単純作業のカットと「共同編集」が、創造性を増す

まず注目したいのは、「生産性を向上させる」という視点での既存製品のアップデートだ。キーワードは、AIと共同作業の2つ。

 

キーノートで紹介されたアップデートでは、同社のAI「Adobe Sensei」を活用することで、単純作業に必要だった労力を削減する取り組みが目立った。例えば、Photoshopのデスクトップ版では、ドラッグで領域を指定するだけで、オブジェクトの境界を自動で認識する「オブジェクト選択」機能が搭載された。また、動画編集ソフトの「Adobe Premiere Pro」では横長動画素材からスマートフォン向けの縦長動画を再編集するときに、被写体がなるべく画面からはみ出ないように自動調整してくれる「オートリフレーム」機能を備えた。

↑被写体の輪郭は、自動で認識してくれるように(Photoshop)

 

↑動画の画面比率を変更したときに、被写体が画面内に収まるように自動で調整してくれる(Premiere Pro)

 

このように、従来は膨大な時間がかかった単純作業を自動化することで、クリエーターはより創造的な部分に集中できる。この流れが、最近のCreative Cloud製品に関するアップデートの主軸を担う。

 

ちなみに、開発中の「Adobe Photoshop Camera」も、この文脈に近いところで作られている。Photoshopでの編集作業を「レンズ」と呼ばれるエフェクトのパッケージによって丸ごと自動化することで、よりエントリー層のユーザーでも、合成写真を楽しめるようにしている。

 

↑MAXの会場で展示されていた「Adobe Photoshop Camera」のデモで画面をキャプチャーしたもの。被写体の輪郭(左=山、右=人)を認識し、背景や写真全体に選択したエフェクトを自動で適用している

 

デザインツールのAdobe XDでは、リアルタイムに共同編集を行える機能が追加された。複数人がチームで制作を行うことで、より効率的な作業が行えるのは言うまでもない。いまやGoogleサービスなどを活用し、クラウドベースで書類を作成することも珍しくない時代だ。クリエイティビティを支えるツールに共同編集機能が追加されるのは、当然の流れと言える。

 

共同作業は、AIに加えて今後のアップデートでも重要なテーマになると思われる。XD以外のCreative Cloud製品にも、将来的にこの手の機能が追加される可能性はあるかもしれない。

 

「移動しながらiPadでちょっと作業できる」の“ちょっと”がどんどん大きくなってきた

同イベントのキーノートでは、「Creativity For All(すべての人に創る力を)」というテーマが掲げられた。その中心を担うのが、モバイルデバイスを活用することによって「どこでもいつでも作業できる」という視点だ。背景としては、iPad Proが登場し、iPadの現行のラインナップが全てApple Pencilに対応したように、タブレットデバイスの成熟が追い風になっている。

 

具体的なアップデートとしては、Photoshop iPad版が公開されたほか、開発中のIllustratorもプレビューされた。また、iPad向けに先行リリースされていたAdobe FrescoはWindows版も提供開始となった。

↑Apple Pencilで編集できる(Phosothop iPad版)

 

↑ペンで書いた線が、ベクターデータのパスに(Illustrator iPad版プレビュー)

 

↑イラストアプリの「Adobe Fresco」はWindows版が登場

 

Photoshopシリーズに関して言及するならば、やはり数十年の歴史を持つデスクトップ版アプリに比べて、モバイル版の機能はまだまだ限定的だ。しかし、アドビとしては、まずタッチディスプレイに合わせて土台をしっかり整えることを優先している段階である。同社のプレスリリース上でも今後のアップデートによる多機能化が明言されていることもあり、早計に失することなく、長期的な視点で見守るのが賢明だろう。アドビ流のサブスクリプションビジネスとはそういうものである。

 

なお、iPad版アプリがもたらす恩恵は複数あるだろうが、従来からデスクトップ版の製品を使っていたプロユースのユーザーにとっては、オフィス環境だけでなく、電車の移動中などのちょっとした隙間時間に作業が行いやすくなることが大きい。

 

その視点で注目すべきは、クラウドドキュメントシステムに対応した効率的なファイルフォーマットだ。例えば、Photoshopでは「PSDC」というフォーマットが使われており、ファイルに変更を加える上でもなるべく余計な通信を消費しないように最適化されている。

 

期待の先進領域「AR」にも直感的なツールを用意

アドビは、ARをはじめとする「イマーシブメディア」の領域にも、力を入れている。3Dオブジェクトを作成するためのツールはすでに存在していたが、今回はこれをARの領域に拡張するためのアプリとして「Adobe Aero」を追加した。

 

同アプリは、昨年のAdobe MAXで「Project Aero」としてプレビューされていたもの。AR空間に3Dオブジェクトを配置できるオーサリングツールであり、AppleがWWDC2018で発表したAR向けフォーマット「USDZ」での出力に対応する。AR空間に3Dオブジェクトを配置し、USDZとして出力して共有すれば、対応のiOSデバイスなどで、ARを手軽に楽しめる。

 

要するにクリエーターは、Adobe Aeroを使って、コーディングなしで3DオブジェクトをAR空間の任意の場所へ配置できる。タップしたらオブジェクトが動く、といったアニメーションも追加可能だ。

 

一方、Adobe Aeroでは、ARオブジェクトそのものを作成することはできない。3D/ARのオブジェクトを作製するためには、別途「Adobe Dimension」や「Substance Suite」などの利用が必要となる。しかし、PSDファイルのレイヤー構造を維持して、立体的にAR空間に配置できるため、3Dオブジェクトの作り方などわからないクリエーターにとっても、敷居はそれほど高くないだろう。

 

ただし、注意したいのは、Adobe Aeroが登場したから一般ユーザーの間でARがすぐに流行る——という文脈は不自然だということ。いまのところは、ビジネスシーンでのコミュニケーションにおいて、ARが持つポテンシャルに投資している段階だと思える。魅力的なユースケースがどの程度出てくるのか、年単位で今後も注目し続けたい。

 

「Adobe MAX JAPAN」も盛り上がる

日本国内では、12月3日にパシフィコ横浜にて「Adobe MAX Japan 2019」が開催された。最新アップデートについて学べる講演やワークショップには、数千人単位のクリエーターが参加し、盛り上がりを見せた。なお、一部セッションはオンラインでも中継されており、現地に行けない場合でも楽しめる。

 

↑先日行われたAdobe Max JAPANの様子。若いクリエイターが多く来場していた

 

残念ながら今回は参加できなかったという人も、もしクリエーターツールに興味があるのであれば、20年のAdobe MAX Japanへの参加やオンライン視聴を検討してみてはいかがだろうか。

 

【フォトギャラリー】※タップすると写真がみられます

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